ユーフォニウム
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ユーフォニアム
各言語での名称

euphonium [ju??fo?ni?m]
Euphonium
(Euphonion, Bariton,Kaiserbariton)
euphonium
(saxhorn basse)
eufonio
(flicorno basso)
上低音号


ユーフォニアム
分類

金管楽器
関連楽器


チューバ

サクソルン

製作者

フランツ・ボック、フェルディナント・ヘル

ユーフォニアム(ユーフォニウム、ユーフォニューム)は、金管楽器の一種。一般的にB♭管で、幾重かに巻かれた円錐管と、通常4つのバルブ(弁)を持つ。音域はテナーやテナーバスのトロンボーンとほぼ同じであるが、それよりも幾分か柔らかく温かみ[1]のある音色を奏でる。

ユーフォニアムのマウスピースは多くのメーカーでカタログ上トロンボーンと共通に扱われているが、トロンボーンのものよりややカップの深い[2]ものが好まれる。

各国には、ユーフォニアムとほぼ同じ役割を担うものの、音色、形状、バルブシステムなどの異なる楽器が存在し、これらすべてを統括したグローバルスタンダードな名称は、現時点では存在していない。したがって、これらの楽器は、個々においてはその本来の名称を使い、日本語において一纏めに呼ぶ必要がある場合は、便宜上「ユーフォニアム」と呼んでいる(例:次項の「各国のユーフォニアム」「ユーフォニアムの歴史」)。
各国のユーフォニアムサクソルン・バス(ドイツ式)バリトンカイゼルバリトン

日本のユーフォニアムの役割に相当する各国の楽器には大きく4つのタイプが現存し、各国で用いられている。
ユーフォニアム(euphonium)
日本イギリスアメリカなどで用いられている、ピストン・バルブを備えた、中低音域を担うB♭管の楽器。各国各地のバリトン音域の金管楽器が融合して、20世紀前半のイギリスで現在の形状に落ち着いた。3バルブタイプ、B♭/Fコンペンセイティング・システムつき4バルブタイプと、4バルブタイプの3種が現在も存続している。
サクソルン・バス(saxhorn basse)
フランスにおいて、サクソルン属のバスとして発展した楽器。3本から6本ピストンのアップライト(上向き)のベルを持つ楽器で、日本でも戦前・戦中の軍楽隊において、「ユーフォニオン(海軍)」「プチバス、小バス(陸軍)」として用いられた。現在も、フランスのクルトワ(Courtois)社によって新しいモデルが開発され続けている。6本のピストンを備えたC管のサクソルン・バスは「フレンチ・チューバ」とも呼ばれ、1970年ごろまで、おもにフランスのオーケストラで用いられた。
(ドイツ式)バリトン、カイゼルバリトン(Bariton, Kaiserbariton 古くはBaryton, Kaiserbaryton)
別掲の「テノールホルン」とともに、ドイツ中欧東欧でユーフォニアムの役割を担う楽器。イギリス式のユーフォニアムとは楽器の左右の向きが逆で、バルブはロータリー式を採用。管体はいずれも卵形またはチューバ型で、カイゼルか否かはボアの広がり方によるため、見分けがつきにくい。後述のアメリカのバリトン・ホーンやイギリスのバリトンとは別の楽器[注釈 1]
バリトン・ホーン(アメリカ)(baritone horn)
かつてのアメリカでは、南北戦争の頃に用いられた初期のサクソルンに代わり、現在のユーフォニアムよりも若干管径が細い楽器が開発された。この楽器はバルブが3本であれば「バリトン・ホーン(baritone horn)」、4本以上であれば「ユーフォニアム(euphonium)」として販売されていた。アメリカの吹奏楽譜の「バリトン」あるいは「ユーフォニアム」のパートに、まったく同じ内容であるにもかかわらずト音記号とヘ音記号の両方の譜面が用意されていることが多い。当初バリトン・ホーンの方がユーフォニアムよりも管の内径が若干細かったが、1960年代にもなると両者は同じ内径で製造されるようになり、ピストンの数以外に楽器としての画然とした違いがなくなってきた。そのため、カタログ上は「ユーフォニアム」という名称であっても、イギリスのユーフォニアムと区別して、アメリカンタイプの楽器を「バリトン」「バリトン・ホーン」と呼ぶようになってきた。1960年代終わりごろから1970年代にかけてアメリカの各軍楽隊で一斉にイギリスのユーフォニアムが使われるようになって以来、学校教育からプロの吹奏楽団に至るまで、一般的にイギリスや日本で使われるようなユーフォニアムが用いられるようになった。ただし、海を隔てたドイツや東欧の小編成バンドでは、現在でもアメリカンタイプのバリトン・ホーンが好んで使われ、新しいモデルも作られている[3]
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ユーフォニアムの音色は、一般的にはよく知られていない。ユーフォニアムの音色がよく感じられる代表的な作品には、以下のようなものがある。
グスターヴ・ホルスト吹奏楽のための第2組曲ヘ長調?第1曲「行進曲」
吹奏楽曲。きびきびとしたリズムが奏でられる中に、ユーフォニアムの朗々とした長いソロがある。第4曲「『ダーガソン』による幻想曲」にもソロがある。
グスターヴ・ホルスト
組曲『惑星』?第1曲「火星」管弦楽曲。中盤頃にソロ旋律を奏でる。
ケネス・アルフォード:行進曲「ボギー大佐
吹奏楽曲。全編で大らかな対旋律を奏でる。各国のユーフォニアムに相当する楽器も、行進曲において対旋律を奏でることが多い。
フィリップ・スパーク:「祝典のための音楽」
ブラスバンド曲。所々にユーフォニアムの印象的なソロがある。
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ
管弦楽曲。テノール・テューバ(ユーフォニアムとテナーチューバ」参照)の指定。ドン・キホーテの腹心、サンチョ・パンサのキャラクターをヴィオラバスクラリネットとともに演じる。
モデスト・ムソルグスキーモーリス・ラヴェル編曲:組曲「展覧会の絵」?「ビドロ」
管弦楽曲。ラヴェルの指示ではテューバとなっているが、高音域が続くこのソロのみ、しばしばユーフォニアムで演奏される(詳細は「ユーフォニアムとテナーチューバ」参照)。
フィリップ・スパーク:「パントマイム」
ユーフォニアム独奏曲(伴奏はピアノまたはブラスバンド、吹奏楽)。

ユーフォニアムの協奏曲は少ないが、早く1870年代にアミルカレ・ポンキエッリが書いたものがある(正確にはユーフォニアムに類似したイタリアのフリコルノ・バッソの協奏曲)[4]。有名な作品にはジョーゼフ・ホロヴィッツのユーフォニアム協奏曲(1972年)がある。
歴史

ユーフォニアムは、ヴァイマルのバンドマスターであったフェルディナント・ゾンマー(Ferdinand Sommer)が自身専用のソロ楽器として発案したゾンメロフォン(Sommerophone)を元に改良が加えられ、一般に使われるようになった[5]。もともとはオイフォニオン(Euphonion)と呼ばれたが、この名前はギリシア語の“euphonos”(eu=良い、phone=響き)に由来する[5]
ユーフォニアムとチューバの分離
ゾンマーのゾンメロフォンが登場する以前は、セルパンやバスホルン、オフィクレイドなどが金管低音の役割を担ってきた。1835年に、プロイセンの軍楽隊長だったW.ヴィープレヒトの要請を受けて、C.モリッツによってF管のアップライトベル、フロントピストン式バスチューバ(Basstuba)が作られた。続いて1838年には、それよりも小型のB♭管のアップライトベル、フロントピストン式テノールチューバ(Tenortuba)が作られた。こうして、金管の低音域をバスとテナーという別々の楽器で演奏するようになり、前者がバス、そしてコントラバスチューバへと発展し、後者がユーフォニアムへと発展していった[6]
ソロ楽器としての発展
1843年にゾンマーは、モリッツのテノールチューバや、その後各地で作られた同じような楽器を元に、ゾンメロフォンという楽器を発案する。これはゾンマー自身がソロを演奏するために発案したものである。1851年のロンドン万国博覧会にて、アルバート公をはじめとするイギリス王族の御前で、オルガンを伴奏に、ゾンマーがこのゾンメロフォンを用いてソロ・リサイタルを開催した記録が残っている[7] 。そのリサイタルのスケッチ(ゾンマーがゾンメロフォンを演奏している)はヴィクトリア&アルバート博物館にて見ることができる。この楽器は、C.モリッツの製作したテノールチューバと同じような、細いチューバ型であった(ただし、バルブはロータリー式)[8]。ゾンメロフォンが完成した翌年の1844年、ウィーンのフランツ・ボック(Franz Bock)とフェルディナント・ヘル(Ferdinand Hell)が、それぞれゾンメロフォンを改良させた「Euphonion」「Euphonium」という楽器を作り、ボックは4月1日に、ヘルは4月5日にウィーンにて発明特権(Privilegium)を取得した(いずれもバルブはロータリー式)。特にボックが作った「Euphonion(オイフォニオン)」は、バルブこそロータリー式であるが、現在のユーフォニアムに近い太い楽器であり、「金管楽器特有の荒い音を排し、広い音域を持ち、音色は柔らかく、美しく優しい響きで、あたかも吹奏楽器におけるチェロのようだ」と、ボック自身が発明特権出願の際に記している[9]。この楽器は、のちにチェルヴェニー(Cerveny)社(現・チェコのメーカー)などからも「オイフォニオン」として一般向けに製造販売されるに至った[10]。19世紀中頃に登場した「オイフォニオン」が実際に楽曲に使われた例としては、ブルックナーの「行進曲 変ホ長調」(1865年作曲)が挙げられる。
サクソルン族「バス(Basse)」からの発展
こうした流れとは別に、パリではアドルフ・サックスが、高音域から低音域までを同一の音色でカバーする一連の金管楽器「サクソルン」を製作し、1845年に特許を取得した。[11]サクソルンはフランスの吹奏楽の他にイギリスのブラスバンドにも採り入れられ、イギリスではサクソルンのうちのバス(Basse)が、ウィーンで発明された「Euphonion」「Euphonium」の名称を用いて、ユーフォニアム(またはユーフォニオン)と呼ばれるようになった。[12]そして、イギリスのブラスバンドにおいてユーフォニアムは、単なる中低音域の楽器としてではなく、コルネット同様にソロを受け持つ楽器として活用されるようになっていった。[13]イギリスのメーカーでも独自のユーフォニアムが作られるようになり、1878年にイギリスのブージー社によって特許が取得されたコンペンセイティング・システムバルブを採用したモデルが登場して、現代のユーフォニアムのスタイルが確立した。このブージー社のモデルは、イギリスのホーニマン博物館(Horniman Museum and Gardens)に所蔵されており、画像が公開されている。[14]
総括
ユーフォニアムは、セルパンやバスホルン、オフィクレイドの高音域を担うために生まれてきた楽器を元に、ゾンマーによる発案と彼自身の演奏活動をきっかけに「チェロのような、美しく優しい響きのソロ楽器」としてオーストリアで誕生し、またサクソルン一族のバスとして生まれた楽器を元にしてイギリスで発達した。
日本
日本におけるユーフォニアムの歴史は、明治3年(1870年)にイギリスよりユーホーニオンが到着したことにより始まった[15]。日本人初のユーフォニアム奏者は、明治2年(1869年)に薩摩藩によって集められた軍楽隊の伝習生、尾崎惟徳[16](平次郎[15])であった。軍楽隊の伝習生は、当初イギリス式教育を受けたが、明治3年に陸海軍が分離されたあと、海軍軍楽隊はイギリス式教育(のちにドイツ式教育)、陸軍軍楽隊はフランス式教育を導入した[17]ため、ユーフォニアムに相当するパートに関しては、海軍では「ユーフォニオン、バリトン」[18]、陸軍では「プチバス[19]、小バス[20]」などとさまざまな名称で呼ばれていた。遺されている多くの画像によれば、いずれもおもにフランス式の楽器(サクソルン・バス)が使われていたことがわかる[21][22]が、一時期の海軍や音楽学校、各種音楽隊、学校教育における吹奏楽部などでは、指導者の方針により、ドイツ式バリトンや(小バスではない)ユーフォニアムなども使われていた[23]第二次世界大戦敗戦後に米国より導入されたスクールバンドの普及により、日本においては名称は「ユーフォニアム(ユーフォニウム)」に定着し、楽器もイギリスで発展したピストン式の4バルブユーフォニアムが一般的になっている。このため創作文芸の世界でサクソルン・バスやドイツ式バリトン、バリトン・ホーンなどの出現する機会はほとんどなく、日本の吹奏楽の作曲コンテストでこれらの楽器が要求されることはあまりない。おおよそ1960年代からユーフォニアムを専門とする演奏家が活躍を始めた[24]。その後、ユーフォニアム部門のコンクール開催や国外演奏家の来日などにより、専門家としての能力と指導力を身につけたユーフォニアム奏者たちは、続々と音楽大学の講師として赴任し、日本の演奏家による国外での活躍も見られるようになった[25]。近年では新しい音響素材として目を向ける作曲家[26]がいる。2015年にアニメ化されたライトノベル小説『響け! ユーフォニアム』により、知名度を大きく向上させた。それまで、吹奏楽部やクラシックファンの間でしか知られることがなかったユーフォニアムであるが、同作によって中学・高校の吹奏楽部への入部数がアップしたという。また、吹奏楽部において、それまで他の楽器を希望していた者がしぶしぶやらせれていたユーフォニアムであったが、アニメ効果によって希望者が現れるようになったという[27]。。
ユーフォニアムとテナーチューバ

オーケストラのスコアに、テナーチューバのパートが設けられていることがある。これは作曲者がユーフォニアム、ドイツ式のバリトン、B♭管のワグナーチューバなどを想定して設けるパートであり、作曲者がどの楽器を想定してこのパートを設けたかは、記譜や他楽器からの持ち替え指定、作曲年代、曲想などにより判断されている。


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