ライオンブックス
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ライオンブックス(LION BOOKS)は、手塚治虫により集英社から発表された一連の短編作品群(オムニバス)を言う。1956年から1957年にかけ、集英社の月刊『おもしろブック』の付録冊子として発行されたものと[1]、1971年から1973年にかけて同じ集英社の『週刊少年ジャンプ』に掲載されたものの2種類が存在している。
概要

ライオンブックスの第1弾は1956年、集英社の漫画編集者である長野規の企画でスタートした[2]。当時としてはかなり先進的なSF要素を取り入れた意欲作であるが、まだSFという用語すら定着していなかったことと、『鉄腕アトム』のように科学技術の明るい側面だけを描くのではなく、それによってもたらされる負の側面や人類への警鐘などを含めた高尚な内容であったために[2][3]、あまり人気が出ず途中からSF色の薄い作品も描かれるようになり、最終的には全12話で打ち切りとなった。しかしながら、のちのSFに与えた影響は大きく、多くのSF作家がライオンブックスから影響を受けたことを公言している[3]

1971年に、長野からライオンブックス再開の提案があり[2]、月1回のペースで『週刊少年ジャンプ』に掲載された[2]。「安達が原」のような優れたSF作品がある一方で、「ブタのヘソのセレナーデ」に代表されるようなナンセンス・ギャグ的な作品も含まれており、全体に統一性を欠いている。連載当時、手塚は経営の傾いた虫プロの対処に追われており、漫画に集中して取り組むことができなかったのではないかと、二階堂黎人は指摘している[3]
各作品詳細
おもしろブック版
来るべき人類

『おもしろブック』1956年8月号付録

19XX年、○○国は
日本アルプス上空で新型兵器42・GAMIの実験を行った。その結果、世界中に放射性物質がばらまかれ、放射線による白血球の減少のため、地球にいる人類は廃人同様となってしまった。地球人のなかで唯一難を逃れたのは、日本の第一次金星探検隊だけであった。5年後、金星探検隊は地球に帰還するが、隊長の草津(演:ウイスキー)は地球の惨状を見て、地球を見捨て金星への移住を決意する。しかし、草津の息子のヨシ男はそれに反発し、地球を救おうと奔走する。一方、黒田隊員(演:ヒゲオヤジ)は安来隊員(演:ハム・エッグ)にそそのかされ、42・GAMIの秘密工場の元主任、アセチレン・ランプと手を組んで、地球征服をもくろむ。

くろい宇宙線

『おもしろブック』1956年9月号付録

かつて非人道的な実験を行った罪で火星に追放されたドリアン・グレイ博士が、30年ぶりに地球に戻ってきた。その直後から、奇妙な殺人事件が多発する。犯行は
放射線によるものであり、犯行現場では、ひげもじゃで黒いダブルを着た男が目撃されていた。かつてドリアン博士の僚友であった宇奈月博士の甥・ボン太郎は、「黒い放射線事件」の究明に奔走する。

1958年に鈴木出版手塚治虫漫画選集』第3巻に再録された際に「黒い宇宙線」と改題されたが、1983年に『手塚治虫漫画全集』MT276に再録された際に元の題名に戻されている。なお、初出時には、事件解決後、大スクープを物にした新聞記者のシブ皮とアマ栗(演:チックとタック)が新雑誌の編集長に抜擢され、服装がみすぼらしいので黒いダブルの服を勧められてひっくりかえる、というオチがついていたが、講談社全集版で削除された[4]

鉄腕アトム (アニメ第1作)』第31話「黒い宇宙線」(1963年7月30日放送)は、本作をもとに『鉄腕アトム』の1エピソードとしてアレンジしたものである[5]

宇宙空港

『おもしろブック』1956年10月号・11月号付録(後半は初出時「オリオン137星」)

宇宙空港にギャング「宇宙トカゲ」が逃げ込んだ。金星行きを控えた留学生・エリックと、兄を宇宙トカゲに殺された鳴門うしおは、宇宙トカゲと、彼をかくまうホテルの支配人
アセチレン・ランプと対決する。

緑の猫

『おもしろブック』1956年12月号付録

アメリカで洗濯物屋をしていた
伴俊作は、ギャングの襲撃で親友の由志を失う。失意の伴は店をたたみ、由志の遺児である三吾を連れて日本への帰路についた。車を走らせる伴のもとに、いきなり空飛ぶ円盤が飛来する。後部座席を見やると、三吾の隣にいつの間にやら緑色の猫が現れていた。緑の猫は三吾になついていたので、そのまま連れていたが、日本に渡る船上で緑の猫と三吾が行方不明になってしまう。数十年後、私立探偵となった伴のもとに、三吾がパリの暗黒街で暗躍しているという噂を耳にする。

