ムカシトカゲ
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ムカシトカゲ
ムカシトカゲ
分類

ドメイン:真核生物 Eukaryota
:動物界 Animalia
:脊索動物門 Chordata
亜門:脊椎動物亜門 Vertebrata
:爬虫綱 Reptilia
:ムカシトカゲ目 Sphenodontia
:ムカシトカゲ科 Sphenodontidae
:ムカシトカゲ属 Sphenodon

学名
Sphenodon
Gray, 1831
和名
ムカシトカゲ
英名
Tuatara



S. punctatus (Gray, 1842)

S. guntheri Buller, 1877

S. diversum Colenso, 1886(絶滅)

ムカシトカゲは、ニュージーランドの限られた地域に生息する、原始的な形質を残した爬虫類。現地での呼称からトゥアタラ (tuatara) と呼ばれることもある。
名称と系統

「トカゲ」と名付けられており姿も似ているが、トカゲ有鱗目トカゲ亜目)とはまったく異なる系統の爬虫類である。

「ムカシトカゲ」はSphenodon (スフェノドン)属の総称である。ムカシトカゲ目(または喙頭目)はかつて数多くの種と幅広い生態的地位を占める一大グループだったが、現生のものはSphenodon 属1属しか存在しない。また、ムカシトカゲは1895年以来絶滅危惧種とされている。

トカゲやヘビなどの他の双弓類とは進化の早い段階で分岐した種であり、ヘビとトカゲの進化の研究や初期の双弓類の姿や生態の推測において大きな関心を集めている[1][2]

英名・現地名のtuataraという呼称はマオリ語の「背中のトゲ」に由来する[3]。また、属名のSphenodonという名はギリシャ語のクサビ (sphenos) と歯 (odont) から作られ、種小名のpunctatusはラテン語で「斑点がある」という意味である。
発見史

西洋へのこの動物の報告としては、ジェームズ・クック船長が1769年にニュージーランドに上陸したとき、マオリ族の族長から現生生物についての聞き取り調査をした際に聞いたトカゲの話が、その最初のものであるとする見方がある[4]。ただし、ここで記録されているそのトカゲに関する証言は「体長は約2.5m、身体の幅はヒトと同じぐらい、地下の洞窟に住み、ヒトを襲って食う」という、生息場所以外の記述は実際のムカシトカゲとかなり異なるものである。Nordisk familjebokの図版より

この生物に関する確実な記録としては、1838年にJ.S.ポラックというユダヤ人商人が出版した書籍の中に、「プレンティ湾の島々にすむトカゲ」として記されていることが確認できる[4]。だが、実際にこの動物を捕獲して持ち帰ったのは、博物学者で探検家でもあったエルンスト・ディーフェンバッハ(英語版)であった[5]。ディーフェンバッハはニュージーランド商会の後援のもと、ニュージーランドの各地を何年にもわたって旅し、地理学地質学動物学植物学文化人類学など各分野にわたる記録を残していた。原住民がトゥアタラと呼ぶ大型のトカゲがいるということを聞いたディーフェンバッハは、懸賞金付きでそのトカゲを探し求めたが長い間手に入らず、ようやく叶ったのは1841年、ヨーロッパに帰る10日前であった。ディーフェンバッハはそのトカゲをアガマ科の仲間と推測し、生きたまま持ち帰った個体をしばらく飼育していた。そしてその動物が死ぬと、大英博物館にその死体を寄贈した[6]

その標本を受け取って研究したのは、当時大英博物館で動物学部門の管理者であったジョン・エドワード・グレイであった[6]。1842年、グレイはそのトカゲにHatteria punctata という学名を与えて発表したが、その後にこの動物の頭蓋骨が以前大英博物館に送られており、彼自身がそれに Sphenodon という学名(属名のみ)を1831年に与えていたことが判明した。そのため、学名の先取権の原則により、現在のこの動物の学名は Sphenodon punctatus となっている。しかし、Hatteria という名称もしくはこれに由来する語は、いくつかの言語で今でもムカシトカゲを指す単語となっている。
分類と進化

