ライ麦
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ライムギ

分類

:植物界 Plantae
階級なし:被子植物 Angiosperms
階級なし:単子葉類 Monocots
階級なし:ツユクサ類 Commelinids
:イネ目 Poales
:イネ科 Poaceae
:ライムギ属 Secale
:ライムギ S. cereale

学名
Secale cereale L.
和名
ライムギ
英名
rye
Secale cereale

ライむぎ 全粒粉[1]100 gあたりの栄養価
エネルギー1,397 kJ (334 kcal)

炭水化物70.7 g
デンプン 正確性注意61.2 g
食物繊維13.3 g

脂肪2.7 g
飽和脂肪酸(0.40) g
一価不飽和(0.31) g
多価不飽和(1.19) g

タンパク質12.7 g

ビタミン
チアミン (B1)(41%) 0.47 mg
リボフラビン (B2)(17%) 0.20 mg
ナイアシン (B3)(11%) 1.7 mg
パントテン酸 (B5)(17%) 0.87 mg
ビタミンB6(17%) 0.22 mg
葉酸 (B9)(16%) 65 μg
ビタミンE(7%) 1.0 mg

ミネラル
ナトリウム(0%) 1 mg
カリウム(9%) 400 mg
カルシウム(3%) 31 mg
マグネシウム(28%) 100 mg
リン(41%) 290 mg
鉄分(27%) 3.5 mg
亜鉛(37%) 3.5 mg
(22%) 0.44 mg
セレン(3%) 2 μg

他の成分
水分12.5 g
水溶性食物繊維3.2 g
不溶性食物繊維10.1 g
ビオチン(B7)9.5 μg
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[2]


単位

μg = マイクログラム (英語版) • mg = ミリグラム

IU = 国際単位

%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。

ライムギ(ライ麦、学名Secale cereale)はイネ科栽培植物で、穎果穀物として利用する。別名はクロムギ(黒麦)。単に「ライ」とも。日本でのライムギという名称は、英語名称のryeに麦をつけたものである[3]。食用や飼料用としてヨーロッパや北アメリカを中心に広く栽培される穀物である。寒冷な気候や痩せた土壌などの劣悪な環境に耐性があり、主にコムギの栽培に不適な東欧および北欧の寒冷地において栽培される。
歴史
栽培化まで

原産は小アジアからコーカサスあたりと考えられている[4]。小麦や大麦の原産地よりは、ややの地域である。

栽培化の起源は、次のように考えられている。もともとコムギ畑の雑草であったものが、コムギに似た姿の個体が除草を免れ、そこから繁殖した個体の中から、さらにコムギに似た個体が除草を逃れ[5]、といったことが繰り返され、よりコムギに似た姿へと進化(意図しない人為選択によるヴァヴィロフ型擬態)した[5]。さらに環境の劣悪な畑では、コムギが絶えてライムギが残り、穀物として利用されるようになったというものである[5]

同じような経緯で栽培作物となったエンバクとともに、本来の作物の栽培の過程で栽培化されるようになった植物として「二次作物」と呼ばれる[5][6]。コムギ畑における強勢雑草であり、コムギの生育条件の悪い畑では、コムギを押しのけてライムギのほうが主となっている畑がみられる。

本来の野生種ライムギは種子が脱落するタイプのみであったが、コムギ畑の雑草化した時点で半脱落性化し、さらに栽培化の過程で他の穀物と同様に非脱落性を獲得し、これによって穀物としての有用性は急上昇した。ライムギが栽培化されたのは、紀元前3000年頃のコーカサスからトルキスタンにかけてと考えられている[7]
主要穀物化

