モーグ・シンセサイザー
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モーグ・シンセサイザー(英語: Moog Synthesizer)は、アメリカの電子工学博士であるロバート・モーグが開発したアナログシンセサイザー及びその製品群である[1]。「ムーグ」と表記されることがあるが、後述の通りこれは誤りであると公式に表明されている。

Moogにはモーグ、モウグなど、さまざまなカタカナ転写があるが、本稿では日本のオフィシャル・サプライヤーが定めた『モーグ』と記述する。2007年のモーグ製品


モーグ・シンセサイザー [2]1970年代初期のモーグ製品

概要

モーグ・シンセサイザーは、電気的振動を発生、変調、制御する統合的電圧制御モジュール群と、各種コントローラーで構成される 電子楽器(シンセサイザー)の一つである [1]1964年、ニューヨークで開催されたAES (Audio Engineering Society Inc.) のコンベンションで初めて公に披露された。
代表機種モーグ・モジュラー55
モジュラー・システム詳細は「モーグ・モジュラー・シンセサイザー(英語版)」を参照

モジュラー・システム(Modular System)は単独仕様の機種ではなく、発音、増幅、変調、制御等、シンセサイズ機能ごとにデザインされた複数のモジュールを、C型(コンソール)キャビネットまたはP型(ポータブル)ケースに必要に応じて組み込むことが可能なカスタム製品として商品化されたパッチ式のシンセサイザーである。Synthesizer 1C [2]

最初期のモジュラー・システムは、モーグが1963年11月にロチェスターで開かれたNew York State School Music Associationの会合でハーブ・ドイチ (Herb Deutsch)と知己を得て1964年7月?9月に行った共同開発作業により製作された「The First Moog Synthesizer」である。本機は1982年にミシガン州のヘンリーフォード博物館に寄贈され現在も展示されている。1964年のAESのコンベンションで、Alwin Nikolais, Lejaren Hiller, エリック・シディ (Eric Siday)の3人がモーグにシンセサイザーを発注し、最初期の顧客となったが、そのうちCMなど商業音楽を手がける作曲家であったシディは、複数のモジュールを組み合わせてそれらを鍵盤で演奏可能な一台の楽器として構築するモジュラー・システムの基本セット構成をモーグと共に練り上げた。1968年のモーグ社カタログには、キャビネットの形状と数によって名称が異なるセット製品=Synthesizer Model 10, Synthesizer 1C/1P, Synthesizer 2C/2P, Synthesizer 3C/3Pなどが登場し、その後、Moog Synthesizer 12, 15, 25, 35, 55などが加わった。キース・エマーソンと
モーグ・モジュラー

ウォルター・カーロス(現在のウェンディ・カルロス)は、タッチ・センシティブ・キーボード、ポルタメント・コントロール、フィックスド・フィルター・バンクなど、現在では一般的となった重要機能の追加及びカスタム・モジュール開発において、モーグと協力した。モーグは常に多くのミュージシャンの意見を聞き、その意見を反映して数多くのカスタム・モジュールとコントローラーを製品化した。ガーション・キングスレイにより提案された、ライブ時などでの音色切り替えをスイッチのワンプッシュで可能とするファクトリー・プログラマブルな「プリセット・モジュール」を加えたモジュラー・システムは、1969年にニューヨーク近代美術館でのコンサート「Jazz in the Garden」のため3台製作されたが、その内の1台を翌70年にキース・エマーソンがイギリスのディーラーを通じて購入する。この音色プリセットが可能なモジュラー・システムを皮切りに、その後エマーソンはキャビネットとモジュールを鋭意追加し、彼自身の「モンスター・モジュラー・システム」を構築した。

標準的なシステムの価格は当時6,000ドル(1ドル=360円で216万円)程度であった。

近年になり、モジュラーシステムも数量限定で復刻されている。最初にキースエマーソンモデルが全世界5台限定で発売、そのうち1台は浅倉大介氏によって購入され、以後スタジオやライブ使用されている。金額はスーパーカー1台分だったという。次にSystem55, 35, 15と35用のエクスパンションキャビネット、キーボードコントローラが復刻された。そしてIIIc, IIIp, Model-10も少数復刻された。
ミニモーグミニモーグ詳細は「ミニモーグ(英語版)」を参照

ミニモーグ (Minimoog) は、1970年に開発され[3]、1971年から量産商品として楽器店に流通した、鍵盤一体型のポータブルなパフォーマンス・シンセサイザーである


ただし、「1970年に発売された」[4][5]もしくは「1970年に、モーグのカタログに発表された」と説明する書籍もある[6]


