マルチ商法
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マルチ商法(マルチしょうほう)あるいはネットワークビジネスは、会員が新規会員を誘い、その新規会員が更に別の会員を勧誘する連鎖により、階層組織を形成・拡大する販売形態である。英語では"Multi-level marketing"(マルチ、マルチレベルマーケティング、MLM)あるいは"network marketing"(ネットワークマーケティング)と呼ばれる[1][2]。個人を販売者(ディストリビューター)として勧誘(リクルート)し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせるという形で、連鎖的に販売組織を拡大していく[3][4][5]紹介口コミで販売者のネットワークを構築し、会社の流通チェーンを拡大することに重点が置かれている[6][2][7]

マルチ商法は、従来のネズミ講の単なるバリエーションとして、一部の法域で違法または厳しく規制されてきた[8][9]。日本では特定商取引法で連鎖販売取引として規制されている[10][11]

商法であると同時に、ポジティブシンキングを組織的に学んで自己変革をする運動でもあり[12][13][14]仲間づくりの仕組みでもある[15]。ビジネスや人生で実践することでセラピー的プロセスが生まれ、宗教的要素もあると考えられている[16][17][18]
概説

「マルチレベル・マーケティング」と称される商形態の起源は諸説あるものの何れもアメリカで始まったという点では一致している。1868年に創業したホームプロダクツ業者のJ・R・ワトキンス(英語版)は代理店を通じて製品を販売する一方で代理店が別の業者を代理店としてスカウトした場合に報酬を支払う商法を採用しマルチ商法の原型を生んだと言われている[19]。その後1890年にはカリフォルニア香水社(現エイボン・プロダクツ)・1934年にはカリフォルニア・ビタミン(その後ニュートリライトに改称し現在はアムウェイ傘下)が創業し、同様の販売手法を採用した。

日本には1970年代にアメリカホリディマジックが進出した頃から始まったと言われている。マルチ商法は、Multi-Level Marketingの日本語訳として定着し使用されていた。当時この商形態を規制する法律がなく、取引や勧誘に際しての問題や事件が発生し社会問題となったことから、1976年に制定された「訪問販売等に関する法律」において「連鎖販売取引」として定義され、要件に該当するものは勧誘などの行為が法律による規制の対象となった。「訪問販売等に関する法律」は、2000年に「特定商取引に関する法律(特定商取引法、以下・特商法)」に改称され[10]、以降数度の法改正を重ねて現在に至っている。

2001年までは特定負担金の額(2万円以上)など連鎖販売取引の定義条件に当てはまらないものが「マルチまがい商法」と呼ばれていた。そして、当時の大手を含めた多くのマルチ商法企業は、規制逃れを目的に特定負担金を連鎖販売取引の定義条件以下(2万円未満)に設定していた為、連鎖販売を主宰している企業のほとんどがマルチまがい商法という状況だった。そのため、2001年6月1日の法改正にて、連鎖販売取引の定義から特定負担金の条件がなくなった結果、規制逃れをしていた企業もすべて連鎖販売取引(マルチ商法)にと区分されることになった。

マルチ商法の勧誘の手法は、カルトが使うマインド・コントロールに結びつけて論じられ「経済カルト」と呼ばれることもある[20][21]三菱総合研究所大学生協はマルチ商法を大学生活で注意すべき50の危険の内の1つに数え、大学生に向けて注意喚起を行っている[22]
マルチ商法の形態

ピラミッド型のヒエラルキーを形成することや、新たな参加者の勧誘などの販売展開の方法がねずみ講と類似しており、過去に「ESプログラム」や「アースウォーカー」は、マルチ商法(連鎖販売取引)として展開していたものの、実質はねずみ講であったとして摘発されている。マルチ商法の形態は多種多様である。

加盟者が新規加盟者を誘い、その加盟者がさらに別の加盟者を誘引するという連鎖が行われる。階層組織を拡大させるタイプもあれば、中央に集中する形のものもある。また「加入者に上限を定めている」と謳う場合もあるが、現実離れした上限設定である場合も多い。末期には勧誘を停止させ、購入での貢献を会員に求める形に形態を変化させる場合もある。さらに下部が一定数になるとトップが抜けて行くタイプなど商形態は実に様々である。また新たなタイプの発生も予想されるので、組織形態からマルチ商法を把握するのは困難である。

