この項目では、動物について説明しています。その他の用法については「ヤドカリ (曖昧さ回避)」をご覧ください。
ヤドカリ上科 Paguroidea
ヤドカリの一種(NOAAによる画像)
分類
ヤドカリ(宿借、寄居虫)は、十脚目ヤドカリ上科 Paguroidea のうち、主として巻貝の貝殻に体を収めてそれを背負って生活する甲殻類の総称。こうした生態が、「宿を借りる」にたとえられて、和名では「ヤドカリ」と呼ばれる[1]。日本語古語での表現は「かみな」(転じて「かむな」「かうな」「がうな」「ごうな」など)であった。英語の「hermit crab」(「隠遁しているカニ」といった意味)、中国語の「寄居蟹」も、貝殻に入って暮らすことに由来する[1]。貝殻の代わりに、ヒトが排出したプラスチックなどのゴミを利用することも多い[2](後述)。
狭義のヤドカリと言えるヤドカリ上科は世界で1000種以上が棲息する[1]。十脚目にはカニやエビも含まれるが、ヤドカリの体形は貝殻等に収められるよう変形している。
特徴砂浜に軌跡を残しながら移動するヤドカリ(久米島アーラ浜)
体は頭胸部と腹部に分かれる。胸脚の第一対は太く発達した鋏脚で、多くの場合は左右不対称である。大きい方の鋏は、体を貝殻に引っ込めた時に入り口に蓋をするのに使われる。歩脚として使われるのは第2・第3対の2対であり、残りの第4・第5胸脚は短くなって貝殻を保持するために使われる。腹部は長く柔らかい袋状で、巻貝の殻に合わせて螺旋状となる。腹部の関節は不明瞭で、付属肢は左側だけが残り、右側は退化している。尾脚は鉤状で、貝殻内部に体を止める役割を担うが、種類によっては欠くものもいる。
但し同じヤドカリ上科でも、ツノガイヤドカリ科 Pylochelidae (Pomatochelidae)は腹部に関節があり、後方にまっすぐ伸びてエビ類に似る。この形態はヤドカリ上科共通のグラウコトエ幼生 Glaucothoe に似ており、ツノガイヤドカリ科はヤドカリ上科の中でも原始的な部類とされている。
多くが潮間帯から水深数百mの深海底までに生息し、種類によって汽水域、波打ち際、岩礁、サンゴ礁、砂泥底等の環境に棲み分ける。亜熱帯から熱帯では、海岸付近の陸上で生活するオカヤドカリ類 Coenobita もいる。日本の海岸ではホンヤドカリ Pagurus filholi、ユビナガホンヤドカリ P. minutus、ケアシホンヤドカリ P. lanuginosus、イソヨコバサミ Clibanarius virescens、ケブカヒメヨコバサミ Paguristes ortmanni 、太平洋沿岸の潮下帯ではオニヤドカリAniculus aniculus、イシダタミヤドカリDardanus crassimanus、ソメンヤドカリD. pedunculatus、オイランヤドカリ[3]D. lagopodesなどがよく見られる。
普段は貝殻から頭胸部だけを出して歩き回り、危険を感じると、素早く殻の中に引っ込み、発達した鋏脚で殻の口に蓋をする。食性は雑食性で、藻類、生物遺骸、デトリタス等を食べる。天敵はタコや肉食魚の他、カラッパやイボイワオウギガニ等の大型のカニ類に捕食されることもある。ヒトも食用や釣り餌に利用するため天敵となる(後述)。