ミサイル防衛
[Wikipedia|▼Menu]

ミサイル防衛(ミサイルぼうえい、英語: Missile Defense, MD)または弾道ミサイル防衛(だんどうミサイルぼうえい、英語: Ballistic Missile Defense, BMD)は、主に弾道ミサイルからある特定の区域を防衛すること及びその構想である。敵のミサイルを迎撃するミサイル防衛は時代と共にその名称が変遷して国家の安全保障にとって重要になってきている[1]弾道弾迎撃ミサイル スタンダードミサイル SM-3
歴史
ミサイル防衛の始まり

核ミサイルが登場した当初から、これを爆発前に撃ち落とす技術の開発は始まっていた。

1960年代にはの双方でABM(Anti-Ballistic Missile)と呼ばれる弾道弾迎撃ミサイルが開発されている。当時は精密誘導技術が未熟だったため、迎撃ミサイルにも核弾頭を搭載し、核爆発の広範な破壊力によって命中率を補う方式であった。これにより、相互確証破壊の崩壊を懸念してABMの配備を制限する弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)が米ソ間で結ばれた。

しかし、核ミサイルを迎撃するのに核ミサイルを使用したのでは、放射性降下物の被害が避けられないこと、大気圏での核爆発に伴う大規模な電磁パルス障害のせいで電波障害や送電系統の破壊が起き、敵国の第二次攻撃に対抗できないことから、このような核弾頭を搭載するタイプの迎撃ミサイル開発は次第に廃れていく。
SDI

1980年代に入ってから、アメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンは、戦略防衛構想(SDI、Strategic Defense Initiative / エス・ディー・アイ)構想を発表した。人工衛星に搭載したレーザー兵器電子ビーム[2]および迎撃ミサイルによって、飛来するミサイルを破壊するというものであった。開発には巨額の予算が投じられたが、実現には至らなかった。この計画は、当時の技術力ではあまりにも非現実的でスペースオペラ張りであったため、「スターウォーズ計画」と言われた。

SDI構想については、現実味の薄い計画に無駄に大金を投じたという批判がある一方で、ソ連に対抗策を強要してその崩壊を早めさせたという意見もある。実際にソ連では衛星攻撃兵器によりSDIの迎撃衛星を破壊する実験が行われていた。なおソビエト連邦の崩壊を早めさせたという意見については、公開された当時のソ連首脳部の方針を根拠にしてカール・セーガンらが否定的な見解を出している。
GPALS

冷戦の終結後、ソ連の脅威に代わって戦域弾道ミサイルの拡散が大きな問題になった。そして湾岸戦争をきっかけに、弾道ミサイルの脅威が広く知られるようになると、ジョージ・H・W・ブッシュ政権の下、GPALS(Global Protection Against Limited Strikes / 限定的攻撃に対する地球規模防衛構想)が提唱された。SDIが超大国間の大規模な攻撃を想定していたのに対して、GPALSは湾岸戦争でのイラクのような国による弾道ミサイル攻撃への対処を目的とし、ソ連との共同開発[3][4]も図られた。

迎撃方式も改められ、宇宙配備と地上配備の迎撃・追跡システムを組み合わせる事とされていた。後述のTHAADやパトリオットミサイル PAC-3が計画されたのはこのころである。
TMDとNMD

ビル・クリントン政権が、GPALS計画を破棄し、代わって打ち出したのがTMD(Theater Missile Defense/戦域ミサイル防衛)である[5]。これは、GPALSで予定されていた宇宙配備の迎撃システムを構築するためにはABM条約を破棄せねばならず、これを嫌ったためとされている。TMDでは地上配備型の迎撃ミサイルが迎撃の中心となっている。

その後、再びアメリカ合衆国本土を狙うことができる長射程の弾道ミサイルに対する懸念が高まった。具体的には、イランシャハブ3や、北朝鮮テポドン1などである。これらは射程が1,000km前後であるものの、将来的には米本土に対する脅威になりえると見られていたからである。この脅威に対抗するために始められたのがNMD(National Missile Defence/米本土ミサイル防衛・国家ミサイル防衛)である。
現代のミサイル防衛

