ヤム_(ウガリット神話の神)
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ヤム (Yam, Yamm, Jamm[1]。音写では ym [2])は、ウガリット神話に登場する、を神格化したである[3]。神話において、主神バアルが最初に戦う敵とされている[2]。天上の父神イルウ(エル)と妻アーシラト(アシラ)との間の息子たち[2]の一人で、の姿であるとされる[4]
名前

神話には、「王子ヤム」「裁き手ナハル」(ナハルは Nahar [5])という名前で登場し、主に「ヤム」と呼ばれている。「ヤム」はを、「ナハル」はを意味し[注釈 1]、ヤム=ナハルという名でも呼ばれている[6]。またヤムは、エル(イルウ)から「ヤウ」「エルの愛し子」という名を与えられ[7]、物語の中でそう呼ばれている。
神話アスタルテパピルス

注:神話が記録された粘土板は欠損が多いため、紀元前1550年頃から紀元前1200年頃にかけて作られた[注釈 2]古代エジプト語のパピルス『アスタルテパピルス(ドイツ語版)』の内容に基づいて補う[8]ことがある。このパピルスも欠損が多い[9]が、ヤムやアスタルテ(アシュタルト)の名前を認めることができる[10]。そこではアシュタルトはエジプト神話の神プタハの娘とされている。天と地を支配するヤムは神々に貢ぎ物を繰り返し要求し、取りなしに入ったアシュタルトの身柄さえプタハに要求している[9]

天の父神であるイルウが神々を集め、自分の息子達の中から次の支配者を選ぶこととした。バアルがイルウの元に参上し、その後ヤムの使者が参上したが、この使者は、万物の源は水であるから海と川を支配するヤムが支配者に相応しい、と主張した。バアルは激昂し、彼の姉妹である女神、アシュタルトアナトに止められながらも、ヤムの使者をその場から叩き出した[11]

補足された物語では、地上の支配者となるべく、雨が地上を潤すと主張するバアルと、川や泉で地上が潤されると主張するヤムとが対立し、大神に判定してもらうべく二人で参上した。大神は、全てのものの源は水であるからヤムが地上の支配者に相応しい、と判断し、ヤムのために宮殿を建てさせた。その後ヤムは、神々に重税を課すなどの圧政を敷いたため、耐えかねた神々はヤムを倒すこととしたが、竜であり強力なヤムに勝つ方法はない。そこでアシュタルトがヤムを訪ね、その美貌と奏でる音楽とでヤムの心を惹き付けた。ヤムは彼女が自分の妻になることを条件に税を軽くすると約束した。この条件を聞いたバアルは激昂した[12]

工芸の神であるコシャル・ハシス(英語版)[注釈 3]には、ヤムを倒せる武器を作ることができた。バアル(補足された物語ではアシュタルト[13])は彼に頼んで2本の棍棒を作ってもらった[注釈 4]。その2本、「撃退(アィヤムル)[注釈 5]」と「追放(ヤグルシュ)[注釈 6]」をもって、バアルはヤムを攻撃した。ヤムは、「撃退」の体への攻撃には耐えた(補足された物語では、「駆逐者(撃退)」はヤムを狙い外した[14])が、「追放」の頭部への攻撃には耐えられず、倒れた[15]

その後、バアルはヤムの体を引き裂いてとどめを刺した[16]

補足された物語では、ヤムは、いまわの際に「バアルが王だ」と告げた。喜んだバアルがそのまま立ち去ろうとしたところ、同行していたアシュタルトが促したため、バアルはヤムの目の間や首をさらに殴打してとどめを刺した[注釈 7]。しかしなおヤムが生きていたため、女神アナトがで殴打した上、その体を海に押しやった。さらにバアルは、ヤムが今後生き返った場合に備えて、コシャル・ハシスに檻を作らせてそれにヤムを閉じ込めた[19]。こうしてバアルは地上の支配者となった。しかし、自分の宮殿を建設する際には復活したヤムの侵入を恐れて窓を付けられず、落成の祝宴の間にもヤムの復活を心配して砂浜へ行き、檻の中のヤムに再びとどめを刺している[20]


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