加盟者は個人である場合が多いが、時として法人である場合もある。なお加盟者が法人であった場合、クーリングオフなど特商法の規制が適用されない場合がある。

組織に加盟している者は、契約上は商品を売る企業から独立した事業主の立場となるが、多くの場合、上位加盟者(アップ)から誘引された他の加盟者やダウンラインなどとグループを持ち、組織的に新たな従事者を誘引する活動を行っている場合が多い。

現在のマルチ商法形態の中には、商品やサービスと金銭の流れは全て(もしくは大部分)主宰企業から会員直接の取引となり、紹介者、紹介された人との間での売買関係はないものも多い。

新規加盟者を増やすことや、加盟者及び配下の加盟者(ダウンライン)の商品購入金額により、自分がランクアップしたり(ランク制度)、報酬(コミッション、ボーナスとも言われる特定利益のこと)の対象範囲が大きくなって、利益が増える仕組みを取るところが多い。当然、報酬の設定も会社によって異なる。新規加入によって作られる組織として、ブレークアウェイと呼ばれるものの他に、ユニレベル、マトリックス、バイナリーなど様々あるが、それらを組み合わせた複合型も多く見られる。

業界団体として全国直販流通協会(直販協)、日本訪問販売協会(共に、マルチ商法その他を含む訪問販売全般が対象)がある。
定義

実際「マルチ商法」という用語は正式な法律用語等ではなく合法違法の別なく様々な定義が存在するが、その中で使われている代表的な用法をいくつか示す。
連鎖販売取引のこと[10][23](通常、この定義で用いる。多くの辞書でもこの意味で用いられている。消費生活センターも、この用法を採用している)。

連鎖販売取引と、それに類似したものの総称。

連鎖販売取引のうち商品を再販売するもの。

連鎖販売取引とそれに類似商法のうち悪質なもの[23][24]

また、無限連鎖講の防止に関する法律(ねずみ講防止法)によって禁止されているねずみ講と近接する部分が多く、公序良俗違反として同法の違反が認定された判決も多い[25]。マルチ商法の中には、売買契約と金銭配当組織とを別個の契約と解し、金銭配当組織部分は実質的にはねずみ講であり公序良俗違反とされた判例もある[26]
問題点・批判

相手を「誰でも簡単に高収入が稼げる」などと勧誘して販売組織に加入させ、紹介料やマージン等の利益を得る構造となっている[27][28]。1人で創業したマルチ商法組織が毎月1人ずつ新加盟者を参加させられたと仮定した場合も、32か月でほぼ全地球人口が加盟者となる計算になる。マルチ組織に誘引された人の大部分は、知識の乏しい学生、主婦、若い勤労者などとなっている[28]。マルチ商法組織と、宗教カルト自己啓発カルトなどには共通点があり、狙う対象や取り込まれ方も似ている[29]

勧誘に応じた側は、借金による自己破産、人間関係の断絶、家庭の崩壊を経験する[30][31]。親がマルチ商法に関わっている「マルチ商法2世」にも影響が及ぶ[31]

表向き合法であるマルチ商法を謳う組織でも、違法となるネズミ講と判断された事例も多い。やり方はカルト宗教と同じように勧誘してくる[32]

西田公昭によると、他者の夢や不安につけ込んでマルチ商法や投資の勧誘をしてくる人々は商業カルトとも言われる[33]

マルチ商法は数段階下からの不労所得的な報酬(コミッション、ボーナス)を勧誘時の誘引材料にしている場合がもっぱらである。『ダウン』と呼ばれる配下の加盟者を勧誘・加入させ、かつ一定額以上の商品購入を継続して行わなければならないことが現実(表面に現れないノルマとも言われている)である。また加盟者が期待する様な、安楽な生活ができるほどの高額報酬を得るためには自分の下である加盟者が多数が必要であるため、結果として成功者は加盟者全体に対しる上位僅かのみになる。「1人の会員が2人ずつ新規会員を加入させた」と仮定した場合、28世代目では日本の総人口を上回る1億3千万人(227)が必要となる。

マルチ商法は、法律違反や「人間関係のしがらみ」を利用した断りにくい勧誘方法など様々な問題のある活動が相次いだことにより、国民生活センター消費生活センターでは、マルチ商法を悪質商法であるとし、注意喚起を行っている[34][35]。上記の為、社会一般でマルチ商法と言うとき、その印象は極めて悪いものとなっている。そうした事情から「ネットワークビジネス」「紹介販売」等の別の呼称を使っている場合がある。また業者により独自の呼称で呼んでいる場合もある。しかしながら商法の呼称に関わらず特商法にいう「連鎖販売取引」に該当している限り、同法の規制を受けることとなる。

連鎖販売取引は、特商法その他関係する法律を遵守する限り違法なものではないが、一般的な商取引に関係する法律に加えて特定商取引法により更に規制を受けている形であると言える。
規制・違法認定基準・処罰

日本国では、マルチ商法はトラブルが起きやすいために特商法で「勧誘目的を告げる」など事業者側へ義務や禁止行為を規定する規制をしており、違反した会員が出た場合に事業者自体も処分することができる。特定商取引法で禁止されているのは、目的や事業者名を相手に明かさない勧誘、又は商品やサービスの概要を記載した書面を渡さない勧誘などであり、これらのどれかに反したマルチ商法の勧誘は違法となっている[36][37][38]。しかし、これらに違反しても、勧誘者らの逮捕例は無く、マルチ商法が野放し状態になっていた[37]

2021年11月11日に京都府でマッチングアプリ経由で知り合った人に、勧誘目的であることを隠して勧誘行為をしたアムウェイ勧誘者らが逮捕され[39]、マルチ商法(マルチ・ネットワークビジネス)勧誘者ら検挙の初事例となった[37]

違反時には消費者庁から法的な処罰が与えられる。連鎖販売業者「日本アムウェイ合同会社」は、社名や目的を言わずの勧誘(統括者の名称及び勧誘目的の不明示)、目的を告げずに勧誘相手を密室や公衆の出入りしない場所に連れ込んだ勧誘、相手の意向を無視した一方的勧誘、契約締結前に書面を交付しない勧誘(概要書面の交付義務に違反)、という4種類の特商法違反を確認されたため、消費者庁によって2022年10月14日に「6カ月の取引停止」という法的処罰が与えられた[40][41][38]

紀藤正樹弁護士は、アムウェイについて1997年に国民生活センターに「苦情・相談件数が4年連続で1000件を超えている」と公表され、マルチ商法という言葉を日本に広めた企業だと述べている[42]。マルチ商法は「原則違法」であり、特定の条件(後述)を満たした場合のみ合法となっている商法であると解説している[42]

紀藤弁護士によれば、当初の特商法は、特定負担(初期費用)が2万円以上かかるマルチ商法のみを違法としていたが、特定負担が2万円未満の悪質マルチ商法が多発した。そのため、2000年の改正で「特定負担が1円以上のマルチ商法は、特定の条件を満たさない限りは違法」と定められた。特定の条件とは、製品名や価格、販売員の氏名、クーリングオフの告知など、必要な要件が定められた契約書の作成である[42]
連鎖販売取引など他の名称

連鎖販売取引もマルチ商法も、「ネットワークマーケティング、ネットワークビジネス、MLM」などの別称で呼ばれる事が多い。連鎖販売取引とマルチ商法が同義であるかという件については、各省庁や消費生活センターなどの公的機関においても見解が分かれている。

経済産業省警視庁日本司法支援センター(法テラス)[43] においては、連鎖販売取引とマルチ商法を同義で使用している。

独立行政法人国民生活センターでは、連鎖販売取引とマルチ商法を同義として使用していない。国民生活センターは、マルチ商法をねずみ講的販売方式全般について広く総称することを基本としている。

地方自治体の消費生活センターでは、マルチ商法を連鎖販売取引と同義としている場合や、ねずみ講的販売方式全般について広く総称している場合など、消費生活センター毎に違いがあり、必ずしも統一して使用されているものではない。

(連鎖販売取引企業も多数加入する)公益社団法人日本訪問販売協会では、「一般的には特定商取引法の連鎖販売取引において、法規制を守らない悪質な商行為を「マルチ商法」と呼ぶことが多い」[44] としている。

このように、公的機関内であっても見解が一致しておらず、連鎖販売取引がマルチ商法、ネットワークビジネスをはじめとして、主宰する企業によって様々な別称で呼ばれる場合も多く、消費者にとって非常にわかり難い状況になっているのが現状である。

業界紙「月刊ネットワークビジネス」の2008年11月号「マンガ安心法律学校(4)/マルチ商法とねずみ講の違いって?」において、「(連鎖販売取引が)マルチ商法ではない」と告げることは「不実の告知(真実を言わない、告知しない)」という法律違反となる恐れがあると、注意を呼びかけている。又、同様の説明をしている企業もある。[45]
参加者・組織の特徴
自己啓発セミナーとの類似性


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