ローマ帝国では、貧困者が食べるものとしていたため、一時期栽培が激減した。しかし、ローマ帝国の北部では小麦の生育条件が悪く、しばしば小麦畑をライ麦が覆うようになり、2世紀ごろにはライ麦を主目的として栽培されるようになった[8]。コムギより酸性土壌に強く、乾燥や寒冷な気候に耐えるため、スカンジナビア半島ドイツ東ヨーロッパなどでは主要な穀物として栽培されていった。中世にはオオムギに代わってコムギに次ぐ第2の穀物としての地位を確立した[9]16世紀末からは海運の改善や都市人口の増大に伴い、バルト海沿岸のライムギが輸出用作物として盛んに栽培されるようになり、とくにポーランド王国の大穀倉地帯を後背地に持つダンツィヒのライムギ交易が急増した。総輸出の約70%を占めたダンツィヒをはじめ、リガケーニヒスベルクなどのバルト海諸港から盛んにライムギが輸出され、1562年から1657年までの106年間の年間平均輸出量は8.6万トンに上った[10]。また、このライムギ交易の活況はポーランド王国の経済を活性化し、ポーランドの黄金時代を経済面から支えることとなった。一方で、麦角菌中毒(下で詳述)が中世には大流行し、591年から1789年の間に132回の流行を見た。

主要栽培地域である中央アジアおよびヨーロッパ以外への伝播は遅れ、16世紀以降にはロシア人の東進にともなってシベリアでも栽培が開始されたものの、南北アメリカ大陸やインド東アジア日本への伝播は19世紀まで起こらなかった[11]。このため、栽培の歴史の浅い日本および東アジアにおいては雑草型のライムギはほぼ存在せず、栽培種のライムギのみが生育している[12]
重要性の低下

ライムギの重要性が低下し始めたのは18世紀に入ってからのことである。このころからイギリスでは囲い込み農業革命の進展によってコムギの生産が急伸し、コムギの一大輸出国となった。これに伴い、食味に劣るライムギの輸出が急減した。バルト海からのライムギ輸出量は、17世紀前半の50年平均が13.2万トン、後半50年が11.2万トンだったのに対し、18世紀前半の50年には6.4万トンと半分以下に減少してしまった[13]

その後も、19世紀ごろまではパン用穀物としてはコムギより使用量が多かったものの、食味などの点からコムギのパンのほうが常に高級とされ、コムギの収穫量増大とともに重要性は低下していった。ライムギの主要産地の一つであり消費量も多かったドイツにおいても、1850年以降ライムギの供給量は年間一人当たり60sから80s程度で停滞し、1900年ごろには供給量は60s程度で横ばいであるものの、コムギとほぼ同量の供給量となっている。1850年にはコムギの供給量はライムギの半分の約30sにすぎなかったので、経済成長や生産の拡大などによってコムギの供給量が急伸し、ライムギの重要性が相対的に低下したことが読み取れる。その後、1940年ごろまではコムギとライムギの供給量はほぼ同量となっているが、1950年にはついに逆転され、ライムギの供給量は一人当たり約30sとなって、コムギの半分になってしまっている。しかもその後も、ライムギの供給量は急減を続けた[14]

現在ではライ麦粉は小麦粉よりビタミンB群食物繊維が多いことを認められて蔑まれることはなくなり、健康的な食物としてヨーロッパ全土で栽培されている。しかし19世紀以後、コムギの作付面積が拡大するとともにライムギは栽培面積、栽培量ともに激減し、現代においてもなお栽培は減少の一途をたどっている。生産量が少ないため、僅かな不作でも価格が急騰する事があり、昔とは逆に小麦のパンよりライ麦パンの方が高値で取引されることも珍しくない。
形態

ライムギの近縁種としては、S. montanum、S. africanum、S. vavilovii 及び S. silvestreがある[注釈 1][15]

根がよく発達し、地上面の高さは1.5mから1.8m、3mに及ぶこともある。風媒花である。ライムギはコムギやオオムギと違って他家受精植物であり、自家受精する場合は著しく収穫量が劣る[16]

コムギとは近縁であり、交配も可能である。ただし、ライムギの花粉をコムギのめしべに受粉させる場合に限り、この逆では実が稔らない[16]。もともとはコムギ畑の雑草であったため、ライムギとコムギの交雑は頻繁に起こっていた。これを防ぐため、ヨーロッパなどライムギの古くから栽培されていた地域では、ライムギとの交雑を制限する遺伝子を持つコムギが優勢となっていき、ほとんどのコムギがこの遺伝子を持つようになった。一方、東アジアにはライムギが存在しなかったため、東アジアのコムギにはこの遺伝子が存在しない[17]。この形質を利用し、コムギとライムギの品種改良がおこなわれている。コムギとの人為的な交配種をライコムギといい、一時交配では優良な品種が生まれにくいものの、交配種どうしからさらに交配させた品種からは優良種が現れることがあり、選抜して栽培される。
栽培ライムギの種子栽培中のライムギ

主に秋に蒔き、夏に収穫するが、春蒔きの品種もある。ライ麦は発芽温度が1℃から2℃と低く、低温に強いため冬作物として栽培される。秋に蒔かれたライ麦は冬を越し、春になると急速に成長する。ライ麦はほかの穀物よりも耐寒性が強いため、小麦が生育できない寒冷地においてもライ麦は成長できる。また、ライ麦はほかのほとんどの穀物よりも貧しい土壌で生育することができる。そのため、特に砂地や泥炭地などでは特に貴重な作物である。しかしこのやせ地での生育を可能にしているのは、根が深く張り巡らされて養分を地中奥深くから吸収することができるためであるため、地力を消耗しやすく、また吸肥性が高い。一方で根が深くなるために、根を張り巡らせづらい粘土質の土地では生育しにくいが、粘土質以外の土地ではたいていよく生育し、強酸性土壌でもアルカリ性土壌でも生育するなど土質をあまり選ばない[18]。砂地を好み根が深くなるため、砂丘などの土壌流出の防止に効果が高い。また、丈が高いため、成長しすぎると倒伏しやすくなる。連作障害が起こりやすいため、ジャガイモインゲンマメなどと組み合わせた輪作が行われる。

ライムギはもともとコムギ畑の雑草であり、生育条件がほぼ同じであることから、コムギの生育条件の悪い畑では意図的にコムギとライムギを混ぜて栽培されることがある。こうすることで、コムギが寒冷などで不作となった場合においてもライムギの収穫で損害をある程度埋め合わせることができるからである。
病害麦角菌に冒されたライムギ

子嚢菌の一種麦角菌子房に寄生すると、菌核を形成し[注釈 2]、一群の麦角アルカロイドと呼ばれる様々な生理活性を示すアルカロイドを含むマイコトキシンが発生する。これが麦角である。麦角菌に寄生されたライムギは黒い角状のものを実の間から生やしたため、これが麦角の名の由来となった。これが発生した畑からの収穫物には種子にまぎれて麦角が混入し、これを粉に挽いてパンなどに調理すると、麦角アルカロイドの毒性によって流産や末梢血管の収縮による四肢の組織の壊死、幻覚などの中毒症状を引き起こすので、食用に適さない。この麦角菌中毒は中世に大流行し、多くの人の命を奪った。
生産

ライ麦の国別生産量(2014年,単位:万トン)国名2013年2012年2011年2010年2005年
ドイツ468.9389.3252.1290.3279.4
ロシア336.0213.2297.1163.6362.8
ポーランド335.9288.8260.1285.2340.4
中国65.067.868.057.055.4
 ベラルーシ64.8108.280.173.5115.5
 ウクライナ63.867.757.946.5105.4
 デンマーク52.738.429.425.513.2
スペイン38.329.736.725.812.9
トルコ36.537.036.636.627.0
 オーストリア23.420.520.216.416.4
カナダ20.833.719.523.233.0
アメリカ合衆国19.517.616.118.919.1
 チェコ17.614.710.511.819.7
フランス14.316.012.415.114.7
 スウェーデン14.214.013.212.311.2
世界総計1669.61461.61301.61196.11516.5
出典:国際連合食糧農業機関[19]

寒冷を好みやせた土壌でも生育するため、東部、中部、北部ヨーロッパやロシアなど高緯度地帯で広く栽培される。主要なライ麦生産地帯はドイツからポーランド、ベラルーシ、ウクライナ、リトアニアラトビア、及び北部ロシアへと続く。また、カナダアメリカ合衆国アルゼンチンブラジル中華人民共和国北部でも栽培される。

2005年の最大生産国はロシアで、以後ポーランドドイツベラルーシウクライナと続く。


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