マヤ文字
[Wikipedia|▼Menu]

マヤ文字

漆喰に刻まれたマヤ文字(パレンケ博物館蔵)
類型:表語文字 (表語文字音節文字の混用)
言語:マヤ語
時期:紀元前3世紀頃-紀元後16世紀
Unicode範囲:割り当てなし
ISO 15924 コード:.mw-parser-output .monospaced{font-family:monospace,monospace}Maya
注意: このページはUnicodeで書かれた国際音声記号 (IPA) を含む場合があります。
テンプレートを表示

マヤ文字(マヤもじ。: Mayan script, 西: Escritura Maya)は、マヤ地域の主に低地で使用された過去の表記体系であり、マヤ語族に属する言語(古典マヤ語と呼ばれる)を表記するのに用いられている。碑文・壁画・絵文書などの資料が残されているが、確実に年代のわかる資料は292年の日付のあるティカル石碑29であり、それからスペイン人によって植民地支配される16世紀後半まで、少なくとも約1300年にわたって使われた[1]。なお、サン・バルトロ遺跡で発見された紀元前300年のものという壁画に文字が記されており、より古い時代にも文字があったことが明らかである[2]

エジプトヒエログリフアナトリア象形文字と同様、表語文字表音文字音節文字)の組み合わせによる表記体系である。文字の数は650から700種類があると見積られているが、ひとつの時代に使われる文字の数が400を越えることはない[注釈 1][3]
文字の構造文字の読み順

マヤ文字は正方形に近いマスに収まるように書かれる。学者はある資料のマヤ文字に、左から右にラテン文字でA,B,C...のように、上から下に算用数字で1,2,3...のように番号をつける。ある程度長文のものは、2行ずつ縦書きに読む。すなわち、A1,B1,A2,B2,...の順に左・右・左・右と読んでいき、下までいったらC1,D1,C2,D2,...のように進む。

1マス分の文字は、複数の文字素[4]からなる。通常主字と呼ばれる大きく正方形に近く書かれる字がひとつと、その周囲に小さく長方形に近い形で書かれるいくつかの接字からなる。接字はその位置によって主字の上に書かれる上接字、下に書かれる下接字、左に書かれる前接字、右に書かれる後接字があるほか、主字の中に書かれることもある。また、複数の文字が融合してひとつの文字として書かれることもある。表語文字1字で表記する場合と音節文字を組み合わせて表記する場合

各文字素は表語文字または音節文字である。翻字するときには慣習として前者を大文字で、後者を小文字で記す。表語文字にはたとえばB'ALAM「ジャガー」がジャガーの頭の形をしていたり、PAKAL「盾」が盾の絵だったりするように絵文字的なものもあるが、何を表しているかがその形からは不明な抽象的あるいは幾何学的な文字も多い[5]。なお、通常の文字のほかに、頭字体といって人間の頭の形をした文字や、全身体という人間の体の形をした異体字が使われることがある[6]

文字素の一覧にはジョン・エリック・シドニー・トンプソンが1962年にまとめたカタログがあり[7]、接字に1-500、主字に501-999、頭字体に1000-1299の番号がつけられている。トンプソンのカタログはマヤ文字解読以前の古いものであるが、出典を記しているところが便利であり、トンプソン番号(T-を番号の前につける)は現役で使われている。その後の研究を反映した、より新しいカタログにはマーサ・J・マクリらによるもの(2003年と2009年に出版)がある[8]

音節文字はCV型の音節を表す。CVC型の音節を表すときにはCV-CVのように2つの音節文字で表記し、2番目の母音を読まない。このときに1番目と2番目の字の母音が同じになるようにする。これを共調和(synharmony)と呼ぶ。両者の母音が異なる非調和的(disharmonic)なものもあるが、これは母音が長母音(CVVC)であったり喉頭化(CV'C)していたりすることを表すと考えられている[9]。非調和の場合の解釈は現在も学者によって意見が一致しない[10]。なお、2番目の母音を読まないのではなく、3番目の子音が省略される、すなわちCVCVCをCV-CVだけにして最後のCを書かない場合もある[11]

表語文字の接字として読みを補助するための音節文字が付加されることがあり、これを音節補助記号[注釈 2](phonetic complements)と呼ぶ[12]。通常は表語文字の最初または最後の音が補われる。たとえばB'ALAM「ジャガー」の字の前接字としてb'aを加えてb'a-B'ALAMとしたり、後接字としてmaを加えてB'ALAM-maとしたりする。通常これらの音節文字は冗長なものだが、ときには複数の読みがある文字の音を決定する重要な働きを果たすことがある。たとえばカラクムル紋章文字に使われるヘビの表語文字には通常音節補助記号ka-が加えられるが、これはチョル語群の音であるchanではなく、ユカテコ語形であるkanと読むように指示していると考えられる[13]。音節補助記号は翻字するときには角括弧で囲まれる。

ほかにいくつかの補助的な記号が使われる。たとえば左に2つの点を打つと、踊り字のように文字をくりかえすことを示す[14]

ひとつの文字に複数の読みがある場合もある。たとえばツォルキンの日付であるKAWAKを表す表語文字(T-528)はTUN「石、トゥン」とも読まれ、この場合には通常音節補助記号-niが付加される(古典期後期にはさらにtu-も加えられる)。また音節文字としてはkuと読まれる[15][16]。これを多音性(polyphony)と呼ぶ。

逆に、あるひとつの語に対する表語文字、あるいは同じ音節に対する音節文字が1種類でなく、複数あることも多い[17]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:57 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef