ムコ多糖症(ムコたとうしょう、Mucopolysaccharidosis、MPS)は、遺伝的な要因による先天性代謝異常症であるライソゾーム病の一種である。医学上の正式名はムコ多糖代謝異常症。日本では、特定疾患に指定されている。
リソソーム内の加水分解酵素の先天的欠損あるいは異常により、リソソーム内にムコ多糖の一種であるグリコサミノグリカン(GAG)が蓄積する疾患である。GAGは人体内で細胞間結合に寄与する役割がある。
原因となる遺伝子によっていくつかの類型に分けられており、それら遺伝子の染色体上の位置により常染色体劣性遺伝と性染色体劣性遺伝の2種類に分類される。なお、ムコ多糖症I型は前者、ムコ多糖症II型は後者にあたる。
また、同一酵素の欠損あるいは異常は、遺伝子配列などの因子により程度が異なっており、病態の進行度、重篤度は患者間で大きな差が見られる。 ムコ多糖症は以下のようにI型?IX型の病型に分けられている。医療者向け資料などではMPSという略称で使う事が多いようで、例えばムコ多糖症I型の場合MPS Iと表記する。なお、以下の記述中のオーストラリアでの発症率はMeikleらの論文による[1]。ただし、発症例は各病型数十名程度しか存在しないため、統計的誤差は多分に含んでいると考えられる点に注意されたい。
ムコ多糖症の病型
MPS I型リソソーム酵素であるα-L-イズロニダーゼは、GAGの一種であるデルマタン硫酸とヘパラン硫酸のα-L-イズロン酸を加水分解する酵素であり、MPS I患者においては常染色体劣性遺伝により先天的に欠損している。本酵素の欠損によりリソソーム中にデルマタン硫酸やヘパラン硫酸が蓄積することにより、MPS I患者においては慢性かつ進行性の、多様な症状を示す。MPS Iはさらに重症型のMPS I H型(ハーラー症候群; Hurler syndrome