ポリプロピレン
IUPAC名
poly(propene)
別称Polypropylene
Polypropene
Propene polymers
Propylene polymers
1-Propene polymers
識別情報
CAS登録番号9003-07-0
~ 165 °C
水への溶解度0
危険性
主な危険性可燃性
NFPA 704100
引火点>300 °C
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。
ポリプロピレン(polypropylene、略称PP)とは、プロピレン重合体の熱可塑性樹脂である。
ポリプロピレンは汎用樹脂の中で、最高の耐熱性を誇り、比重が最も小さくて水に浮かぶという特徴を有する。さらに汎用樹脂としては比較的、強度が高く、耐薬品(酸、アルカリを含む)性に優れ、吸湿性が無いといった特長も有している。しかし、染色することが困難であり、さらに耐光性が低い為、ファッション性の高い服地の繊維用途には向かない。
工業的に製造が可能であり、文具、紙幣、自動車部品、包装材料、繊維製品、プラスチック部品、種々の容器、実験器具[注釈 1]、スピーカーのコーン[注釈 2]など幅広い用途を持っている。
2011年の全世界の生産能力、生産実績、総需要は、62,052千トン、50,764千トン、49,366千トンであった[1]。一方、2012年の日本国内総需要は、2,297,562トンであった。同年の生産・輸入・輸出は、2,390,256トン(415,809百万円)、302,133トン(51,258百万円)、308,229トン(41,035百万円)であった[2]。
構造と物性
立体規則性アイソタクチック (上) とシンジオタクチック (下)
ポリプロピレンの立体規則性は、ポリプロピレンの構造と物性を理解する上で非常に重要な概念である。隣り合うメチル基(右の図中のCH3)の相対的配置が、最終ポリマーの結晶形成に強く影響を与える。なぜなら、各メチル基が空間配座を決めるからである。
立体規則性の違いにより、アイソタクチック(イソタクチック)、シンジオタクチック、アタクチックの立体規則性(タクティシティー)の異なったポリプロピレンが合成される。
アイソタクチックとは、不斉炭素が同じ絶対配置を持つような構造である。具体的には、プロピレン側鎖のメチル基が全て同じ方向を向いていて、かつ、プロピレンが頭-尾結合している構造である。一方、シンジオタクチックとは、不斉炭素の絶対配置が交互に並ぶ構造である。絶対配置がランダムな構造をアタクチックと言う。なお、アタクチックポリマーは通常、結晶化しない。
大部分の工業的に入手可能なポリプロピレンは、結晶性のアイソタクチックポリマーを主成分とし、0.5%から2%程度のアタクチックポリマーを含んでいる。アタクチックポリマーは、キシレンなどの有機溶媒に可溶なので、この性質を用いて市販のポリプロピンから分離することが可能である。
タクティシティーは、13C-NMR(C13 Nuclear Magnetic Resonance: 炭素13核磁気共鳴)を用いて、メチル基のシン配置(隣り合うメチル基が同側)と、トランス配置(隣り合うメチル基が反対側)の分率を測定することにより得られる。 アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンは、結晶性の樹脂である。 アイソタクチックポリプロピレンの結晶構造は、3/1螺旋鎖を基礎とする、α晶、β晶、γ晶、スメクチック晶などの結晶構造を取ることができる。支配的な結晶構造は、α晶(単斜晶)であり、これは、αI(空間群C2/c)とαII(空間群P21/c)に分けられる。α晶は、ラメラ構造が特異であり、親ラメラにほぼ直角方向に娘ラメラが成長したクロスハッチ構造を形成する。 β晶は、六方晶であり、ラメラ構造は通常のα晶のようなクロスハッチ構造はとらない。 γ晶は、三斜晶である。通常工業的に用いられる加工条件では、発現しない。 スメクチック晶は、工業的には、フィルム成形での急冷によって現れる。 シンジオタクチックポリプロピレンの結晶構造は、8/1螺旋鎖を基礎とする斜方晶である。 ポリプロピレンは、コモノマー(主としてエチレン)との共重合の形態において3種に分類される。すなわち、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーである。 