『ユグノー教徒』(ユグノーきょうと、仏: Les Huguenots)は、ジャコモ・マイアベーアによる5幕3場のグランド・オペラで、ウジェーヌ・スクリーブとエミール・デシャン(英語版)のフランス語のリブレットに基づいている。初演はパリ・オペラ座(サル・ペルティエ)で1836年2月29日にフランソワ・アントワーヌ・アブネックの指揮、歌手は当時の大歌手たちであるジュリー・ドリュ・グラとコルネリー・ファルコン(ソプラノ)、アドルフ・ヌーリ(テノール)、プロスペル・ルヴァスール(バス)らによって上演された。『悪魔のロベール』の大成功に次いで作曲されたオペラで、マイアベーアにとっては11番目のオペラであり、パリ・オペラ座向けの2作目のオペラである。1572年8月24日の「サンバルテルミの虐殺」の史実に基づいている。
概要ジャコモ・マイアベーア
『ユグノー教徒』はマイアベーアの前例のないほどの成功をした傑作と考えられ、フランス風のグランド・オペラのプロトタイプとなったことで、ワーグナー(第4幕のラウルとヴァランティーヌのデュエットが『トリスタンとイゾルデ』の中に想起される)や後にパリ・オペラ座向けにフランス語のグランド・オペラを作曲することになるヴェルディやベルリオーズ、ビゼー、グノー、チャイコフスキー、ムソルグスキーなどへも影響を与えた。『ユグノー教徒』は1906年5月16日に1,000回目の上演を記録し、パリ・オペラ座で1,000回以上上演された初めてのオペラとなった。
19世紀には一世を風靡したオペラであり、近年の欧米ではグランド・オペラの再評価と共に再び注目を集め始めている。上演時間の長さなどは、バレエ・シーンをカットしたり、繰り返しや冗長な部分をカットするなど現実的な対応が各劇場の演出方針によりなされている。作品の意義については、「サンバルテルミの虐殺を起こした宗教的狂信は、21世紀になって過去のものになるどころか、世界の各地で新たな犠牲者を生み出している。あらゆる形の不寛容に対する告発として、《ユグノー教徒》は今日的意義の再評価が高まっている。もちろんそこに永遠の愛の美しさが浮かび上がるからだが。」(澤田肇)[1]という賛辞も見られる。
リブレットと音楽ベルナール・ロマン・ジュリアンによるスクリーブ
ウジェーヌ・スクリーブは19世紀のオペラ台本においてヒット作を連発し、また傑出した作家と言える。スクリーブは、一貫して教会権力に反発する方針を堅持していた。フランス革命で特権階級の一部を構成していた僧侶も糾弾された後のフランスにおいては、このスタンスは十分に受け入れられた。『ユグノー教徒』、『預言者』、また、ジャック・アレヴィの『ユダヤの女』においても宗教的不寛容が主題として取り上げられ、いずれもヒットしている。「観客の度肝を抜く鮮烈な一瞬――それがスクリーブの真骨頂である。自然の脅威を目の当たりにした時と同じく、激しい衝撃に揺さぶられたなら、心は自然と『生まれ変わる』」(岸純信)[2]というのがフランス・オペラ関係者の一致した見解である。