マンデルフレミングモデル
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マンデルフレミングモデル(英語:Mundell-Fleming model)は、マクロ経済学におけるIS-LM分析の枠組みを海外部門に導入した、開放マクロ経済学のモデルである[1]。「マンデルフレミングモデル」は、ロバート・マンデル(1932年10月24日 - 2021年4月4日)とマーカス・フレミング(1911年 - 1976年2月3日)の2人の経済学者の名前をとっている。以下に解説するいくつかの仮定のもとで、固定相場制変動相場制における金融政策財政政策の国民所得に与える影響について、理論的なモデルを提示した。
基本的なモデル

マンデルフレミングモデルは、IS-LMモデルに海外部門を入れて拡張したものであるので、価格調整が不完全な短期モデルである。マンデルフレミングモデル分析が当てはまる場合、おおむね短期では1年、長期で数年のタイム・スパンであると考えられている[2]。比較的短期の場合、賃金・価格は大きな誤差は生じず、固定されていると考えられるため、ケインズ経済学に基づくモデルが採用され、総供給は完全弾力的であって、現実の産出量は総需要によって決定される[2]

マンデルフレミングモデルは、次の3つの方程式から構成される[3]
Y = C ( Y ) + I ( r ) + G + X ( e ) − e M ∗ ( e , Y ) {\displaystyle Y=C(Y)+I(r)+G+X(e)-eM^{*}(e,Y)}  ≪IS曲線≫

M = L ( r , Y ) {\displaystyle M=L(r,Y)}  ≪LM曲線≫

X ( e ) − e M ∗ ( e , Y ) + F ( r − r ∗ ) = 0 {\displaystyle X(e)-eM^{*}(e,Y)+F(r-r^{*})=0}  ≪国際収支の均衡条件(BP曲線)≫

但し、

Y:実質所得

C:実質消費支出

I:実質投資支出

G:実質政府支出

X:実質輸出

M*:外貨建て実質輸入

r:国内金利

r*:外国金利

e:邦貨建て為替レート(なお、貿易は実質為替レート.mw-parser-output .sfrac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .sfrac.tion,.mw-parser-output .sfrac .tion{display:inline-block;vertical-align:-0.5em;font-size:85%;text-align:center}.mw-parser-output .sfrac .num,.mw-parser-output .sfrac .den{display:block;line-height:1em;margin:0 0.1em}.mw-parser-output .sfrac .den{border-top:1px solid}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}eP*/Pに依存するが、自国物価Pと外国物価P*を硬直的、かつP=P*=1とする)

M:貨幣供給量

L:貨幣需要量

X(e)-eM*(e,Y):純輸出(あるいは貿易収支、もしくは経常収支)

F:資本収支

また、(3)について、「小国の仮定」(資本移動の利子弾力性が無限大)、すなわち資本移動が完全に自由であることを仮定すれば、(3)は単に

r = r ∗ {\displaystyle r=r^{*}}

とおくことができる[4]。また、金利平価説を組み込むのであれば、(3)を

r = r ∗ + E [ e ] − e e {\displaystyle r=r^{*}+{\frac {E[e]-e}{e}}}

このような式にすることができる。ただし、E[e]:予想(直物)邦貨建て為替レート。なお、E[e] = eという静学的期待を仮定すると、通常のマンデルフレミングモデルと同じ結論が得られる[4]。資本移動性の程度が、マンデルフレミングモデルにおいて重要な役割を果たすのである[2]

≪IS曲線≫では、財市場における均衡に加えて、経常収支が勘案される。また、自国の経済規模が相対的に小さいので、経済活動が外国の経済活動に大きな影響を与えることはないという小国の仮定を用いている。現実の経済において、日本やアメリカなど大国の経済活動が世界に影響を与えているが、金利に関しては資本がグローバルに大量移動する時代には、金利は国内事情だけで決まるわけではなく、世界の金融市場の影響を受けるため、小国の仮定は妥当である[5]

比較的短期の政策効果の分析に用いられるマンデルフレミングモデルには、
開放小国の短期の政策効果を分析するために構築されている

IS-LMモデルの開放経済版であり、経常(貿易)収支と資本収支の決定式を含んでいる

経常収支は、内外の産出量・為替レートで決定されると仮定されている一方で、資本収支は、自国と他国の金利格差によってのみ決定されると仮定されている

という特徴がある[6]

