ミナミセミクジラ
保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ミナミセミクジラは、偶蹄目 [注 1]セミクジラ科セミクジラ属に属するヒゲクジラである[1]。北半球に分布するセミクジラおよびタイセイヨウセミクジラと近縁である。
概要体色のパターン(バルデス半島)
遺伝子分類上の研究では、北太平洋に分布するセミクジラと(タイセイヨウセミクジラよりも)近縁である[2]。
最大体長は18メートル以上、最大体重は80-90トン以上[3][4][5]。出生時の体長は4.5-6メートルほどである。
セミクジラ属3種の形態的な差異は概して少ないものの、大きさ、頭部隆起物(ケロシティ)[注 2][6]の位置・形状および量、付着生物の種類、頭骨の形状、ひげ板の色と形状、胸鰭の対比サイズと形状などに若干の違いが見られる[7]。
他のセミクジラ属と異なり、体の大部分が白変化した子鯨がしばしば見られ、その大多数は成長するにしたがって徐々に体色が黒くなるが、一部は成熟しても体色を維持したり全体的に灰色に近い体色に変化する。
また、他のセミクジラ属同様に下顎や下腹部にかけて不定形の白い模様を持つ個体も少なくないが、背中側にも白変部を持つ個体が存在するのも本種に見られる特徴である。
生態セーリング(バルデス半島)行動事例セミクジラ属に共通するV字型やハート型のブロー
南半球の南極海から熱帯にかけての広範囲の沿岸や沖合に分布する。ザトウクジラとは、共に沿岸性であり、回遊経路や繁殖海域を共有する事も少なくないが、通常のミナミセミクジラの冬季の分布は、ザトウクジラよりも南方に位置する事が多い。
セミクジラ科は概して穏やかで好奇心が強く、人間とも積極的に交流を持とうとする事も少なくない[8]。「地球上で最も優しい生物」と称される事もある[9]。
他のセミクジラ属同様に、海面で多くの時間を過ごし、しばしばジャンプするなどの活発な行動(英語版)を見せる。また、「セーリング」(英語版)と呼ばれる、尾鰭を海面上に上げて静止する行動を見せる[10]。
他のヒゲクジラ類やイルカ類などの鯨類やオタリア[11]やニュージーランドアシカ[12]などの鰭脚類と交流する姿が時折見られ、とくにザトウクジラとは種を超えた交尾行動が確認されたこともある[13][14]。
また、母親からはぐれたり母親を亡くしたと思わしい子鯨を、他の母鯨が拒絶せずに授乳する姿が観察されたり、孤児の可能性があるザトウクジラの子供に付き添っている光景も見られたことがある[15][16]。
他のセミクジラ属と同様に、通称「SAG[注 3]」と呼ばれる集団による繁殖行動を行う[17]。雄同士が暴力的な競合を行わずに、代わりに複数の雄が雌と交代で交尾を行うという乱交型であり、4.5リットル(1ガロン)もの精子で他の雄の精子を洗い流す[18][19]。しかし、北太平洋のセミクジラに確認されている「歌」は、本種やタイセイヨウセミクジラに関しては記録されていない[20]。
また、マッコウクジラで主に観察される「マーガレット・フォーメーション」と呼ばれるシャチに対する集団での防衛陣形が本種でも観察されたことがある[21]。
生息状況ブリーチング(西ケープ州)波打ち際付近でのペックスラップ(バルデス半島)ブリーチング(ジャグァルナ)子鯨を襲うカモメ(バルデス半島)
北半球のセミクジラ・タイセイヨウセミクジラと異なり、全体的な個体数にある程度の回復が見られ、現在は南半球全体では低危険種と言える個体数に回復した。
しかし、それでも本来の生息数にはほど遠く、セミクジラ属に共通して増加速度も遅いため、捕鯨時代以前の本来の生息数の50%未満に達するには西暦2100年までかかると予想されている[22]。
現存する個体群では、チリ・ペルー[注 4][23]の地方個体群は残存個体数が数十頭前後と絶滅寸前にカテゴライズされており[4][24]、2017年にアイセン・デル・ヘネラル・カルロス・イバニェス・デル・カンポ州のペナス湾(英語版)[注 5][25]にて少数の親子が地元のツアーガイドによって偶然に発見されてその後も同じツアーガイドによってこの地が少数の親子に利用されていると確認されるまでは、現在の主要な生息域すら把握できていなかった[26]。