ポリオウイルス
[Wikipedia|▼Menu]

ポリオウイルス
ポリオウイルス粒子TEM 電子顕微鏡像 。
スケールバーは50 nm。 ポリオウイルス3型のカプシド構造。タンパク質の分子ごとに色分けされている。
分類

:第4群(1本鎖RNA +鎖)
:ピコルナウイルス目
:ピコルナウイルス科
:エンテロウイルス属
:エンテロウイルスC型[1]

亜型

ポリオウイルス

ポリオウイルス (Poliovirus) は、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属するエンテロウイルスC型(Enterovirus C)である[2]ヒト宿主とするウイルスで、急性灰白髄炎(一般にポリオとも呼ばれる)の病原体である。

ポリオウイルスは約7500塩基対から成る1本鎖RNA(ssRNA)のプラス鎖ゲノム[3]と、タンパク質でできたカプシドから構成されるRNAウイルスである。ウイルス粒子は直径約30nmの正20面体構造も持つ。ゲノムが短い、エンベロープを持たずRNAとそれを包む正20面体の形状をしたカプシドのみからなる単純な構成であると言った特徴から、重要なウイルスの中では最もシンプルなウイルスであると認識されている[4]

ポリオウイルスは1909年にカール・ラントシュタイナーとErwin Popperの2人によって初めて分離された[5]。1981年には2つの研究グループ、MITのVincent Racanielloとデビッド・ボルティモアのグループ[6]、およびニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の喜多村直実とEckard Wimmerのグループ[7]がそれぞれポリオウイルスのゲノムを報告している。ポリオウイルスは非常に研究が進んでいるウイルスの1つであり、RNAウイルスの生態を理解する上で役に立つモデルとなっている。目次

1 増殖

2 起源と血清型

3 病原性

3.1 免疫回避


4 ポリオウイルスと実験技術

4.1 PVRトランスジェニックマウス

4.2 クローニングと人工合成


5 脚注

5.1 注釈

5.2 出典


6 外部リンク

増殖 (1) ポリオウイルスの増殖環はウイルスが細胞表面の受容体であるCD155に吸着することで開始する。(2) ウイルス粒子はエンドサイトーシスによって取り込まれ、ウイルスのRNAが放出される。(3) ウイルスRNAはIRES依存的に翻訳される。(4) 前駆体タンパク質が消化され、成熟したウイルスタンパク質が産生される。(5) プラス鎖のRNAを鋳型として、相補的なマイナス鎖が合成され、二重鎖の増殖型RNAが産生される。(6) マイナス鎖のRNAを鋳型に多量のプラス鎖RNAが複製される。(7) 新しく合成されたプラス鎖RNAはさらなるウイルスRNAの翻訳に用いられる他、(8) カプシドに包まれ、(9) 最終的に娘ウイルス粒子を形成する。感染細胞が溶解される事で感染性の娘ウイルス粒子は細胞外へ放出される[8]

ポリオウイルスはヒトの細胞の細胞膜上に存在する免疫グロブリン様受容体、CD155(ポリオウイルスレセプター (PolioVirus Receptor) 、PVRとも)[9][10]に結合する事で細胞内に侵入する[11]。ポリオウイルスとCD155の相互作用が、ウイルスの細胞内侵入に必要な不可逆的な立体構造の変化をウイルス粒子に引き起こす[12][13]細胞膜に吸着したウイルスは、次のいずれかの方法で核酸を細胞内に送り込むと考えられていた[14]。(i) 細胞膜に穴を形成し、そこからRNAを宿主細胞の細胞質へ"注入"する。(ii) ウイルス自体が受容体介在性エンドサイトーシスによって細胞内へ取り込まれる。近年の研究成果は後者の仮説を支持し、ポリオウイルスがCD155と結合して細胞内へエンドサイトーシスによって取り込まれることを示唆する。細胞内へ吸収されたウイルス粒子は直ちにRNAを放出する[15]

ポリオウイルスはプラス鎖RNAウイルスであるため、ウイルス粒子内に包み込まれたゲノムは、そのままの状態でmRNAとして機能し、宿主細胞のリボソームによって直ちに翻訳される。細胞への侵入に際し、ポリオウイルスは宿主細胞の翻訳機構を乗っ取り、ウイルスタンパク質の産生に有利に働くよう、細胞性のタンパク質の代謝を阻害する[16]。宿主細胞のmRNAとは異なり、ポリオウイルスのRNAの5'末端は700塩基を超える極端に長いもので、かつ複雑な高次構造を持つ。ウイルスゲノムのこの領域は配列内リボソーム進入部位 (IRES) と呼ばれ、ウイルスRNAの翻訳を導く。IRESの変異はウイルスタンパク質の産生を妨げる[17][18][19]

ポリオウイルスのmRNAは翻訳される事でウイルス特異的タンパク質の前駆体である1本の長いポリペプチドを生じる。このポリペプチドはさらに前駆体自体が内包するプロテアーゼ(タンパク質やペプチドを加水分解する酵素)による自己消化を経て、以下に示す、およそ10個のウイルスタンパク質となる[4][20] 1型ポリオウイルスのゲノム構造[8]

3Dpol : RNA依存性RNAポリメラーゼ。ウイルスのRNAゲノムを複製する。

2Apro 、 3Cpro/3CDpro : プロテアーゼ(タンパク加水分解酵素)。ウイルス性のポリペプチドを切断する。

VPg (3B) : ウイルスゲノムRNAと結合する小タンパク質で、プラス鎖およびマイナス鎖のウイルスRNAの合成に必要。

2BC, 2B, 2C, 3AB, 3A, 3B : ウイルス粒子の複製に必要なタンパク質複合体を構成する。

VP0 : さらに切断され、カプシドタンパク質であるVP2とVP4、VP1とVP3を生じる。

合成された部品がどのように集合(子孫ウイルスのゲノムが細胞外でも生き残るためにカプシドに包まれる)して新しいウイルス粒子を形成するのかは完全には理解されていない[14]。集合を経て完成したウイルス粒子は、培養されたほ乳類細胞へ感染してから4 - 6時間で宿主細胞から放出される[21]。ウイルス放出のメカニズムははっきりとしないが[3]、細胞1個当たり最大10000個のウイルス粒子を放出する[21]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:86 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef