ヤツメウナギ
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ヤツメウナギ目
ヤツメウナギ
分類

:動物界 Animalia
:脊索動物門 Chordata
亜門:脊椎動物亜門 Vertebrata
上綱:無顎上綱 Agnatha
:頭甲綱 Cyclostomata
:ヤツメウナギ目 Petromyzontiformes

英名
lamprey

ヤツメウナギ(八目鰻、lamprey)は、脊椎動物亜門円口類・ヤツメウナギ目に属す動物の一般名、ないし総称であり、河川を中心に世界中に分布している。

円口類はいわゆる「生きた化石」であり、ヤツメウナギとヌタウナギだけが現生している。

形状が一見似ているウナギとは根本的に異なる動物で、さらに「狭義の魚類[1]からも外れており、脊椎動物としても非常に原始的である。
生物学的特徴
概要スナヤツメLethenteron reissneriの成体。

顎口類の姉妹群である円口類に属し、一般には数少ない現生の無顎類の一群である。

ヤツメウナギは全ての種が細長く、体の断面が楕円形といった言わば「ウナギ型」の外見であるため、一般にはしばしばウナギと混同されがちで、和名にもそれが如実に表れている。ただし、顎口類に属すウナギ類とは無縁と考えても良い動物であり、生物学的特徴も食味もウナギとは全くかけ離れた動物である。

一般的な意味で""と見なされるが、その特徴も広くイメージされる「魚類」とは大きく異なる。現在生きているほとんどの"魚"が我々ヒトと同じ顎口類に属すのに対し、ヤツメウナギはこれとは別の系統である円口類に属している。「顎を欠く」「対鰭を持たない」「骨格が未発達である」など、顎口類から見ると「原始的」とも呼べる特徴を多く残しているため、進化研究でたびたび重要視されてきた。

我々ヒトを含め、現在の脊椎動物の大多数は発達した顎や骨格などを備えているが、化石記録に基づいた古生物学的研究によれば、我々の祖先はもともとこうした特徴を持っていなかった[2]。こうした祖先的な脊椎動物は、特に「顎をもたない」といった特徴を踏まえて無顎類と呼ばれている。

円口類の中で現在も生存しているのはヤツメウナギ類とヌタウナギ類のみである。また、無顎類の大多数は古生代ですでに絶滅しており、この中で現在も生存しているのもヤツメウナギ類とヌタウナギ類のみである[3][4]

外部形態

様々なヤツメウナギ類の口器形態。歯はエナメル質などと異なり角質

Lampetra fluviatilis{"ヨーロッパカワヤツメ"(和名不詳)}

全身像

生態スナヤツメLethenteron reissneriのアンモシーテス幼生。

ヤツメウナギの現生種は淡水を中心とした世界中の寒冷水域に生息し、熱帯域には少ない。日本国内では、カワヤツメLethenteron japonicum、スナヤツメL. reissneri、シベリアヤツメL. kessleri、ミツバヤツメLampetra tridentataの4種が棲息するとされ、このうちカワヤツメと一部のスナヤツメは食用になる。

ヤツメウナギの体の両側には7対の鰓孔があり、それが一見のようにみえることから、本来の眼とあわせて「八目」と呼ばれる。ドイツ語でも、7つの鰓孔、本来の眼、鼻孔が並ぶことから、ヤツメウナギには9つの眼があると考え、「9つの眼」を意味するノインアウゲン Neunaugenと呼んでいる。

のない体は細長く「ウナギ型」。種によって体長13 - 100cmと幅がある。繁殖は淡水河川で行い、3mm程度の黄色い卵を、種によって数百 - 数万個も産卵する。ひと月ほどで孵化すると、まずアンモシーテス (Ammocoetes) と呼ばれる幼生期を数年間過ごし、その後成体へと変態する。アンモシーテスとは、もともと新属として設けられた名称だったが、これがヤツメウナギの幼生と判明すると、その名称がそのまま幼生の呼称となった。アンモシーテス幼生の基本的な概形は成体に似るが、口は吸盤状でなく漏斗のようで、泥底に潜って水中から有機物を濾しとって食べている。またが未発達であり、外からはほとんど確認することができない。

