メルゼブルクの呪文
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メルゼブルクの呪文
(メルゼブルク司教座聖堂参事会の図書館 Domstiftsbibliothek Merseburg 蔵、第136写本 第85葉・表。10世紀。)

メルゼブルクの呪文(メルゼブルクのじゅもん、: die Merseburger Zauberspruche)とは、古高ドイツ語で書かれた2編から成る中世の魔法呪文、あるいはまじないである。これらは古高ドイツ語によるドイツ異教信仰の現存する唯一の実例として知られている。呪文は1841年、9世紀もしくは10世紀に書かれたフルダ神学写本から[1]ゲオルク・ワイツ(英語版)によって発見されたが[2]、呪文が成立した年代については説が分かれている。写本(Merseburg Domkapitel, Cod. 136。第85葉・表)はメルゼブルク(英語版)の司教座聖堂参事会(略称「大聖堂」)の図書館に保存されており、これが呪文の名の由来となっている。
来歴

文字を持つ以前のゲルマン民族社会では、呪文(古高地ドイツ語: galstar、古ノルド語: galdr、 ガルドル(英語版))が、「有効な一連の繋がった言葉を唱えることで、魔法の力が人々の願いを叶える助けとなる」機能を有していた[3] 。呪文はゲルマン語圏でかなりの数が生き延びたものの、それらが記録されたのは中世以降であるため、キリスト教的な特徴を持っていたり、影響が見られたりする。メルゼブルクの呪文が類を見ない点は、750年よりも前、キリスト教化以前の起源を明らかに反映していることである[4][5]。呪文は10世紀に、理由は不明であるがフルダ修道院で教養のある聖職者により典礼書の空白のページに書き留められ、メルゼブルクの図書館に伝わった。こうして呪文はラテン語の典礼書(en)の表紙の見返しにカロリング小文字体で書かれ、伝えられた。

こんにち呪文はグリム兄弟の評価によって有名になったが、彼らは以下の通りに記述している。

ライプツィヒハレそしてイェーナの間にあるメルゼブルク司教座参事会大聖堂の図書館は学者たちに訪問され利用された。皆がその写本を見過ごしたが、もしそれが取り上げられる機会があれば、有名な教会の品目のようにしか見えなかっただろう。しかし、今やそれは他に類を見ない内容であり、最も著名な図書館も、それに比肩しうる宝を持たないほどの価値があると言える…

メルゼブルクの呪文は後にグリム兄弟によって「発見されたドイツ英雄時代の二つの詩について(Uber zwei entdeckte Gedichte aus der Zeit des deutschen Heldenthums)」(1842年)で公表された[6]

呪文の写本は2004年11月までメルゼブルク大聖堂で行われた「大聖堂と世界の間 メルゼブルク司教座聖堂参事会の1000年」という展示の展示品として陳列された。
呪文「イディス」エーミール・ドップラー画(1905)。

呪文はそれぞれ神話の出来事を物語る前文と、「元通りになれ、あるべき姿になれ」などのような、類似した表現による呪文の二つで構成される。この呪文の詩形は過渡期のものであり、頭韻法だけではなく、9世紀のキリスト教詩に取り入れられた脚韻も認められる。
1.身内生還の呪文

第一の呪文「身内生還の呪文[7]」は、イディスヴァルキュリアたち)[1]が戦闘で捕らえられた戦士たちを束縛から解放するものである。「足枷から逃れよ、敵より逃げよ」という最後の2行に戦士たちを解放するための魔法の言葉が込められている。

Eiris sazun idisi
sazun hera duoder.
suma hapt heptidun,
suma heri lezidun,
suma clubodun
umbi cuoniouuidi:
insprinc haptbandun,
inuar uigandun.

Once sat women,
They sat here, then there.
Some fastened bonds,
Some impeded an army,
Some unraveled fetters:
Escape the bonds,
flee the enemy![2]

かつて賢き女ども座せり
ここかしこに。
ある者はいましめの鎖をととのえ、
ある者は敵の軍兵をおさえ、
ある者は鎖をむしりとれり。
「いましめを脱し、
敵を逃れよ!」[8]


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