ユスリカ
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ユスリカ科
オオユスリカ Chironomus plumosus のオス
分類

:動物界 Animalia
:節足動物門 Arthropoda
:昆虫綱 Insecta
:双翅目 Diptera
亜目:糸角亜目 Nematocera
下目:カ下目 Culicomorpha
上科:ユスリカ上科 Chironomoidea
:ユスリカ科 Chironomidae

学名
Chironomidae
Newman1834
和名
ユスリカ(揺蚊)
英名
non-biting midges
亜科
本文参照

ユスリカ(揺蚊)はハエ目(双翅目)・糸角亜目・ユスリカ科(Chironomidae)に属する昆虫の総称。和名幼虫が体を揺するように動かすことに由来する[1]

大部分のは幼虫が水生で、川、池などほとんどあらゆる淡水域に棲んでいる。他には海の潮間帯に棲むものや陸生のもの、水辺の朽木の中や土壌中などに棲む半水生的なものなども少数ある。中には水生昆虫貝類寄生する特殊なものも知られている。釣り餌や観賞用高級金魚生餌に使われるアカムシはオオユスリカやアカムシユスリカ(英語版)などの幼虫である。

成虫によく似た大きさや姿をしているが、人を刺すことはない。またのような鱗粉も持たないため、と見誤って叩いても、黒っぽい粉のようなものが肌に付くことはない。しばしば川や池の近くで蚊柱をつくる。アフリカのマラウイ湖での蚊柱は数十メートルの高さになることで知られる。ユスリカの群れ

非常に種類が多く、世界から約1万5000種、日本からは約2000種ほどが記載されている[2]。水生昆虫の中では1で擁する種数が最も多いものの一つである。

ユスリカ上科(英語版)には、刺すものがある(例:ブユヌカカ)。
特徴幼虫(アカムシ)の拡大写真

見た目がにとても似ていて、電灯の灯などにもよく集まるが、とはが異なる昆虫で、のように動物や人を刺したり、その血液を吸うことはない。他の双翅目の昆虫同様、は2枚のみで、後翅は平均棍という微小な器官に変化している。成虫は微小-小型で、体長は0.5mmから1cm程度。メスの触角は普通だが、オスのそれは全方位に生えた多数の横枝がありブラシ状を呈し、のそれよりも短めでフサフサに見える。メスグロユスリカなど雌雄で体の色が異なるものもある。成虫は口器が無く、消化器も退化して痕跡化しているので、餌をとることは一切できない。

幼虫はその体色からアカムシまたはアカボウフラと呼ばれるが、カの幼虫である本来のボウフラとは形状が大幅に異なる。通常細長い円筒形で、本来の付属肢はない。頭は楕円形で、、触角、左右に開く大腮や、そのほか多くの付属器官があり、これらの微細な形態が幼虫の分類に使われる。口のすぐ後ろには前擬脚と呼ぶ1つの突起があり、その先端には多くの細かい爪があって付属肢の様に利用する。腹部末端にも1対の脚があり、やはり先端に爪があり体を固定したりするのに役に立っている。また通常、体の後端には数対の肛門鰓(直腸)を持っており、ユスリカChironomus など一部のグループには腹部にも血鰓(けっさい:血管鰓とも言う)を有するものもある。

川や用水路などで発生するが、特に生活排水などで汚れたドブ川では大量発生することがある。ドブの泥を集めて棲管を作り、そこから上半身をのりだしてユラユラするのがよく見られる。ただし、種数からすればドブに住むものはごく一部で、富栄養化の進んでいない普通の川や池沼、あるいは清流にすむものも多い。ウミユスリカ類の幼虫は潮間帯やサンゴ礁に棲む。また渓流の落ち葉に潜り込むもの、岩の上に棲管を張り付かせるもの、わずかに水が流れる岩の上に棲むもの、土壌中に棲むもの、その他、特殊な生息場をもつものも知られている。周囲の泥や砂をつづって巣を作るものもあり、ナガレユスリカ属のように巣の入り口に特殊な縁飾りを作るものや、トビケラ目に似た可携巣を作るものなどがある。食生はデトリタスを食べるものが多いと考えられるが、モンユスリカ亜科のように肉食のものや、他の水生昆虫に寄生するものなどもある。はカのそれであるオニボウフラを細長くしたような姿で、水面に泳ぎ上がって、水面で羽化が行なわれる。

羽化した成虫はの近くで、たくさん柱状に集まって飛んでいることがよくある。いわゆる「蚊柱」をつくっている昆虫である。蚊柱は、1匹の雌と多数の雄で構成されている。これは群飛(英語版)(swarming)と呼ばれる[2]。蚊柱が形成される理由は交尾のためで、成虫は交尾を済ませ産卵を終えるとすぐに死ぬ。成虫の寿命は長くても一日から数日ほどである[2]
人間とのかかわり.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

この節には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(2017年5月)

人を刺すことはないが、水に棲む幼虫が、生活排水による川の汚れなどにより、川の富栄養化が進むと大量発生して害となる。川のそばを歩くのも困難なほど大量発生すると、川の近隣住宅においては、洗濯物を干せない、窓を開けられないといった問題が起こる。洗濯物などに止まり、うっかり潰すと黄色い体液が洗濯物に付着する。

ユスリカを抗原としたアレルギー性鼻炎や「ユスリカ喘息」と呼ばれる呼吸器疾患も知られている。これらの疾患は、大量発生したユスリカが交尾産卵して死滅した後、死骸風化する過程の微細な粒子が、空気中に浮遊したり家屋内に堆積し、それらを人が吸引することで起こると考えられている。小型のユスリカでは、成体が直接眼や口に飛び込むことで炎症を起こす可能性もある[3]

