マルテンサイト系ステンレス鋼
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マルテンサイト系ステンレス鋼製品の例。420HC製ナイフ[1]マルテンサイト系ステンレス鋼1.4034製の軸受の玉

マルテンサイト系ステンレス鋼(マルテンサイトけいステンレスこう)とは、常温でマルテンサイトを主要な組織とする組成を持つ、ステンレス鋼の一種である。耐食性と合わせて高い強度耐摩耗性を持ち、刃物タービンのブレード、軸受などで使われる。工業材料としてのマルテンサイト系ステンレス鋼は、1913年にイギリスのハリー・ブレアリーによって発明された。

マルテンサイト系ステンレス鋼とはステンレス鋼の金属組織別分類の一つで、他には「フェライト系ステンレス鋼」「オーステナイト系ステンレス鋼」「オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼」「析出硬化系ステンレス鋼」がある[2][3]。主要成分としてクロムのみを含むステンレス鋼であるため、主要成分別分類では「クロム系ステンレス鋼」に分類される。マルテンサイト系のクロム含有量は質量パーセント濃度でおよそ 11 % から 18 % 程度の範囲で、ステンレス鋼の中ではクロム量が比較的少なく、炭素の含有量が比較的多いという組成となっている。クロム量 13 % 程度含む鋼種がマルテンサイト系の基本的鋼種で、13クロムステンレス鋼や13Cr鋼などとして知られる。JISでは SUS410 や SUS420J2 が代表的鋼種である。

マルテンサイト組織にするには焼入れが必要であり、焼入れされて使用される。一般的には炭素が多いほど硬くなり強度が上がるが、炭素量を増やすにつれてクロム量も増やす必要がある。焼入れしたままだと脆いので、ほとんどの場合で焼入れ後に焼戻しがされて使用に供される。熱処理と組成によるが、マルテンサイト系はステンレス鋼の中でも最高の硬さを発現できる。同じく熱処理と組成によるが、マルテンサイト系の耐食性はステンレス鋼の中では劣る部類に入る。
基本組成と組織ステンレス鋼の基礎となる鉄・クロム系2元平衡状態図。γ がオーステナイト相の存在領域、α がフェライト相の存在領域。マルテンサイト系 AISI 420 の金属組織写真。1050 °C で30分加熱後、約 105 °C/min の速度で焼入れ冷却[4]

ステンレス鋼とは、定義的には炭素を 1.2 %(質量パーセント濃度)以下、クロムを 10.5 % 以上含む鋼である[5][6]。含有されるクロムにより、ステンレス鋼の耐食性は実現されている[7]。マルテンサイト系ステンレス鋼で含まれるクロムの量は、11 % から 18 % 程度である[8]。マルテンサイト系の組成の特徴は、高温状態で金属組織が、オーステナイト単一組織、またはフェライトを少し含む二相組織となる点である[9]。高温状態のオーステナイト中に、添加されている炭素が固溶される[10]。このような高温状態から急冷して焼入れすることにより、オーステナイトがマルテンサイト変態を起こし、組織がマルテンサイト組織となる[11]。マルテンサイトには炭素が過飽和に固溶され、組織中に転位が高密度に存在するようになる[12]。これによって、マルテンサイト系の高強度・高硬度が生み出される[12]

通常は、焼入れ後には焼戻しを行う。焼戻し後のマルテンサイト系の組織は、炭化物析出した焼戻しマルテンサイト組織となる[13]。組織がオーステナイトになる手前の高温域で焼なましした場合は、炭化物が析出したフェライト組織となる[13]炭素を 0.2 % 含んだときの鉄・クロム平衡状態図[9]

マルテンサイト系の組成の特徴として、ステンレス鋼の中ではクロムの含有量が比較的少なく、炭素の含有量が比較的多いという特徴を持つ組成となっている[14]。鉄・クロム系2元状態図を見ると、クロムの含有量が増えるに連れて高温でのオーステナイト組織領域は狭まり、最終的には消失する[9]。一方、炭素の含有を増やすことで高温域でのオーステナイト組織領域が広がる[15]。マルテンサイトを得るために、マルテンサイト系ではクロム含有量を増やすのに応じて炭素含有量を増やす必要がある[16]。マルテンサイト系の炭素含有量は、典型的には 0.1 % から 1 % 程度の範囲である[17]

クロム 13 %、炭素 0.2 % の組み合わせが、マルテンサイト系ステンレス鋼の基本的な組成とされる[14]日本工業規格(JIS)の鋼種では、クロム 11.50–13.00 %、炭素 0.15 % 以下のSUS410や、クロム 12.00–14.00 %、炭素 0.26–0.40 % のSUS420J2が代表的鋼種に相当する[18][19]。これらの鋼種は13%Cr鋼、13Cr鋼、13クロムステンレス鋼、13クロムステンレス、13Cr系などとも総称される[20][21][22]オーステナイト系ステンレス鋼のようにニッケルを主成分として含むステンレス鋼もあるが、マルテンサイト系はニッケルを主成分としては含まない[23]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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