メタバース
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メタバースと仮想現実技術

メタバース (: metaverse) は、コンピュータの中に構築された3次元の仮想空間やそのサービスを指す[1]
解説

日本にあっては主にバーチャル空間の一種で、企業および2021年以降に参入した商業空間をそう呼んでいる。将来インターネット環境が到達するであろう概念で、利用者はオンライン上に構築された3次元コンピュータグラフィックスの仮想空間に世界中から思い思いのアバターと呼ばれる自分の分身で参加し、相互に意思疎通しながら買い物や商品の制作・販売といった経済活動を行なったり、そこをもう1つの「現実」として新たな生活を送ったりすることが想定されている[2]

メタバースという用語は「(メタ)」と「宇宙(ユニバース)」を組み合わせた造語である。元々は作家のニール・スティーヴンスンが1992年に発表したサイバーパンク小説『スノウ・クラッシュ』に登場する架空の仮想空間サービスの名称だった。その後、テクノロジーの進化によって実際に様々な仮想空間サービスが登場すると、それらの総称や仮想空間自体の名称として主に英語圏で用いられるようになった[2][3]

仮想空間の名称は複数あり、WIRED(つながっている場所)、バーチャル空間VR(仮想現実空間)、サイバースペース(電脳空間)といったものが挙げられる。

現在はメタバースの定義として様々なものが提案されているが、未だ統一した解釈は存在しない。メタバース解説書『メタバース進化論』(技術評論社、2022)では「空間性」「自己同一性」「大規模同時接続性」「創造性」「経済性」「アクセス性」「没入性」の七要件を満たしたオンラインの仮想空間として定義されている[4][5]
歴史
MMORPGの登場

1997年にはウルティマオンラインが世界で初めてMMORPGとして商業的に成功しており、オンラインにおける分身を用いた活動と利用者間の交流という考え方も、その後の様々なMMORPGをベースに普及してきた。それだけではなく、熱心なユーザーを中心としてゲームで活動した仲間と現実で出会うなど、仮想空間から実空間への社会的なフィードバックも起き始めていた[注 1]
Second Lifeブーム

世界で最初にメタバースが注目されたのは2000年代中盤からだった。2006年頃に起こった「メタバース的」な仮想世界サービスの先駆けと言えるSecond Lifeのブームがきっかけだった[1][2][6]。当時、ユーザー数が100万人を超えたばかりのSecond Lifeには米国の大手金融機関やコンピュータメーカーなどが参入し、3DCGで作られた仮想世界でアバターを使い、プロモーション活動や発表会などを開催していた。スマートフォンがまだ世に出ていない当時、仮想世界に参加する手段は持ち歩けない家庭用パソコンで、MMORPGのように利用者はマウスとキーボードを駆使しながらアバターを操ったが[1]、家庭用パソコンをもってしても当時のマシンでは3D描画や回線の性能が不足した。ネット慣れしていないメディアや大企業の幹部がブームを主導したため、一過性のバブルで終わった。米Linden Labの日本担当責任者だったジェイソン・リンクは、「勝手に過剰に熱が上がり、勝手に冷めていった」と語っている[7]。なお、この当時はメタバースという言葉が知られていないため、MMORPGから派生したサービスとして認識されていた。
オンラインゲームの普及

Second Lifeのブームは終わった一方で、2010年代には広い意味での仮想空間としてのメタバースがファイナルファンタジーXIVをはじめ、既に広まりだした[6]オンラインゲームでは仮想世界的なものが複数存在し、圧倒的な数のユーザーを集め[6]、若い世代を中心に普及していき、仮想世界慣れした層が生まれた[1]MinecraftRobloxといった仮想空間を作れるゲームやxboxを保有しているマイクロソフトも見逃せない存在となっており、メタバースはネット大手企業による次の戦いの場となった[1][6]Epic Gamesが運営するオンラインバトルロイヤルゲームの「フォートナイト」はVRゴーグルを使うタイプの仮想空間ではなく、そしてゲームがベースとなっている。しかし、アバターを使ったオンラインコンサートが実施されるなどゲーム以外の楽しみ方をするユーザーの数は年々増加し、2020年に実施されたトラヴィス・スコットのバーチャルコンサートでは、同時接続数1230万人という小さな国家の総人口並みの人数が参加している[6]。2021年までにソニーグループはEpic Gamesに累計で少なくとも4億5000万ドルを投資している[6]任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」も、メタバースの一つとされている[2][8]。累計販売本数は3200万を超えており(2021年時点)、JTBがユーザー制作マップ(JTB島)を公開するなど企業活用の模索もされた[6]
メタバースブーム

2021年、世界的ソーシャルネットワーク企業のFacebookが業績悪化予測を受けメタバース実現に向けて本格的に動き出したことで、「メタバース」という用語が業界で再浮上した[8]。10月にはFacebookは社名を「Meta(メタ)」に変更すると発表[9][10]。同社はSNSを主軸に成長してきたが、生みの親であるマーク・ザッカーバーグは、以後は新たな社名のもと、仮想空間の構築に注力し、数年内にSNSの企業からメタバースの企業へ変わると宣言した[9][10]。ザッカーバーグは2015年時点で「未来では常に装着していられるデバイスによってコミュニケーションは改善される」と語っており、ユーザーはVRヘッドセットを使って「メタバースにテレポート」して、仮想世界の中でリアルなコミュニケーションをするのだという[1]。Facebookは2019年にVRワールド「Facebook Horizon」を発表すると、2021年7月にはメタバースを「次のコミュニケーションプラットフォーム」と位置付け、10月に名称から企業名を廃して「Horizon Worlds」と改称してメタバースのプラットフォームとした[11][12]。VR空間についてはHorizonという名称で統一し、それまでOculusブランドで展開されてきたVRヘッドセットなどVR/AR分野のハードウェアについては、2022年初頭よりMetaブランドへの統合を行っていくとのこと[13]

それに対し、Niantic社は、AR技術を使って現実の世界とデジタルの世界を融合させ、人々を直接結びつけるという没入型デジタル環境の仮想世界ではない「現実世界のメタバース」を提唱した[8][14][15]。Nianticの創業者兼CEOであるジョン・ハンケは、2021年8月以降、VRヘッドセットに拘束されるようなメタバースを「ディストピアの悪夢」と呼んでいる[15]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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