マンデルフレミングモデルは、ある意味で非常に制限的な諸仮定のもとに構築されているため、このモデルで経済政策の効果を考察する際には、十分な注意が必要である[7]

マンデルフレミングモデルは、開放経済モデルとしては重大な問題を抱えており、為替レートを無視して金利のみで資本移動が起こるという仮説は間違いであるが、その後のマンデルの後継者たちによってこうした欠点は修正されている[8]
固定相場制下でのモデルの運用

固定相場制では外国為替の需給にかかわりなく、為替レートを一定に保持する必要があり、財政政策か金融政策のどちらかを割り当てなければならない。財政政策を割り当てればGが、金融政策を割り当てればMが内生変数である。しかし、理論上ではGを調整して固定相場制度を維持することはできないので、Mを内生変数として考える。このため、貨幣供給は固定相場制の維持に用いられ、この意味で金融政策は無効である。IS-LM図(IS-LM分析)では、マネーサプライの増加はLM曲線を右シフトさせ国内の金利を低下させるので、資本の流出が発生し、その結果、貨幣市場への資本の超過供給は打ち消され、当初の産出・金利の水準となるまでLM曲線が左にシフトして均衡するからだ。拡張的財政政策では、IS曲線が単純に右シフトし、金利裁定(先物取引における均衡金利の性質)による均衡金利の回復力によってLM曲線もまた右シフトする。そのため、財政政策の産出拡大効果は閉鎖経済の場合より大きくなる。
変動相場制下でのモデルの運用

変動相場制の下では、経常収支の黒字は資本収支の赤字を意味する。換言すると、経常収支の黒字が継続する限り、対外純資産の増加が続く。外国債券は民間部門が保有する資産の一部を構成する。さらに、ここでは暗黙のうちに、外国債券と国内債券と完全に代替的であるという仮定を置く。すなわち自国通貨建て債券と外貨建て債券の期待収益率が等しい(資産の完全代替性)という仮定である。現実には国債などの債券にはリスクがあるので、リスクテイクを恐れる投資家は、政府支出増で金利が上がってもそこへ投資することを躊躇する場合がある。

このため、完全な資産代替性が成立しているという仮定の下に、対外純資産の増加は、債券市場に超過供給を、貨幣市場に超過需要をもたらし、LM曲線を左下方にシフトさせるであろう。LM曲線のシフトは、経常収支が均衡するまで続く。こうして、長期均衡は、IS曲線とLM曲線の交点において経常収支が均衡するときに達成される。

財政政策は、金利上昇に伴う消費や投資の落ち込みというクラウディングアウトだけではなく、通貨高による純輸出の減少という形によって効果が小さくなる。財政拡大は金利を上昇させる圧力を発生させるが、これは開放経済においては他国からの資金の流入を呼ぶこととなる。この資金流入によって金利は一定に保たれる一方で、変動相場制では自国通貨が増価することになる。自国通貨高は輸出減と輸入増をもたらすため外需が減少し、財政拡大によって増えた内需を相殺することになる[9]

1980年代前半、アメリカでドルが強くなりすぎた原因の1つに、ロナルド・レーガン大統領のサプライサイド経済学による法人税所得税の大幅減税があった[10]。その結果生じた財政赤字の膨張が、アメリカの長期金利を上昇させ、それがアメリカへの資本流入を呼び、ドルが過大評価されるようになった[10]。この問題解明には、為替レートを内生化したマンデル・フレミングの理論構造が当てはまり、当時その大国版をモデル化した世界経済モデルを使って、シミュレーション分析が盛んに行われた(日本の経済企画庁、アメリカの連邦準備制度経済協力開発機構など)[10]

逆に、金融政策は、為替レートの変更に伴う外需増減を通じてIS曲線も移動させるため、変動相場制下では効果が高まる。なお、上記の財政政策が無効となるプロセスにおいては、@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}金利上昇を打ち消すように[要出典]海外からの資金流入が起こるため、金利上昇自体は観察されない[要出典]ことに注意が必要である(観察されるのは通貨高である)。


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