ミトコンドリア
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ミトコンドリア(英語: mitochondrion、複数形: mitochondria)は、ほとんど全ての真核生物の細胞の中に存在する、細胞小器官の1つである。ヤヌスグリーンによって青緑色に染色される。ミトコンドリアの電子顕微鏡写真。マトリクスや膜が見える。

細胞生物学
動物細胞の模式図
典型的な動物細胞の構成要素:
核小体

細胞核

リボソーム (5の一部として点で示す)

小胞

粗面小胞体

ゴルジ体 (またはゴルジ装置)

細胞骨格 (微小管, アクチンフィラメント, 中間径フィラメント)

滑面小胞体

ミトコンドリア

液胞

細胞質基質 (細胞小器官を含む液体。これを元に細胞質は構成される)

リソソーム

中心体

ミトコンドリアは脂質二重層でできた外膜内膜を有し、膜には様々なタンパク質が存在する。ミトコンドリアでは、高エネルギーの電子と酸素分子を利用して、ATPを合成する。すなわち、ミトコンドリアは真核生物における好気呼吸の場である。また、真核生物の細胞が有する核とは別に、ミトコンドリア独自のミトコンドリアDNA(mtDNA)を内部に有し、ある程度ながら自立的にミトコンドリアは細胞内で分裂して、増殖する。このmtDNAは、ミトコンドリア内部だけに限らず、真核生物の細胞全体の生命現象にも関与する。さらに、細胞のアポトーシスにおいても、ミトコンドリアは重要な役割を担っている。

ヒトにおいては、肝臓、腎臓、筋肉、脳などの代謝の活発な細胞には特に多くのミトコンドリアが存在し、細胞質の約40パーセントを占めている。全身の平均では、1細胞中に300個から400個のミトコンドリアが存在し、全身で体重の約1割を占めていると概算されている[1]。単語の「Mitochondrion」はギリシャ語のμ?το?, mitos「糸」とχονδρ?ον, chondrion, 「顆粒」に由来し[2]、糸粒体(しりゅうたい)と和訳される例も見られる。
構造ミトコンドリアの構造
1.内膜 2.外膜 3.クリステ(平板状) 4.マトリクス

ミトコンドリアの直径は0.5 μm程度であるが、その形状は、生物種や細胞の置かれている条件によって多様である。球形、円筒形、紐状、網目状など様々な形状のミトコンドリアが存在し、長さが10 μmに達する物も珍しくない。1細胞あたりの数は、1つに維持されている細胞もあるが、多い場合では数千個のミトコンドリアが絶えず分裂と融合を繰り返している場合もある。

ミトコンドリアは外膜と呼ばれる脂質膜に囲まれており、その内側に、もう1枚、内膜と呼ばれる脂質膜を有する。内膜に囲まれた内側をマトリクス[注釈 1]、内膜と外膜に挟まれた空間を膜間腔と呼ぶ。なお、内膜はマトリクスに向かって陥入した、クリステ(cristae)と呼ばれる特徴的な構造を取っている。参考までに、この「cristae」とは「櫛」という意味である[3]

ミトコンドリアは照射された光を強く屈折するため、生きた細胞を位相差顕微鏡で観察すると、ミトコンドリアが明瞭に確認できる[3]。生きた細胞を観察すると、ミトコンドリアが細胞内で、伸縮したり、屈曲したりと、動いている姿も確認できる[3]
外膜

真核生物の細胞膜と同様に、ミトコンドリアの外膜の組成も、タンパク質とリン脂質の重量比が約1:1である。外膜の進化的起源は真核生物の細胞内膜系だと考えられ、現在でも小胞体膜と物理的に関係しており、カルシウムシグナルの伝達や脂質の交換を行っている[4]

外膜にはポリンと総称される膜タンパク質が大量に存在し、分子量5000以下の分子が、外膜を通過できるようなチャネルを形成している。これより大きなタンパク質は自由に出入できず、タンパク質のペプチド配列中に、特別な移行シグナルが付与されている場合にのみ、細胞質からミトコンドリア内へと取り込まれる[5]
膜間腔詳細は「ミトコンドリア膜間腔」を参照

