ポリチオフェン
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無置換ポリチオフェンの繰り返し単位ポリチオフェン類は、共役系を含む骨格を持つことから、興味深い光学的性質を示す。画像は置換ポリチオフェン溶液に紫外光をあて、蛍光を発している様子

ポリチオフェン (polythiophene, PT) は含硫黄複素環化合物の一種であるチオフェン重合体(ポリマー)である。ドーピングにより共役π軌道に対して電子を付与または除去すると、導電性を持つようになる。

ポリチオフェン類の研究は1980年代ごろから活発になっていった。導電性ポリマー分野がすでに成熟期を迎えていることは、2000年のノーベル化学賞アラン・ヒーガーアラン・マクダイアミッド、そして白川英樹に「導電性ポリマーの発見および発展」における寄与として与えられたことによって確かなものとなった。導電性ポリマーの最も特徴的な性質である電気伝導率は、ポリマー骨格中で電子が非局在化していることによるものである。導電性ポリマーは「合成金属」 (synthetic metals) とも呼ばれる。しかしながら、電子の非局在化によって得られる性質は導電性のみではない。導電性ポリマーは外部からの刺激によって、光学的性質に影響を受ける。すなわち、溶媒・温度・電圧の変化や他の分子との結合により、その色を劇的に変化させる。色と導電性の変化は、共に同じ機構によって起こる。つまりポリマー構造のねじれによって共役系が途切れることに起因する。このような性質を持つことから、導電性ポリマーは光学的・電気的応答を示すセンサーとして魅力あるものとなっている。

ポリチオフェンに関する総説(レビュー)は数多く出版されており、最も初期のものは1981年に発表された[1]。ショップとコスメルは、1990年から1994年にかけて報告された文献の総説を発表している[2]。ロンカリは1992年に電気化学的合成法について[3]、また1997年に置換ポリチオフェン類の電気化学的性質について[4]概説している。マッカローによる1998年の総説は導電性ポリチオフェンの化学合成に焦点を当てたものである[5]。1990年代以降の共役ポリマーに関する総説が、レッディンガーとレイノルズによって1999年に作成されている[6]。そして、スワガーらは共役ポリマーから化学センサーについて2000年にまとめている[7]。これらの総説は、ポリチオフェンに関して、1980年から2000年にかけて報告された主要な一次文献を見出すための助けとなる。
導電性発現の機構とドーピング

導電性ポリマー中では、電子は共役系にそって非局在化している。これは普通π軌道の重なりを通してのものであり、π系が拡張されて価電子帯を形成している。このπ系から電子を取り除くか(pドーピング)、電子を与えると(nドーピング)、バイポーラロンと呼ばれる電荷を帯びた単位が生成する。ポリチオフェンから2個の電子を除去する(pドーピング)ことによるバイポーラロンの生成

ドーピングは半導体 (<1%) と比べて高い割合 (20%?40%) で施される。バイポーラロンがポリマー鎖の中を移動することによって、巨視的な導電性が発現する。ヨウ素でドーピングしたポリ(3-ドデシル)チオフェンには導電率が 1,000 S/cm に達するものがある[8]は約 5× 105 S/cm)。一般的にポリチオフェン類の導電率は 1,000 S/cm を下回るが、導電性ポリマーの用途としては導電性の高さはあまり要求されない。

導電性ポリマーの酸化、および同時に起こる対アニオンの導入(pドーピング)は、電気化学的、もしくは化学的に行うことができる。ポリチオフェンの電気化学的合成を行う場合、ポリマーが電極表面に酸化型となって付着していくのと同時に、溶媒中に溶けている対イオンが取り込まれていく。合成と同時にドーピングを行うことにより、電極上に薄膜が生成していく。この際、生成した導電性ポリマーが基質から膜の表面上に電子を流している。また、中性のポリマー膜、もしくはその溶液を作ったあとでドーピングを行うことも可能である。

導電性ポリマーの還元(nドーピング)はpドーピングと比べ一般的ではない。ポリ(ビチオフェン)の電気化学的nドーピングにおける初期の研究から、nドーピングによるドープ率はpドーピングよりも低いこと、nドーピングのサイクルは効率が悪いこと、ドープ率が最大に達するまでに要するサイクル数が多いこと、そしてnドーピングの過程はおそらく対イオンの分散が原因となって速度論的に制限を受けるようであることが明らかにされている[9]

ポリチオフェンのドーピングにはさまざまな種類の試薬が使われている。ヨウ素や臭素は導電率の高いものを与えるが[8]、不安定であり、素材中からゆっくりと蒸発していく[10]トリフルオロ酢酸プロピオン酸スルホン酸などの有機酸から得られるポリチオフェンはヨウ素のものより導電率が低いが、外的要因への安定性が高い[10][11]塩化鉄(III) による酸化重合を行うと、残存する触媒によりドーピングが起こる[12]。ただし、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を使った質量分析 (MALDIMS) による研究から、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)について、酸化剤によって部分的にハロゲン化されていることが示されている[13]トルエン中に溶解したポリ(3-オクチルチオフェン)は塩化鉄(III) 6水和物のアセトニトリル溶液でドーピングすることができ、導電率が 1 S/cm に達する膜として成型することができる[14] 。他、より一般的ではないが、塩化金(III)[15]トリフルオロメタンスルホン酸[16]もpドーピング剤として知られている。


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