恐怖山脈

『おもしろブック』1957年1月号付録

東京の大学で地質学を学んだ大垣龍太が、8年ぶりに故郷の村に戻ってきた。村の占い師であるお千ばあさんは、地震の予言を必ず的中させることで知られていた。龍三はお千から地震予知の秘密を聞き出そうとする。一方、村長には、かつてお千の予言で地震が起きることを知りながら、龍太の父・龍三を山に登らせて謀殺した、という過去があった。村長は龍太が復讐に戻ってきたのではないかとおびえ始める。

「恐怖山脈」「双生児殺人事件」「狂った国境」の3作は、初出時は青年地質学者の大垣龍太を主人公とした「地球劇場」シリーズとして扱われていた
[6]

双生児殺人事件

『おもしろブック』1957年2月号付録

地震研究所に通勤する大垣龍太が下宿するアパート「トワキ荘」(
トキワ荘のもじり)で、かつて世界的に知られた天才外科医であった小野寺博士が、密室状態で何者かに射殺される。

題名は「ふたごさつじんじけん」と読む。かなりの部分が代筆であり、手塚の生前には単行本に再録されず、2008年、小学館クリエイティブの復刻名作漫画シリーズ『おもしろブック版 ライオンブックス』に初めて再録された(ただし、それ以前にもファンクラブの会誌に再録されたことはある)。野口文雄は、男であるはずの犯人が女言葉を使う不自然な場面があるが、作中でそのことについて何の説明もなされないことから、真犯人は男装した女性という設定で描き出したが、途中で作品を投げ出したために辻褄が合わなくなってしまったのではないか、と推測している[7]

狂った国境

『おもしろブック』1957年3月号付録

南極大陸のレッドベア国は、隣のブルジョイ国と対立しており、両国の国境は鉄条網で仕切られ、亡命者はその場で射殺されていた。ところが、大垣龍太による調査で、国境付近の町フロンテアが大きな氷の上に位置していることが判明する。村民を避難させるためには、国境を越えブルジョイ国側に向かわなければならない。

複眼魔人

『おもしろブック』1957年4月号・5月号付録

大戦中、空襲による負傷で失明し、特殊な人工角膜を移植されたアー坊は、他人の発した言葉の真偽を見抜くことができるようになり、それに目をつけた特高警察(演:
東南西北)と憲兵(演:ブク・ブック)によってスパイ狩りに利用される。終戦後、アー坊は口封じのため殺害されそうになったところを脱走、人里離れた山奥で暮らしていた。それから10年後、ハイキングで偶然アー坊と出会った少年たちは、彼が社会生活に戻れるように骨を折ってやろうとする。

当初はアー坊の能力は最後までそのままだったが、1958年の鈴木出版手塚治虫漫画選集』版(第3巻『黒い宇宙線』所収)で、アー坊の目が元に戻る、という結末に変更された。講談社『手塚治虫漫画全集』版(MT276所収)では、結末は鈴木出版版と同じだが、さらに修正がなされている[8]

作中、男装した女性スパイがストッキングを脱ぐシーンが性的であると問題視され、販売を止めた書店が相次いだ[9]

白骨船長

『おもしろブック』1957年6月号付録

舞台は21世紀のとある国。増えすぎた人口を減らすため、くじ引きで当たった子供を月の裏側に捨てる政策が行われていた。子供たちを月に送り出す船の船長は「白骨船長」と呼ばれ、血も涙もない人物として恐れられていた。しかしある日、白骨船長の息子がくじ引きに当たってしまう。

荒野の弾痕

『おもしろブック』1957年7月号付録

南北戦争終結直後のアメリカ西部の町、ギャロップ・シティに、元南軍中尉ダッドレイ・ヘボー(演:モンスター)が帰ってきた。だが、ダッドレイは敗戦後、「ダッド・ザ・シャイロ」と名乗るギャングとなっていた。やがてダッドの部下ボリス(演:アセチレン・ランプ)が町に現れ、暴れはじめる。

初出時は結末が中途半端なところで終わっていたため、1958年に鈴木出版手塚治虫漫画選集 第2巻 虹のとりで』に再録された際に、大幅に加筆されている[10]


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