その後、これらの計画を引き継いだジョージ・W・ブッシュ政権は、NMDとTMDを統合してMDとし、大気圏外での迎撃実験を制限していたABM条約を破棄してICBM迎撃ミサイルの開発と配備を本格化させ、ヨーロッパへのMD網展開を検討するなど、前政権に比較してアメリカ本土を守るミサイル防衛に力を入れた。

なお、アメリカ以外でも弾道ミサイル迎撃能力を持つミサイルは開発されており、イスラエルアロー(Arrow)や、ロシアS-300などが知られている。
ミサイル防衛網を無効化にする取り組み

2018年3月1日ウラジーミル・プーチンロシア大統領は、一般教書演説の中でアメリカのミサイル防衛網を突破することを可能とする開発中の新型兵器を紹介。新たな大陸間弾道ミサイル(RS-28)や原子力推進巡航ミサイルなどの存在を明らかにした[6]

各国ではミサイル防衛網の突破を狙い、Falcon HTV2(アメリカ)、東風17号(中国)、アバンガルド(ロシア)など、ブースターで極超音速まで加速後、低空を滑空し目標へ突入する極超音速兵器の開発が行われている[7][8]。同時に極超音速兵器の迎撃システムの開発も行われている[8]
アメリカのBMD構想

弾道ミサイル迎撃の方法としては発射直後のブースト段階で破壊するもの、発射後大気圏外で慣性飛行している段階で破壊するもの、着弾前の再突入段階で破壊するものの3つに分けられる。基本的にこの3つは個々で使用されるわけではなく、あわせて使用され撃墜率を高める。

弾道ミサイルは射程1,500km程度なら秒速4,000m、5,500kmなら秒速6,000m、大陸間弾道ミサイルなら秒速8,000m以上で飛行し、射程1,000km以上の物なら現状では2段式から3段式になることから、長射程の弾道ミサイルほど開発するのが難しく、コストもかかり信頼性も落ちる。しかし長射程の弾道ミサイルになれば成る程、迎撃側のミサイル防衛システムの方が更に極端な高性能化(相手の速度が極大化する)が要求される事になり技術的な難易度は高くなる。

ミサイル防衛で使用される兵器は、弾道弾を所持する国家に対してその効用を全く失わせる万能兵器では無く、政治的な圧力をかける為の兵器でもない。弾道弾と大量破壊兵器を併せ持つ国家は増えるばかりだが、その種の国家の武力的恫喝に対する限定的な対処手段にすぎない限界を持っている[9][10][注 1]
早期警戒と指揮統制

弾道ミサイルの発射は早期警戒衛星によって探知される。衛星による早期警戒情報は極めて重要で、PAC-3開発時の推定によれば、早期警戒衛星の情報が無い要撃部隊単体での期待要撃率は、早期警戒衛星の情報がある場合に比べて半減するものと考えられている。

そのための衛星として現在はDSP衛星が用いられているが、その後継として宇宙空間赤外線システム(SBIRS)衛星が開発されている。SBIRS衛星においては、DSP衛星と比して、探知精度は5倍以上に向上している。これらはいずれも高感度の赤外線センサーを搭載し、特徴的な熱源を探知して、即座に地上ステーションに通報する。その情報は、アメリカ本土のMCS(Mission Control Station)または日本ドイツ韓国の米軍基地に配置されたJTAGS(Joint Tactical Ground Station)で受信される。

これらの早期警戒情報は、アメリカ四軍の統合情報配布ネットワークであるIBS(Integrated Broadcast Service)によって各部隊に送信されることになる。アメリカ軍のイージスBMD艦においては、IBSに接続するための端末であるJTT(Joint Tactical Terminal)が配備されており、IBSで配布された早期警戒情報を受信することができる。

また、早期警戒情報に続いて、発射された弾道ミサイルを識別・追尾するため、低軌道を周回するSTSS衛星(旧称SBIRS(Low))の配備も進められている。衛星以外にも、航空機搭載型の赤外線センサーも研究されており、日本においては、エアボス (AIRBOSS)として試験が行われている(#日本におけるミサイル防衛)。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:75 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef