マーズ・エクスプロレーション・ローバー
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火星上のローバーの想像図

マーズ・エクスプロレーション・ローバー(英語: Mars Exploration Rover, MER Mission)は、2003年にアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた、火星の表面を探査する2機の無人火星探査車(マーズ・ローバー)である。2機のローバーはそれぞれスピリット(MER-A)、オポチュニティ(MER-B)と名付けられている。

ローバーの運用期間は当初3か月であったが、幾度もミッションが延長された。スピリットは2010年3月に通信が途絶するまで6年間にわたり探査を実施し、オポチュニティは2018年6月に通信が途絶するまで14年以上にわたって探査を続けた。
ミッションの概要オポチュニティが撮影した火星のヴィクトリア・クレーター、ヴェルデ岬、NASAによる

マーズ・エクスプロレーション・ローバー・ミッションは、1975年1976年バイキング着陸船1997年マーズ・パスファインダーに続く、NASAの火星探査プログラムの一つである[1]。火星に2機の無人探査車を送り込み、火星表面の地質を詳細に探査し、岩石や土壌を微視的に分析することで、火星に水が存在したことを証明するのがミッションの当初の主要な目的であった。ローバーの探査活動により、過去の火星に液体の水が普通に存在したことや、酸性の湖が存在したことを示す証拠が発見され、この命題は肯定的に解決された。その後ミッションに新たな目的が与えられ、2014年時点でのMERの主要な課題は、(2012年に火星に投入された探査車マーズ・サイエンス・ラボラトリーと共に)火星に生命が存在する可能性について調査することである。

このミッションの科学的目標は、次の通りである[2]
火星表面の岩石および土壌を広範囲にわたって分析し、火星に水があった痕跡を発見する(沈積、蒸発、熱水活動など、水が関与して生成された岩石の存在を確認する)。

着陸地点周辺の鉱物、岩石、土壌の空間分布の調査。

着陸地点周辺の地史(水や風による侵食、堆積、火山活動、小天体の衝突などの履歴)の解明。

火星軌道上の探査機がこれまでに得てきた観測成果を、火星表面において再検証し、観測精度を向上させる。

鉄を含む鉱物を定量的に分析し、含水鉱物や水由来の無機物を発見する。

火星表面にある岩石や土壌の結晶構造や鉱物学的特徴を明らかにし、それらの生成過程を解明する。

火星表面に液体の水が存在した時代の環境条件を解明する。火星の環境が生命活動に適しているか評価する。

このミッションは、NASAジェット推進研究所 (JPL) のプロジェクトマネージャ、ピーター・サイジンガーと、コーネル大学の天文学教授である主任研究者スティーブ・スクワイヤーズによって進められた。ローバーの製作、発射、着陸および90日間の初期ミッションの運用にかかった総費用は8億2000万米ドル、第4次延長ミッションまで含めると9億2400万米ドル。
ミッションの経過状況詳細は「スピリット (探査機)」および「オポチュニティ」を参照オポチュニティの軌道飛行シミュレーションスピリットが、ロボットアームに装備しているツールを利用して堀を調査している際に撮影された画像。この画像は探査機が火星調査を始めてから48日目の2004年2月21日に、スピリットに搭載されている前部危険回避カメラで撮影されたものである。

時刻はUTC(協定世界時

2003年

6月10日17時59分:デルタ IIロケットに搭載されたスピリットが打ち上げられる。

7月7日15時18分:オポチュニティが打ち上げられる。


2004年

1月3日4時35分:スピリットが火星のグセフ・クレーターに着陸。なお、スピリットの着陸後1週間で、NASAのウェブサイトの閲覧回数は今までのミッションを遥かに上回る17億回を記録し、データ転送量(サイトを見た人が画像や動画をダウンロードした量)は34.6テラバイトにも達した。

1月24日1時5分:オポチュニティが、火星の反対側にあるメリディアニ平原に着陸。

1月21日:ディープスペースネットワーク (DSN) とスピリットとの通信が途絶えた。探査機はデータのない信号を転送したが、この後に予定されていたマーズ・グローバル・サーベイヤーとの通信セッションの機会を逃してしまう。

1月22日:JPLがスピリットから異常を示すビープ音を受信することに成功する。

1月23日:フライトチームがスピリットからデータを返送させることに成功する。通信途絶の原因は、初めはオーストラリアにある地球局付近の悪天候によるものと考えられていたが、調査の結果、ローバーに搭載されているフラッシュメモリのサブシステムに問題があることが分かった。スピリットは一切の探査を休止し、10日間をかけてソフトウェアのアップデートとテストを実施した。フラッシュメモリの再フォーマットを行い、メモリの使いすぎを修正するパッチを当て、この問題を解決した。オポチュニティも、これと同じ修正パッチによってソフトウェアのアップグレードが行なわれた[3]

