ポリオワクチン
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ポリオワクチン
臨床データ
Drugs.comMultum Consumer Information
胎児危険度分類

(OPVとIPV共に)C

法的規制

医師や医薬会社により管理されている

投与経路非経口 (IPV), 経口投与(OPV)
識別
ATCコードJ07BF01 (WHO) J07BF02 (WHO) J07BF03 (WHO)
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ポリオワクチン(: polio vaccine)とは、ポリオウイルスの感染によって発症する、主として片側性の急性弛緩性麻痺(aute flaccid paralysis:AFP)や、急性灰白髄炎(もしくは脊髄性小児麻痺)を疾患した人、およびポリオウイルスによる感染を予防するためのワクチン

ポリオワクチンには不活性化ワクチン(IPV)と経口生ポリオワクチン(OPV)の2種類がある。
概説

1952年、最初のポリオワクチンは、ジョナス・ソークによってHeLa細胞株に使用された臨床が初の試み。

1955年4月12日、トーマス・フランシス・ジュニアによって不活性化した(死んだ)ポリオウイルスを注射したと、世界中に公式に発表され[1]アルバート・サビンによって開発された経口生ワクチンは、ポリオウイルスを弱毒化したものが使用された。

サビンワクチンの治験は1957年に開始され、1962年にワクチンとして認可される[2]

ポリオワクチンの接種対象は、生後3か月以上90ヵ月未満であるが、乳幼児が主に罹患するため、生後3?18ヵ月が標準の接種年齢として示されている。

ワクチン接種によって、人から人へのウイルス感染を防止することは、世界規模の急性灰白髄炎根絶のために重要である[3]。なぜなら免疫を得たヒトの体内ではポリオウイルスは短期間しか保因状態になりえず、霊長類以外が保有宿主になることは決してなく[4]、また宿主から離れた環境で、ウイルスが長期間生きることはない。

二種類のワクチンによって、世界のほとんどの地域からポリオは根絶され[5][6]、1988年には350,000件発生していたポリオは2012年には223件に減少した[7][8]

一般的に予防接種は、免疫原と共に免疫系を賦活するために行われる予備刺激を働かせ、免疫応答を刺激する事で、感染因子から免疫性を与えるとされる。野生株のポリオウイルスからの感染(人から人)を防ぐために効果的な免疫性の開発こそが、ワクチンを受けた接種者と免疫集団を保護する[3]

日本で、1975年昭和50年)から1977年(昭和52年)に生まれた人は、ポリオ3型に対する免疫(抗体)を持つ割合が、ほかの年齢層に比べて低いため、国立感染症研究所は流行地域の渡航に関わらず再接種を勧奨しているが、ワクチン接種は自由診療の任意接種である[9]

ポリオワクチンは、基本的医療システムで必要とされる最も重要な医薬品を列挙したWHO必須医薬品モデル・リストに含まれている[10]
ポリオウイルスポリオウイルス「ポリオウイルス」も参照

ポリオウイルスは、ピコルナウイルス科エンテロウイルスに属する。ピコルナウイルス科は非常に小さい(直径30ナノメートル)。エンベロープはなく、多面体のカプシドをもつ(+)センスRNAウイルスである。

ポリオウイルスは、経口的に人の体内に入り、咽頭や小腸の粘膜で増殖し、リンパ節を介して血液中に入る。その後脊髄を中心とする中枢神経系に達して、脊髄前角細胞や脳幹の運動ニューロンに感染し、これらを破壊する事でポリオの症状を生じる。

感染後、ウイルスは素早く宿主細胞のDNAやRNAの全ての機能を妨害する。ポリオの属するエンテロウイルス(エンテロはギリシャ語で”腸”を意味する)は、多くの化学物質に抵抗性があり、消化管を無傷で通過し、そこで増殖することができる。もし宿主の防御機構で不活性化されなければ、ウイルスは血管やリンパ管に侵入し、身体全体、特に中枢神経に拡がる。

公衆衛生が貧弱であると、エンテロウイルスは増加し、人口が過密であると広がりはひどくなる。このような環境下では、幼少期にこのウイルスに頻繁に曝されるので、大抵の子供達は乳児期に感染を受ける。この時期だと麻痺を起こす事は少なく、年長や成人ではより麻痺に至りやすい。従って麻痺性ポリオは、開発途上国ではあまり流行していない。

