『マスコット』(フランス語: La Mascotte)は、フランスの作曲家エドモン・オードラン(英語版)による全3幕のオペレッタ(オペラ・コミック)で、1880年12月28日にパリのブフ・パリジャン座にて初演された[1]。本作はオッフェンバック以後のフランス・オペレッタの代表的傑作の一つである[2]。台本が非常に面白く、マスコットの伝説のクプレの旋律も洒落ていて、なかなかの名曲[3]。マスコットとは「人々に幸運をもたらすと考えられている人・動物・もの」のこと[4]。日本でも浅草オペラ時代にしばしば上演された[5]。
概要エドモン・オードラン アルフレッド・デュリュ
本作はオードランの最も人気のある作品で、リブレットはアンリ・シヴォ(フランス語版)とアルフレッド・デュリュ(英語版)が作成した[1]。この魅力溢れるオペレッタは、当初露骨だと評されたが、それにも関わらず、大成功を収めた。有名なアリアと共に〈二重唱〉「私は羊たちよりもずっと君を愛している」(Je t'aime mieux que mes moutons)や「楽園の使者」(ces envoyes du Paradis)などのクプレなども長く人気を保った[6]。〈羊と七面鳥の二重唱〉は初日から3回もアンコールを求められた[7]。本作はフランスでは1985年に1,000回の上演を達成している[1]。本作の成功で、オードランは勿論ほくほく顔、その上、彼はブフ・パリジャン座の新しい王[注釈 1]に仕立て上げられたのだ。ポルカ、ギャロップ、サルタレッロ、マズルカ、タランテラなど覚えやすいうえに、エレガントで踊り出したくなるような音楽や魅力的なメロディが満載の『マスコット』は庶民層だけでなく、知識層の聴衆の心も魅了した。フリードリッヒ・ニーチェは1888年11月18日付で友人のペーター・ガストに宛てた手紙で次のように書いている。「最近『マスコット』を聞いた。3時間の間〈粗悪な〉時がなかった。フランス人はこの分野で茶目っ気や寛大な悪ふざけの術や懐古趣味、異国趣味、さらにはあらゆる無邪気なものを持った天才だ。巧みで繊細に、趣味良く、効果を上げる本当の術を知っているのだ」[8]。オードランは本作と『オリヴェットの結婚(英語版)』(1879年)の成功により、シャルル・ルコックに比肩する作曲家としての地位を確立すると共に国際的名声も獲得した[9]。
アメリカ初演は1881年4月11日にボストンのゲイアティ劇場にて行われた。イギリス初演はロンドンの1881年 9月19日にブライトンで行われた[1]。
なお、日本では1913年9月1日にローシーは帝国劇場初のオペレッタとしてオッフェンバックの後輩にあたるオードランの『マスコット』の初演に踏み切った。19世紀末に『マスコット』とロベール・プランケット(英語版)の『コルヌヴィルの鐘』は世界中でオッフェンバックを上回る上演回数を誇っていて、横浜居住地でも既に上演されていた。この『マスコット』の初演はまずまず成功したと言える[10]。台本は二宮行雄の日本語訳で、河合礒代がベッティーナ(原信子が演じる予定だったが、病気のため代役で出演)、清水金太郎がピッポ、柏木敏がロッコ、南部邦彦がロランを演じている[11][12][注釈 2]。