ホモポリマーは、プロピレンだけによる単独の重合体である。プロピレンと連鎖移動剤としての水素のみを用いて重合する。上述の立体規則性の他、分子の1次構造の違いは、末端のメチル基の挿入による違いにより、n-ブチル基あるいはi-プロピル基になる。メタロセン触媒により得られるポリマーでは、2,1挿入や1,3挿入により見かけ上エチレンが共重合された構造となる。 アイソタクチックポリプロピレンのDSC(Differential Scanning Calorimeter: 示差走査熱量計)によって測定される融点は、約165 ℃である。一方で、平衡融点は、187.5 ℃とされる。なお、融点は、タクティシティーが高いほど、つまり、ポリマーの分子構造が立体的に規則的であるほど上昇する。 ランダムコポリマーは、エチレンを通常は4.5重量パーセント以下の割合で、共重合体中に含有する。エチレンに加えてブテン-1も共重合した3元共重合体(ターポリマー)も工業的に合成可能である。また、プロピレンとブテン-1の2元共重合体(エチレンを含まないコポリマー)も工業的に合成可能である。 「ランダム」とは、統計的にランダムであるということを必ずしも意味しない。エチレンのポリプロピレン主鎖中の分布(ランダムネス)は、共重合反応をさせる際に用いる触媒の種類によって異なる。 必ずしも全ての分子量分画において、エチレンの分率が等しいという訳ではなく、低分子量鎖と高分子量鎖では、エチレンの含有率が異なっている。すなわち、エチレン含有量に分布(共重合組成分布)が存在する。メタロセン触媒を用いて得られるポリマーは、固体触媒を用いた場合より共重合組成分布が狭く、均一である。 ランダムコポリマーは、ホモポリマーより結晶性が低く、比較的透明で、靭性に優れ柔軟なポリマーである。ただランダムコポリマーの透明性は、ポリスチレンやアクリル樹脂などの非晶性ポリマー コモノマー(共重合されるモノマー)の含有率が多いほど融点が低くなる。 ブロックコポリマーは、インパクトコポリマー、異相共重合体 ポリプロピレンにおける「ブロック」の語は、特に断りのない限り通常の「ブロックコポリマー エチレン-プロピレン共重合体の含有率を40 - 50重量パーセントあるいはそれ以上に高くしたブロックコポリマーを、リアクターメイドTPO(ThermoPlastic Olefin ブロックコポリマーはホモポリマーより耐衝撃性に優れる一方で、ホモポリマーと比べて透明性に劣る。 ポリプロピレンの単独重合体(ホモポリマー)と共重合体(コポリマー)いずれも、その平均分子量は、連鎖移動剤として作用する水素の濃度によって制御される。ただし、同じ水素濃度であっても、反応に使用した触媒によって水素の応答が異なるため、同じ分子量を与えるとは限らない。 ポリプロピレンの平均分子量は、MFRや粘度を指標に知ることができる。 MFR(Melt Flow Rate: メルトフローレート)が、ポリプロピレンの平均分子量の指標として用いられる。MFRが高いほど平均分子量が小さい。 またMFRは、溶融した原材料が成型時に、どの程度良く流れるかを表すのにも役立つ。MFRの高いポリプロピレンは、金型への充填が容易なため、射出成形に適している一方で、耐衝撃性などの物性が低下する欠点が出てくる。逆にMFRの低いポリプロピレンは、押出機のダイから出た溶融樹脂が垂れにくいため、押出成形に適している。 ポリプロピレンの平均分子量のより基本的な指標は、固有粘度(IV: Intrinsic Viscosity)であり、ポリプロピレンの粘度は、通常はデカリン(デカヒドロナフタレン)またはテトラリン(テトラヒドロナフタレン)溶媒中で測定される。 ポリプロピレンにとっては、分子量分布も重要な指標である。ポリプロピレンの分子量分布は、GPC(Gel Permeation Chromatography: ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定される。
結晶構造
共重合
ホモポリマー
ランダムコポリマー
ブロックコポリマー
平均分子量
MFR
固有粘度
分子量分布
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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