姉妹群である有鱗目トカゲヘビミミズトカゲ)と共に、鱗竜形類(下綱)の唯一の現存群である鱗竜類(上目)に属する。ムカシトカゲの祖先はおそらく鱗竜形下綱と主竜形下綱の分岐点近くに由来しており、「原爬虫類」に最も近い現存種である。ムカシトカゲはトカゲ類にそっくりではあるが、その類似はほとんど表面的なものであり、爬虫類の中でも独特ないくつかの特徴をもっている。典型的なトカゲ型の姿というものは初期の有羊膜類に共通のものであり、知られている中で最古の爬虫類の化石もトカゲ型の姿をしている。

グレイが模式標本を記載する際、ムカシトカゲは有鱗目トカゲ亜目の仲間として分類された。そしてそれは、1867年に同博物館のアルベルト・ギュンターがこの動物の独特な各特徴(解剖学の項参照)に注目し、化石種の仲間と併せてRhyncocephalia(喙頭目:「嘴を持った頭」喙は嘴の意)という目を提唱し、そこに属させるまで続いた。

しかし、ギュンターの喙頭目の設立以来多くの無関係の種がこの目に加えられてきた。このことは結果的に、喙頭目をいわゆる「分類のゴミ箱」にしてしまったが、1969年になってO. クーン (Oskar Kuhn) によってこれまで喙頭目とされてきたグループはムカシトカゲ目とリンコサウルス目に分割され、リンコサウルス目は主竜類に再分類された[7][3]。現在、ほとんどの研究者は、ムカシトカゲとその親類に対してより限定的な名称であるSphenodontia(ムカシトカゲ目)を使用する傾向がある。Sphenodontiaはサミュエル・W・ウィリストン(英語版)によって1925年に提唱されたため、エステス(R. Estes)によって1983年に提唱された類似した名称であるSphenodontidaに対して優先権がある[8]
現生種の分類再導入先も含む分布状況。●がムカシトカゲ (S. punctatus ) の生息地。クック海峡にある2点の●はそれぞれスティーブンズ島とトリオ諸島。□がギュンタームカシトカゲ (S. gunteri ) の生息地。

2種が現存している。
Sphenodon punctatus (Gray, 1842)
ムカシトカゲ:以前は唯一の種とされていた。IUCNレッドリストではLR/lc(軽度懸念)とされている[9]
Sphenodon gunteri Buller, 1877
ギュンタームカシトカゲ:通常種よりさらに希少で、クック海峡のブラザー諸島 (Brothers Islands) にのみ生息し、オリーブ色の体色に黄色い斑点がある[10]IUCNレッドリストではVU(危急)とされている[11]

S. punctatus にはS. p. punctatus 以外にS. p. reischeki という亜種がリトル・バリアー島 (Little Barrier Island) に存在していたが、1970年代に絶滅したと考えられている[12]。またこれとは別に現存するS. punctatus に関して、クック海峡スティーブンズ島 (Stephens Island) とトリオ諸島 (Trios Islands) にすむグループを別亜種(未命名)として、北島北岸のプレンティ湾 (Bay of Plenty) から北に住む基亜種S. punctatus punctatus との2亜種とする説がある[13]。また、Sphenodon 属の絶滅種として北島の東岸部から骨格が発見されたS. diversum がいる[12]
進化

ジュラ紀の化石爬虫類Homeosaurus は現在のムカシトカゲに非常によく似ており、ムカシトカゲは一般的にサメワニと同様に「生きている化石」だと言われる。これは、本質的にそれらの生物がこの地球上での存在期間中(ムカシトカゲの場合、約2億年)ほとんど変化していないことを意味する。

しかしながら、最近の分類学的研究[14] によると、ムカシトカゲ目は中生代を通じて多くの変異を経ていることがわかった。


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