キース・エマーソンリック・ウェイクマンヤン・ハマーなど、世界中のミュージシャンに愛用されている。モジュラー・システムが各モジュールをパッチケーブル(主にエフェクター同士を繋ぐ10cm前後のシールドケーブル)で接続することで自由度の高い音色合成を行うのに対し、ミニモーグには限定的仕様の複数のハードウエア回路基板が内蔵されており、スラント可変型コントロール・パネル上に機能毎のポイントがレイアウトされたスイッチとノブを調整制御することで音色を構築する。音色合成の自由度はモジュラー・システムよりも劣るが、外部拡張性を考慮した入出力端子が装備されている。操作の容易さと明快な機能性に加え、鍵盤(44鍵・低音発音優先)、ピッチ・ベンダー、モジュレーション・ホイールといったパフォーマンス・コントローラーがワンパッケージにまとめられているため、演奏中に音色や機能をコントロールしやすく、キーボード・プレイヤーの音楽的な表現手法の拡大にも大きく貢献した。

同時発音数=1のモノフォニック・シンセサイザーであるため[7]単体での和音演奏は難しいが、多くのプレイヤーは3つのVCOの音程をずらすなどのアプローチでポリフォニック的な表現を試みた。ベース・サウンドは唯一無二の存在感で、VCFに採用されたNPNバイポーラトランジスタCA3046 で構成された「モーグ・4ポール・ラダーフィルター」が作り出す特徴的なサウンド・キャラクターによって、音楽界における地位を不動のものとしている。ハードウェア及びソフトウェアを含めて、商品化されたシンセサイザーの規範であり、その太く深みのあるサウンドは新旧ミュージシャンに支持され続けている。

製品化されたモデルはD型で、プロトタイプに A [8], B [9], C [10], D [11]型が存在する。オシレーター・ボードが異なった初期型のサウンドを好むユーザーも多いが、電源等の改良がなされた後期型の安定性を重視する者も多い。ライブ演奏時のトラブルの多くは、鍵盤及び基板やトリマーなどの接点不良、電源回路電圧不良、それらによる調整不良などに起因するため、多くのキーボード・テックが現場での対処法を開拓してきた。生前のモーグ自身も、機会あるごとに直接ユーザーに助言を呈した。

Studio ElectronicsによりラックマウントされたMIDIMOOG、MIDIMINIが存在する。MIDIとオシレーター・シンクとLFOが追加され、オリジナル・ミニモーグの音色をさらに幅広いものにしている。ベンダーとモジュレーションホイールの効き方がMIDIコントロールのためオリジナル・ミニモーグと異なる。ミニモーグ・ボイジャー

2002年に製品化されたミニモーグ・ボイジャーは、ロバート・モーグが最後に開発したシンセサイザーである。すでに生産終了となっている本機は、オリジナル・ミニモーグのレプリカではないため機能もサウンドも独自のものとなっているが、設定によってはオリジナル・ミニモーグと比較して遜色のない音が出せる。トランジスターアレイには CA3086 が採用されている。独立したLFO、オシレーターシンク、デュアルフィルターによるステレオ出力、XYパッド、音色メモリー機能、モジュレーションバスなど、オリジナルにはない多数の機能拡張が行われた。パフォーマーエディションと称された標準の木目調の他、ホワイトボディやブラックボディ、文字盤・ホイールのバックライト付きモデル、アルミニウム筐体モデル、金メッキ・ダイヤモンド装飾モデルなど多くのバリエーションがある。アメリカ国内でのみ注文できたカスタムモデルは受注生産で、ウッドの材質(ローズウッド、メープルウッド、ウォールナット等)やパネル・ホイールのバックライト色(ピンク、赤、オレンジ、白、黄、青、緑など)を指定できた。音色メモリ機能やXYパッドを持たないボイジャー・オールドスクールというモデルもある。後期には鍵盤数を61に拡張し、パッチベイ、リボン・コントローラー、セカンドLFOを装備し、40周年記念の巨大なボイジャーXLも発売された。ボイジャーXLも標準の木目ボディの他、白や黒、Tolex Limitedモデルなどのバリエーションがあった。

2016年にはオリジナル・ミニモーグ・D型の復刻版として、Model D reissueが限定発売された。完全なレプリカではなく、デジタル制御のイニシャル・アフタータッチ付き鍵盤、フィードバック内部結線、MIDI入出力、独立したホイール用LFOを装備する。ウッド筐体の材質は標準仕様のチークの他、ウォールナット仕様も存在する。

ミニモーグをエミュレートしたソフトウェア・シンセサイザーが数種存在するが、商標権以外でモーグおよびモーグ社が開発に関与した製品はない。
コンステレーション

「コンステレーション」(Constellation,「星座」の意)とは、1973年頃 Tom Rhea が企画したモーグ社のシンセサイザー・アンサンブルシステムで、予告広告によれば下記構成が1974年早期にリリースされる予定だった [12]


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