変態後の生態は、種によって降海型と陸封型に大別される。カワヤツメなどは前者で、変態した若魚は2、3年海を回遊し、繁殖期になると再び河川を溯上する。スナヤツメなどは後者であり、秋に変態したのち、翌年春から初夏の繁殖期までの、生涯の残りの期間を淡水で過ごす。変態後は消化管も貧弱で餌を採らない種が多いが、アリナレスナヤツメのように河川内で寄生生活を送るものもいる。生活型に関わらず、全種が産卵後に死亡する。

ちなみに、スタミナはないものの瞬発的な遊泳力が強いため、水槽で飼育するとよく飛び出すことがある。
解剖学的特徴

ヤツメウナギの外見上最も特徴的なのは、顎がなく代わりに吸盤状の口をもつ点と、7対の円い鰓孔が開口する点である。また、この他にも独特の解剖学的特徴を持ち、そのいくつかは脊椎動物の進化上「祖先的」とも見なされる。ヤツメウナギの骨格図。太い中軸は脊索。画像左側(頭側)に、鰓骨格が籠状の構造をつくる。

は、明確な正中鰭(背鰭尾鰭)があるが、対鰭胸鰭腹鰭)を全く欠く。このため静止すると、姿勢を保持できず横倒しになる。岩やガラス面に口の吸盤で吸い付いて姿勢を保つ。

骨格は全て軟骨で、現生の他の脊椎動物に比較して非常に貧弱である。

頭蓋は、硬骨魚類等で置換骨性の神経頭蓋の外側を覆って様々な構造を成す一切の膜骨性の皮骨を欠く上、その形態も一般にイメージされる"頭蓋骨"からはかなり独特なものに見える。このためヤツメウナギの頭蓋と顎口類の頭蓋とを並べて単純に比較することは難しい。ちなみに個体発生では、顎口類が共有する神経堤細胞由来の梁軟骨が全く発生しないとされる。

脊椎骨はわずかに存在するが、顎口類で椎骨を構成する主要な構造である椎体を欠き、代わりに支持器官として太い脊索を一生保持している。ヤツメウナギにある脊椎骨成分は脊索の背側に連続して並ぶ神経弓のみである(対してヌタウナギ類では逆に脊索の腹側の一部に痕跡的な血管弓のみが生じる)。

こうした軟らかい骨格であるため、骨格標本などによる形態の観察がたいへん難しい。また多くの脊椎動物で軟骨細胞外マトリクスの主成分を成す硫酸コンドロイチンなどの硫酸基に結合して青く染色するアルシアンブルーなどによる透明骨格標本では、うまく軟骨を染色することができないと事が報告されている[5]。そもそもヤツメウナギの軟骨は、軟骨細胞外マトリクスとしてlamprinと呼ばれるエラスチン様の独特なタンパク質を多分に含み、他の多くの脊椎動物とは軟骨の成分自体が大きく異なる[6]。なお、上述の様にコンドロイチン硫酸などに反応するアルシアンブルーの代わりに、エラスチンに反応するレゾルシンフクシンによる染色が有効であると報告されている[7]

アンモシーテス幼生の頭部を水平断にし、背側を見た図。Gaskell (1908)より。

がない。ヤツメウナギの成体の口は吸盤状をしており、強い吸引機能がある。これで河底の石などに吸いついて、姿勢を保持することができる。またカワヤツメなど、一部の種ではこうした吸盤状の口で他の魚類などに取り付き、ヤスリ状の角質歯で傷を付けて体液を吸う。一見するとその様は大きなヒルが取り付いているようにも見える。

は表皮が角質化(角化)したものである[8]。つまりわれわれヒトなどが顎にもつ歯とは異なり、むしろや毛に近いが、これらのように連続的に角化するのでなく、周期的に角化し、一つの歯が脱落すると次の歯が出てくる形になる[8]

鰓孔が体の両側に7対開口する。

外鼻孔は、1対開口する顎口類とは異なり、単一のみで、頭頂に開口する。鼻管は盲嚢状。

内耳には半規管2つだけがあり、これも三半規管がある顎口類とは異なる[9]


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