ミーム
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この項目では、文化の伝播や情報伝達における情報単位としてのミームについて説明しています。

ルルティアアルバムについては「ミーム (ルルティアのアルバム)」をご覧ください。

アラビア文字のミームについては「?」をご覧ください。

インターネットでのミームについては「インターネット・ミーム」をご覧ください。

エジプト文字言語は、ミームの一種である[1]

ミーム(meme)とは、内に保存され、他の脳へ複製可能な情報であり[2]、例えば習慣や技能、物語といった社会的、文化的な情報である[3]。『日本大百科全書』における人工知能研究者の中島秀之の説明によると、ミームは文化的自己複製子であり、ミームは比喩(ひゆ)ではなく遺伝子と同じく実体である[4]。『利己的な遺伝子』によれば、ミームは脳神経回路の型である[5]。ミームが脳の外へ複製された具体例としては衣服、壺、アーチ、宗教的行動、科学者の講演、論文などが挙げられている[6]
概要

リチャード・ドーキンスの進化生物学書『利己的な遺伝子』で、ミームは比喩としてではなく、厳密な意味で生きた構造であり、自己複製的な構造、すなわち脳から脳へと再構成されるような神経回路の具体的な型だとされている[5]。ミームの神経的なハードウェアについての研究の一例としては、脳科学者ユアン・デリウス(Juan Delius)の論文がある[5]

『日本大百科全書』によると、生物の進化においてミームは重要であり、例えば一部の鳥類鳴き声動物による狩りなどは、遺伝ではなく、親から子への教育としてのミームである[4]

文化的な情報は会話、人々の振る舞い、儀式教育マスメディア等によって脳から脳へとコピーされていくが、そのプロセスを進化のアルゴリズムという観点で分析するための概念がミームである(ただし、ミームとは何かという定義は論者によって幅がある)。ミームを研究する学問はミーム学 (Memetics)と呼ばれる。

ミームは遺伝子との類推から生まれた概念である。それはミームが「進化」する仕組みを、遺伝子が進化する仕組みとの類推で考察できるということである。つまり遺伝子が生物を形成する情報であるように、ミームは文化を形成する情報であり、進化する。

さらに遺伝子の進化とミームの進化は無関係ではなく、相互に影響しあいながら進化する。

ミームの日本語での訳語は模倣子、模伝子、意伝子がある。
概史リチャード・ドーキンス

もともとミームという言葉は、動物行動学者進化生物学者であるリチャード・ドーキンスが、1976年に『利己的な遺伝子』という本の中で作ったものである[2][7]。まず、ドーキンスはギリシャ語の語根 から mimeme という語を作った。mim は「模倣」を意味し、-eme は「…素」を意味する名詞を作る接尾辞である。彼は、この語を遺伝子(gene)のような一音節の単語にしたかったので、縮めて meme「ミーム」 とした。ドーキンスは meme について、memory「記憶」やフランス語の meme [m??m]「同じ」と結びつけて考えることもできるだろうと述べている。ドーキンスは、ミームを脳から脳へと伝わる文化の単位としており、例としてメロディキャッチフレーズ、服の流行、橋の作り方などをあげている。

その後、ミームはドーキンスやヘンリー・プロトキン、ダグラス・ホフスタッターダニエル・デネットらにより、生物学的・心理学的・哲学的な意味が考察されるようになった。初めてミーム学についてまとめられた本が出版されたのは、リチャード・ブロディの『ミーム―心を操るウイルス』であり、その後スーザン・ブラックモアが『ミーム・マシーンとしての私』でさらにミーム学を発展させた。

ミーム学は二つの意味で進化論に基づいている。一つは、ミームの進化を遺伝子の進化との類推でとらえられること、もう一つは、ミームの進化は遺伝子がどのように進化してきたかと関わりがあることである[2]。ここでの進化論は利己的遺伝子の理論である。

ドーキンスは進化における自然選択の働きを説明するために、遺伝子以外にも存在しうる理論上の自己複製子の例としてミームを提案した。ドーキンスの視点によれば、自然選択に基づく進化が起きるためには、複製され、伝達される情報が必要である。またその情報はまれに変異を起こさなければならない。これは生物学的進化では遺伝子である。この複製、伝達、変異という三つの条件を満たしていれば遺伝子以外のなにかであっても同様に「進化」するはずである。

災害時に飛び交うデマ、流行語ファッション言語、メロディなどの文化情報の伝承伝播の仕組みを、論者の定義に基づいて説明することがある。例えば「ジーパンをはく」という風習が広がった過程をある論者のミームの遺伝子との類推からとらえなおせば、次のようになる。「1940年代後半のアメリカで「ジーパンを履く」というミームが突然変異により発生し、以後このミームは口コミ、商店でのディスプレイ、メディアなどを通して世界中の人々の脳あるいは心に数多くの自己「情報」の複製[注 1] を送り込むことに成功した。」

ミームの定義は論者によって様々なものが用いられるが、主に人類の文化進化の文脈において用いられる概念である。文化を脳から脳へ伝達される情報と見なす視点は、文化を超個体的な実体と見なす伝統的な社会学の視点と対照的である。
諸定義

「ミーム」の概念は、ドーキンスが唱えたミーム=情報伝達における単位としての定義を超えて、どのようなものでもミームであると誤解され論じられることが多い。さらに論者によって、また同じ論者でも研究の発展に応じてその指し示す対象にはかなりのずれがあるので、各ミーム論者の理論に対する信憑性の判断にはミーム論争自体への客観的な理解と、文化研究を専門とする人類学をはじめとした社会科学分野への理解が必要である。ここではいくつかの定義を例示する。[2][8][9]ファッションショー。ドーキンスが『利己的な遺伝子』に述べたミームの定義において、ファッションはミームの一例である。
文化の伝達や複製の基本単位(ドーキンス、1976)
ドーキンスのミームの定義によると、文化は人の脳から脳へと伝達されるミームからできており、ミームは文化の原子のようなものである。遺伝子は精子と卵子を通じて広まるが、ミームは脳を通じて広まる。したがって、より多くの脳に広まったミームが文化形成に大きく関与していることになる。例えば、ミニスカートはミームであり、それが多くの心に広まることでミニスカートが流行し、文化を形作る。あるいは、歌のメロディはミームであり、人々がそのメロディを口ずさめば多くの心へ広まり、文化となる。このように、この定義により、文化全体を分かりやすい部分に分解し、それぞれがどのように作用しあい、進化していくのかを見ることができる。この場合、ミームの単位はどのように区切られるかということは自明ではない。例えば交響曲の場合、ある交響曲全体で一つのミームなのか、一つ一つのメロディを一つのミームとするのかといったことである。ドーキンスは、便宜上、複製や淘汰を見ることができる一つの単位を、一つのミームと考えられるとしている[7]。したがって、一つのミームも二つに分けて考えることはでき、二つのミームを一つのまとまりと捉えることも可能である。ただし、この定義では、なぜあるミームが広がり、あるミームは広がらないのかが、あまり説明できないとリチャード・ブロディは言っている[2]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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