2月5日:スピリットが活動を再開。

3月23日:NASAは記者会見を開き、火星表面上で過去に水が存在したことを決定づける証拠を発見した、と発表した(これは「主要な発見」と報道された)。科学チームの代表団は、オポチュニティが着陸したメリディアニ平原のクレーター内部にある岩石の露出部分で発見した、流水の痕跡を示す階層パターンの画像およびデータを公表した。また、ここで発見された塩素臭素の不規則な分布状態は、現在では蒸発した塩水の海岸線の跡ではないかと考えられている。

4月8日:第1次ミッション延長。NASAが探査機の任務期間を3ヶ月間から8ヶ月間に延長することを発表。事業でかかる数ヶ月あたりの280万ドルと同様に、予算の拡大は1500万ドルの追加を交えて9月までに提供された。

4月30日:オポチュニティがエンデュランス・クレーター(英語版)に到着。到達までには5日かかり、走行距離は200mであった。

9月22日:第2次ミッション延長。NASAが探査機の任務期間を6ヶ月延長することを発表。この頃、オポチュニティはエンデュランス・クレーターを離れ、着陸時に投棄した耐熱シールドの横を通過し、ビクトリア・クレーター(英語版)に向かっていた。一方、スピリットはコロンビア・ヒルズの頂上への登山を試みていた。


2005年

4月6日:第3次ミッション延長。2つの探査車が正常通り機能している最中、NASAは2006年9月までの18カ月の追加ミッションを発表した。その頃オポチュニティはエッチド・テレインに到達し、スピリットは岩の多い斜面を進みながらハズバンド・ヒルへの登頂を試みていた。

8月21日:スピリットは4.81キロメートルの走行に581火星日かかった後、ハズバンド・ヒルに到達した。探査機操作担当のクリス・リーガーによれば、ミッション開始時はスピリットとオポチュニティが保障期間の90日間を超えて作動することは予想されなかったし、コロンビアヒルズへの到達は「まさしく夢」であったそうだ。またローバーの調査主任、スティーブ・スクワイヤーズは「火星は寒冷で乾燥しているゆえ、アルミ製のローバーはさびることがない。ほとんど変化のない火星表面で、何百万年も存在し続けるだろう。人類が作った何よりも長く」と述べている。


2006年

9月:第4次ミッション延長(2007年10月まで)。


2007年

7月4日:オポチュニティによるビクトリア・クレーターの探査が決定。

9月11日:オポチュニティ、ビクトリア・クレーターに降下開始。

10月1日:第5次ミッション延長(2009年まで)。

10月2日:オポチュニティ、ビクトリア・クレーター内で調査開始。


2008年

9月2日:オポチュニティ、ビクトリア・クレーターから脱出。


2009年

5月1日:スピリットはトロイと呼ばれる緩い砂地を通過しようとした際に車輪が砂にはまり、身動きがとれなくなる。


2010年

1月26日:NASAはスピリットの砂地からの脱出を断念。以後静止観測を行うとした。

3月22日:この日を最後に、スピリットとの通信が途絶。


2011年

5月25日:スピリットとの通信が幾度も試みられたものの回復する見込みがなく、NASAはスピリットの運用終了を発表した。


2013年

5月15日:NASAは、オポチュニティの累計走行距離が35.760 km に達したと発表した。1972年12月にアポロ17号の宇宙飛行士が月で運転した月面車の総走行距離35.744 kmを上回り、NASAの地球外探査車の最長走行距離の記録を樹立。


2014年

1月24日:オポチュニティ着陸10周年。

7月28日:NASAは、オポチュニティの累計走行距離が40 km に達したと発表した。ソ連の月面車ルノホート2号の総走行距離 39 km を上回り、地球以外で最も長い距離を走行した探査車になった。


2015年

3月23日:NASAは、オポチュニティの累計走行距離が、フルマラソンと同じ42.195 km に達したと発表した。


宇宙船の構造MER-Bを搭載したデルタIIロケットの打ち上げ

マーズ・エクスプロレーション・ローバーはデルタIIロケットの先端部分に搭載できるように設計されており、宇宙船は複数の部品によって構成される。

ローバー(本体) - 185 kg (408 lb)

ランダー - 348 kg (767 lb)

後部シェル / パラシュート - 209 kg (742 lb)

熱シールド - 78 kg (172 lb)


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