こうしたユスリカの大量発生による問題は、全国各地の川や、池のある公園湖沼などでも起きており、発生場所を有する各自治体などではその対策に悩まされるようになる。琵琶湖霞ヶ浦におけるオオユスリカ、諏訪湖のアカムシユスリカの大発生などはよく知られており、琵琶湖では南湖周辺を中心に「ビワコムシ」という俗称が生まれるまでになっている[4]

しかし、指標生物としての利用や、幼虫が泥中や水中の有機物を消費し、やがて成虫となって水外に飛び去ることで、川や池などの水質を改善するという側面もある[3]。成虫のユスリカは、1 gあたり最大で5 kcalのエネルギーを持つことが確認されている[5]

富栄養化した水域で特に多く発生するとは言え、川などが完全に汚れて、有害物質がいっぱいになると、発生しない。つまり、都会の川では、下水道の整備などで川の浄化がある程度進んだ時点で、大発生することもある。川にユスリカがいるのは普通のことなので、「まったくいない」もしくは「大量発生」するといったことで、川の汚染の状態を計る自然のバロメーターともいえる。すなわち、指標生物として使える。しかし、幼虫によるユスリカの種の判定は例外を除けば極めて困難で、実際には属レベルまでの同定でも口器その他の微細な器官の形態を調べなければならず、それなりの熟練が必要である。大ざっぱな見方としては、赤いユスリカ幼虫の生息する環境は富栄養で汚染がすすんだ場所と見てよい。赤い色素は、ヘモグロビンの様に酸素を蓄えるものであり、そのようなユスリカの生息地は、有機物の分解がさかんで、酸素欠乏状態になりやすい場だと見られるからである。渓流生のユスリカ幼虫は、緑や茶色で、赤くないものが多い。

前述の「蚊柱」を作る現象でも、蚊柱が人の頭の上にできる場合がある。頭の上にできた蚊柱から逃げようと人が移動しても、ユスリカの蚊柱はそれについてくる。この現象から「頭虫(あたまむし)」と呼ばれる場合がある。また同様の理由から特に虫などが苦手な人からは不快害虫として扱われやすい。

他に、高等学校理科教材として、唾腺染色体観察に用いられることがよくある。なお、ユスリカの唾腺染色体は透明がかった白色をしており、酢酸カーミン液などで染めて観察に用いる。

また、幼虫であるアカムシは乾燥アカムシや冷凍アカムシとして商品化され、エサや熱帯魚などの観賞魚エサとして利用されることもある。

アフリカのヴィクトリア湖沿岸では、大量発生するユスリカの一種を集めてハンバーグのように固めたものを、鉄板で焼いて食べる習慣がある[6]

2017年(平成29年)には琵琶湖で例年に比べて大量発生したが、「害虫」とまではいえないため、駆除は住民の自助努力であると報じられた[7]
俳句

蚊柱は、夏の季語

夕立の来て蚊柱を崩しけり - 正岡子規

一つ二つから蚊柱となりにけり - 小林一茶

分類

大部分の属・種はモンユスリカ亜科・ヤマユスリカ亜科・ユスリカ亜科・エリユスリカ亜科の4つの亜科に属している[8]

チリーユスリカ亜科 Chilenomyiinae - 1属1種 Chilenomyia paradoxa

クロバネユスリカ亜科 Usambaromyiinae - 1属1種 Usambaromyia nigrala

フタオユスリカ亜科 Buchonomyiinae - 1属 フタオユスリカ属 Buchonomyia

トゲユスリカ亜科 Aphroteniinae - 3属

ケブカユスリカ亜科 Podonominae - 約15属

モンユスリカ亜科 Tanypodinae - 50属以上

イソユスリカ亜科 Telmatogetoninae - 2属

ヤマユスリカ亜科 Diamesinae - 約20属

ユスリカ亜科 Chironominae - 100属以上

エリユスリカ亜科 Orthocladiinae - 100属以上

オオヤマユスリカ亜科 Prodiamesinae - 4属

系統

PETER S. CRANSTON et al.(2012)による分子系統解析によると、以下のような系統樹が得られている。この研究では単系亜科のチリーユスリカ亜科 Chilenomyiinae ・クロバネユスリカ亜科 Usambaromyiinae は除外されている[9]

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ユスリカ科

フタオユスリカ亜科 Buchonomyiinae

トゲユスリカ亜科 Aphroteniinae

ケブカユスリカ亜科 Podonominae

モンユスリカ亜科 Tanypodinae

イソユスリカ亜科 Telmatogetoninae

ヤマユスリカ亜科 Diamesinae

ユスリカ亜科 Chironominae

エリユスリカ亜科 Orthocladiinae

オオヤマユスリカ亜科 Prodiamesinae



















脚注[脚注の使い方]
出典^ “ユスリカ 。イカリ消毒 害虫と商品の情報サイト”. www.ikari.jp. 2023年9月30日閲覧。
^ a b c 『図説 日本のユスリカ』p.11
^ a b 平林 公男, 中里 亮治, 那須 裕, 沖野 外輝夫, 村山 忍三 (1991). “ユスリカ研究の現状と諏訪湖ユスリカ対策研究をめぐる諸問題”. 環境科学年報 13: 5-20. https://hdl.handle.net/10091/12538. 
^滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
^ 河合 幸一郎,川井 敏子,今林 博道 (2003). “Chironomus属ユスリカ5種の水質浄化能の比較”. 衞生動物 54 (1): 37-42. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}NAID 110003819251. 


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