膜間腔は、ミトコンドリアの外膜と内膜に挟まれた空間である。外膜がポリンによって低分子を自由に透過させる性質を実現しているため、通常の状態において、膜間腔のイオンや糖などの組成の多くは、ほとんど細胞質と同等である。例外は、内膜の直近のプロトンの濃度のように、限られる。その一方で、膜間腔におけるタンパク質の組成は、細胞質と大きく異なっており、外膜が破壊されて膜間腔に存在するタンパク質(シトクロムcなど)が細胞質へと漏れ出すと、細胞のアポトーシスが引き起こされる[6]
内膜

内膜はマトリクスと膜間腔とを隔てており、ミトコンドリアの機能的アイデンティティを担っている。酸化的リン酸化に関わる呼吸鎖複合体などの酵素群が、内膜には規則的に配列している。外膜とは対照的に、基本的に内膜は不透性であり、何らかの物質を内膜を横断して輸送するためには、それぞれの物質に対して特異的な輸送体が必要である。

呼吸鎖複合体は内膜を挟んで、マトリクスからプロトンを膜間腔へと汲み出して、膜間腔の側のプロトンの濃度を高め、濃度勾配が形成される。この濃度勾配が、物質輸送やATP合成に関与している。

また、マトリクスへのタンパク質輸送装置やミトコンドリアの分裂・融合に関わるタンパク質群などが存在し、ミトコンドリアを構成する全タンパク質のおよそ2割(150以上)が含まれている。タンパク質とリン脂質の重量比は3:1ほどである。内膜の進化的起源は共生細菌の細胞膜を由来としており、内膜に特徴的なリン脂質カルジオリピンの存在がその証左と考えられている。

一般的に内膜は内側へ向かって陥入し、クリステと呼ばれる構造を形成している。これによって内膜の表面積の増大、ひいてはATP合成能の増大に寄与している。外膜と内膜の表面積の比は細胞のATP需要と相関しており、肝臓では5倍ほど、骨格筋ではさらに大きな値である[7]

クリステの形状は生物によって様々であり、平板状、管状、団扇状、などが知られている。多細胞動物陸上植物ではミトコンドリアの長軸に直交する平板状をしており、日本では、教科書などを通じて広く知られている形状である。しかし、これはむしろ特殊な形状であり、真核生物全体を見渡すと、管状のクリステが一般的である[8]

さらに、同一個体であっても、組織によってクリステの形状が異なる場合がある。例えば、ヒトの多くの細胞のミトコンドリアのクリステは平板状だが、副腎皮質や精巣や卵巣でステロイドホルモン類を分泌する細胞が有するミトコンドリアのクリステは、管状や小胞状であったりする[9]。他にも、ラットでも、このような組織によって、ミトコンドリアのクリステの形状が異なっていることが確認された[10]。さらには、哺乳類のステロイドホルモン分泌細胞以外でも、平板状だけでなく、管状や小胞状のクリステも有するミトコンドリアが観察される場合もある[11]。これらのように例外も数多い。
マトリクス

内膜に囲まれた内側がマトリクスであり、TCAサイクル(別名:TCA回路クレブス回路クエン酸回路クエン酸サイクル)やβ酸化など、ミトコンドリアの代謝機能に関わる酵素群が数多く存在している。ここにはmtDNAが含まれており、ミトコンドリア独自の遺伝情報が保持されている。その遺伝子発現を担うために、リボソームtRNA転写因子や翻訳因子なども存在している。ミトコンドリア全タンパク質の6割から7割が存在しており、非常にタンパク質濃度の高い区画である。ミトコンドリアのマトリクスと膜間腔と、電子伝達系とTCAサイクルの関係図。TCAサイクルの数箇所で生成したNADHは、電子伝達系の複合体Iに電子を押し付けて、NAD+を再生する。一方で、TCAサイクルの途中のコハク酸(succinate)は、複合体IIであるコハク酸デヒドロゲナーゼへ電子を押し付けて、フマル酸(fumarate)に変わる。複合体I、複合体III、複合体IVは、電子を受け取ると、膜間腔へプロトン(H+)を汲み出す。ATP合成酵素(ATP Synthase)は、このプロトンの濃度勾配を利用して、ADPにリン酸(Pi)を1つ結合させて、ATPを合成する。
機能

ミトコンドリアの主要な機能は、解糖系やTCAサイクルなどで生成した産物を利用して、電子伝達系に高エネルギーの電子を送り込み、それを酸素に押し付けながら作り出したプロトンの濃度勾配で、ATP合成酵素を駆動して、ADP酸化的リン酸化によってATPに変換する機能である。


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