ポリオウイルスは、血清型から3種類(1型、2型、3型)に分類され、3種類ともポリオを発症させる。野生株によるポリオ発症は1型によるものが多く、次いで3型である。ポリオの診断は、咽喉スワブや便からウイルスを分離して、その細胞変性効果を診ることによって行われる。
不活性化ワクチン

ソークワクチン、もしくは不活性化ポリオウイルスワクチン(IPV)は、3種類の野生株の毒性血統ウイルス、マホーニー(1型)、MEF-1(2型)、ソウケット(3型)を、猿の腎臓の培養細胞(ベロ細胞系統)を用いて培養し、ホルムアルデヒドによって不活性化させたウイルスを注射するワクチン[11]

ソークワクチンの注射で、血液中のの免疫グロブリンGによる免疫によってポリオウイルスによる感染を防ぐことで、ウイルス血症の進行を防ぎ、運動ニューロンを保護することで、例えば延髄ポリオやポリオ後症候群のリスクを回避することが可能となった。

不活性化ワクチンは4回接種が通常であり、4回目の接種で免疫を賦活するためである。アメリカ合衆国では、ジフテリア破傷風百日咳の治療を含めた三種混合ワクチン(DTaP)と、小児科で使われてるB型肝炎ワクチンが開発された[12][13]。2002年には5価の原子価を組み合わせたIPVを含んだワクチン(商品名:ペディクス)がアメリカ合衆国で使用が認可された。

不活性化ポリオウイルスワクチン(IPV)を使用すれば、90%かそれ以上の割合で、ポリオウイルスの血清型(細胞表面の抗原を基に分類した微生物、ウイルスあるいは細胞の型)である、全3種類を抗体によって進行を防ぐ事ができる。不活性化ワクチンにより、誘導された免疫の記憶は一生持続するが、感染防御以上の抗体持続期間には限りがある[14]

不活性化ワクチンは血清中抗体は誘導できるが、腸管免疫を誘導できない。このため、ポリオウイルス感染による急性弛緩性麻痺発症予防は可能であるが、経口生ポリオワクチンより流行を阻止する力は劣っている。感染防御レベル以上の免疫持続期間も短期的であり、一生免疫を持続させるためには、定期的な接種が必要で、そのために接種費用が高くなる。
経口生ポリオワクチン1963年のこのポスターは公衆衛生の国際的象徴とされている。マスコットの名は"ウェルビー" 経口生ポリオワクチンの接種キャンペーンの公共のマスコットである。経口生ポリオワクチン

経口生ポリオワクチン(OPV)は、弱毒化された生ワクチンである。ヒト以外の培養細胞で培養され、ヒトの体温より低い温度で馴化されたことによって、ウイルスゲノム内で自然突然変異が誘発され、それによって弱毒化されている[15]

経口生ポリオワクチンは、咽頭と腸管での局所免疫と全身免疫の両者を誘導する。集団免疫によるポリオ根絶には経口生ポリオワクチンが優れているが、腸管で増殖したワクチン株ウイルスは便中に排泄され、周囲の人に感染し、周囲の感染を繰り返す中で強毒化する危険性がある。

経口生ポリオワクチンはポリオワクチンを研究するいくつかのグループ(その内の1グループにはアルバート・サビンがいる)で開発がなされ、他のグループにはヒラリー・コプロウスキーやH. R.コックが指揮するもあり、グループ独自の弱毒化ワクチンが研究開発されていた。

1958年、アメリカ国立衛生研究所はポリオワクチンの特別委員会を創設する。あまたあるワクチンの、動物実験において、猿の神経病原性の低発生率を維持し、ウイルスの及ぼす免疫誘導効果を慎重に評価した。1950年後半から1960年前期によるソビエト連邦の大規模な治験は、ミカイル・チュマコブとその同僚によって、ワクチンの効果と安全性が実演された[16][17]

これらの治験の結果に基づき、アルバート・サビン達は世界中に経口生ポリオワクチンを配布した[18]。サビンワクチンは、57個あるDNAやRNAを構成する塩基置換(ヌクレオチド)を、ポリオウイルスの有毒原(マホーニー血清型)の中から、ウイルスを弱毒化をしたサビン1系統と、2つの塩基置換になる弱毒化サビン2系統と、10の塩基置換になる弱毒化サビン3系統をそれぞれ区別させた[11]


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