マツタケ
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マツタケ
松茸(下に敷かれているサワラの葉は殺菌効果がある)
保全状況評価[1]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))

分類

:菌界 Fungi
:担子菌門 Basidiomycota
:真正担子菌綱 Homobasidiomycetes
:ハラタケ目 Agaricales
:キシメジ科 Tricholomataceae
:キシメジ属 Tricholoma
亜属:キシメジ亜属 Subgen. Tricholoma
:マツタケ節 Sect. Genuina
:マツタケ T. matsutake

学名
Tricholoma matsutake
(S.Ito & S.Imai) Singer
シノニム

Armillaria matsutake S.Ito & S.Imai
和名
マツタケ
英名
Matsutake[1],
Matsutake mushroom[2]

マツタケ(松茸[注 1]、Tricholoma matsutake)は、キシメジ科キシメジ属キシメジ亜属マツタケ節の中型から大型のキノコの一種。日本ロシアを含むアジアヨーロッパ北アメリカに分布する(「#主な産地」参照)。腐植質の少ない比較的乾燥した土壌を好む。秋にアカマツの単相林のほか針葉樹優占種となっている混合林の地上に生える。菌糸体の生育温度範囲は5 - 30、最適温度は22 - 25℃、最適pHは4.5 - 5.5であり、菌糸の成長速度は遅い。生育地となる松林が世界的に松枯れなどの病気に悩まされていることなどもあって、減少傾向にある(「#保全状況」参照)。国際自然保護連合(IUCN)が2020年7月に絶滅危惧種に指定した[4]

特有な芳香があり、日本では高級な食用キノコとして珍重されるが、日本国外では不快な臭いとみなされていることが多い[4]
特徴

日本、朝鮮半島、台湾、中国、北ヨーロッパの地域に分布する[5]。外生菌根菌(共生性[6])で、初秋から晩秋にかけてアカマツ林に発生する[5][7]。まれに梅雨期のアカマツ林に発生したり、クロマツツガコメツガエゾマツハイマツゴヨウマツなどの木の下にも発生することが知られている[8][7]。ときに菌輪をつくる[5]

キノコ(子実体)の傘の径は8 - 20センチメートル (cm) で、生長すると径30 cmになるものもある[7]。はじめは縁が内側に巻き、球形に近い丸山形(まんじゅう形)であるが、後に中高の平らに開き、最後は縁が反り返る[8][5][7]。傘の表面は淡黄褐色から栗褐色で、繊維状の鱗片に覆われて模様がつく[8][7]。ヒダは湾生し、白色で密である[5]。柄(軸)は8 - 20 cm、あるいはそれ以上になる[8][7]。傘と同じく褐色の鱗片で覆われ、上部に綿毛状のツバがあり、ツバから上部は白色[5]。肉は白色で緻密である[8]

その子実体は、マツタケオールによる独特の強い香りを持ち、日本においては食用キノコの最高級品に位置付けられている。梅雨頃に生える季節外れのマツタケはサマツ(早松)とも呼ばれ共に食用にされる。なお、マツタケの仲間にはよく似たキノコが多数確認されている。
生態

アカマツの樹齢が20年から30年になるとマツタケの発生が始まり30年から40年が最も活発で、70年から80年で衰退する[9]。マツタケは菌根菌で、マツ属(Pinus)などの樹木のと、外生菌根または外菌根と呼ばれる相利共生体を形成して生活している[10][11]。樹木の根を伝って菌糸が広がり、生え始めの地点から周辺に向かって輪になって子実体が生えてくる[8][注 2]

マツタケの子実体は直径数メートルの環状のコロニー、いわゆる「フェアリーリング」(天使の輪)を作って発生し、1年でおおよそ15 cmの速度で拡大し[8]、その領域を「シロ」と呼ぶ。その語源は「白」とも「城」あるいは「代」とも言うが定かではない。シロの地下にはマツタケの本体である菌糸体と菌根が発達しており、土壌が白くなっている。マツタケは貧栄養な比較的乾燥した鉱質土層にクサレケカビ属真菌(Mortierella sp.)[12][13] などと共に生息し、そこに分布する宿主の吸収根と共生する。

地表に落枝・落葉・松ぼっくりなどが蓄積して富栄養化が進み、分厚い腐葉土のようになると、腐生菌が増えたことで生存競争に敗れてマツタケが発生しなくなってしまうので、生息環境としては不適である[8]。後述する日本における収穫量の減少は、開発やマツクイムシ被害による松林の減少に加えて、里山の住民が肥料や燃やす燃料として落ち葉やをとらなくなったことによる土壌の富栄養化が大きな要因になっている[4]

発生初期の若い菌糸のシロと最盛期を過ぎたシロの水分量には差があり、最盛期を過ぎると乾燥化が進み不透水層が形成される[9]。シロの内部では乾燥化が進み抗生物質様のものを分泌して細菌や放線菌を排除する現象が生じているが、いや地と呼ばれるこの排除現象は菌根から由来する物質単一では起こらないと考えられている[9]。また、子実体原基形成の刺激日前後の降水量と子実体の発生本数には正の相関があることが明らかになっていて、8月から9月の降水の間隔は発生本数に大きな影響を与えている(但し、一回のまとまった降雨ではなく乾燥が進まない一定の間隔での降雨が重要)。

一方、腐生植物であるシャクジョウソウ科シャクジョウソウはマツタケなどのキシメジ科の菌に寄生することが知られ[10]、イボタケ科のケロウジは、マツタケ同様の菌根菌であるが、マツタケの「シロ」を排除して縮小させ、自らの「シロ」を形成する。そのため、これらはマツタケの大敵とされている[14]
遺伝子による分類

1999年、スウェーデンのE. DanellらがDNA解析により、近縁種とされていたヨーロッパ産のキノコ(T. nauseosum)とマツタケが同一であることを突き止めた[5]。T. nauseosumの方がマツタケ(1925年)より20年前(1905年)に学名を付けられていたが、有名なT. matsutakeを保存名として、学名は変更しないとしている[15]。日本国内で採集した84菌株についてrDNAのIGS1領域を比較した結果、8タイプに分類することが出来た。そのうち1つの占有種は九州から北海道まで広範囲に分布している[11]

近年、中華人民共和国四川省雲南省からマツタケが出荷されているが、この地域に分布するマツタケはマツ類ではなくブナ科樹木(マテバシイ属コナラ属シイ属あるいはクリ属が含まれる)を宿主としており、現在その生態や分類に関する研究が行われている。

2008年、独立行政法人森林総合研究所財務省関税中央分析所、信州大学農学部、滋賀県森林センターの共同研究により、DNA分析によるアジア産マツタケ(T. matsutake)の地理的タイピング法が開発され、形状では判別できない産地の判別方法として実用化が期待される[16]
農産松茸

マツタケは生育段階によって、俗に「ころ」「つぼみ」「ひらき」とよばれている。「つぼみ」は傘の膜切れがないつぼみの状態で、軸の直径3.5センチメートル (cm) 以上、長さ12 cm以上のものを指し、弾むような歯ごたえで高値がつく[17]。「ころ」は生育不十分で傘が固く締まった長さ6 cm以下のものを指す[17]。「ひらき」は傘が開いた状態のものである。

マツタケが生える山林は「マツタケ山」と呼ばれており、アカマツ林の尾根から中腹にかけての痩せた乾燥気味の土地に良く生える[17]。平坦で落葉樹の葉がたくさん落ちているような、栄養分の多い土地には生えることはなく、マツタケ菌は他の菌に比べて弱いため、腐葉土が多く養分がある土地では他の雑菌に負けてしまう[17]。生産量減少の主な要因は、山林の放置と宅地造成の拡大と言われており、アカマツ林の保全が提唱されると共に、自然に生えるものから、農産物として山林を手入れをして生やすものへの転換も行われている[17]
収穫と流通

マツタケを採るのは難しく、通常のキノコのように地表に顔を出して傘が開ききってしまえば、香りも味も落ちる。このため、地表からわずか1 - 2 cm程度、顔を出したところを見極め、根本から押し上げるようにして採取する。シロの場所を知らない人間が、やみくもに探しても採取できない理由はこの点にある。また、地衣類の多い林地では傘が地上に見えないこともある。現在のところ人工栽培することができず、自然に発生したものを収穫する。

入会地の過剰利用などにより退行遷移を起こしてアカマツが優占するようになった里山はマツタケにとっては適した環境であるため、過去には日本でも多く取れ、庶民の秋の味覚として親しまれた。「松茸列車」と呼ばれる、国産松茸を満載した貨物列車が毎日東海道本線を走ったほどである[18]。しかし、マツの葉や枝を燃料肥料として利用しなくなり、マツ林が手入れされなくなったため腐葉土が増え、林床環境が富栄養化したことと、マツクイムシの被害により松枯れが多発したことでマツ林が極端に減少したためにマツタケの収穫量は激減した[7]。そのため、現在では高価な食材の代表格となっている[7]

林野庁の資料によれば、昭和初期の流通量は6000トン程度で、最盛期の1941年(昭和16年)には1万2000トンが記録されている。しかし、その後減少し続け1965年(昭和40年)に1291トン[19]、1998年(平成10年)に247トンであった[20]。2010年(平成22年)には140トン、23億円を産したが、これが前年比5.8倍である[21]

1993年のような冷夏で雨の多い年は多く発生するものの、夏が暑く8月中旬から9月末頃の降水量が少ない年は収量が減少するとされてきたが、2010年のように記録的猛暑にも拘らず秋の降水量が周期的で十分多かったことでマツタケが歴史的豊作になる年が出現するに及んで、夏の猛暑自体は地中温度にあまり影響を与えないために影響は受けにくいと考えられている[22]

最近では市場流通量のほとんどが輸入品で占められ、中でも韓国北朝鮮中国(特に吉林省・雲南省・四川省)からの輸入が多い。


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