ホール・エルー法
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ホール・エルー法の模式図。黒が炭素電極(上が陽極、下が陰極)、赤が溶融氷晶石とアルミナ、灰色が溶融アルミニウム

ホール・エルー法(ホール・エルーほう、Hall?Heroult process)は、唯一実用化されているアルミニウム製錬方法。溶融させた原料を電気分解させることで目的物質を得る溶融塩電解の代表例である[1]1886年アメリカチャールズ・マーティン・ホールフランスポール・エルーによりそれぞれ独自に開発された[2]
歴史

ホール・エルー法以前、金属アルミニウムは鉱石を金属ナトリウムもしくはカリウムと共に真空中で加熱することによって得られていた。その方法は複雑で、当時高価であった原料を消費していたこともあり製造コストが非常に高く、19世紀前半にはアルミニウムは金や白金よりも高価であった。1855年のパリ万国博覧会ではアルミニウムの延棒がフランスの戴冠用宝玉と共に展示されており「粘土から得た銀」として注目された。また、フランス皇帝ナポレオン3世はアルミニウム製の食器を少数の重要な来賓にのみ使用していたといわれている[3]カストナー法の開発による金属ナトリウムの製造コスト低減などによってアルミニウムの製造コストも低減されていったが[4]、それでもワシントン記念塔の冠石にアルミニウムが採用された当時のアルミニウムは銀よりも高価であった[5]

ホール・エルー法は1886年のほぼ同時期に、アメリカの化学者チャールズ・マーティン・ホールフランスポール・エルーによってそれぞれ独自に開発された。ホール・エルー法では多量の電気を消費するが、ホール・エルー法が開発されたのと同時期にヴェルナー・フォン・ジーメンスによって実用的な発電機が発明されて大量の電気が供給可能になったことや、1888年にホール・エルー法の原料となる酸化アルミニウムの工業的製法であるバイヤー法がオーストリアの化学者カール・ヨーゼフ・バイヤーによって開発されたことで、ホール・エルー法が実用化可能になった[6][7][8]。1888年、ホールはピッツバーグで初の大規模なアルミニウム製造工場を始め、それは後にアルミニウム製造の世界的なメーカーであるアルコア社となった[9]

ホール・エルー法に代わる新たなアルミニウム製造技術の開発も行われているがいずれも商用化には至っておらず、現在でもアルミニウムの工業生産にはホール・エルー法が利用されている[10]。1997年、ホール・エルー法はアルミニウム製造の商業化における重要性を認められ、アメリカ化学会よりNational Historic Chemical Landmarkに認定された[11]

電極の消耗のほか多量の電力を要するため、発電のためにも大量の二酸化炭素が放出された。電力需要の高まりからか、1980年代には半分以上が水力発電で製造されていたのに2010年代後期には60%が石炭火力発電で賄われるようになり、[12]製造により生じる二酸化炭素の大半が電極ではなく発電で生じるようになった。2012年には、アルミニウムの製造1トン当たり12.7トンの二酸化炭素が排出されたと見積もられている[13]
方法

ホール・エルー法では、まず融剤として氷晶石(現在は蛍石から合成できるヘキサフルオロアルミン酸ナトリウムの合成品が用いられている)とフッ化ナトリウムを電解炉により1000°Cほどで融解する[注 1]。そして、ボーキサイトからバイヤー法によって99.95%まで精錬された酸化アルミニウムを5%程度入れて溶解させ、炭素電極で電気分解を行う。分解されたアルミニウムは融けて陰極に溜まり、酸素陽極と反応して二酸化炭素となるが、800°C以上では炭素電極とさらに反応して一酸化炭素となる。

全体としての化学反応は以下のとおり。 Al 2 O 3 + 3 C ⟶ 2 Al + 3 CO {\displaystyle {\ce {Al2O3 + 3C -> 2Al + 3 CO}}}

ここで生成したアルミニウムは一部が電解層に溶解し、二酸化炭素と反応して酸化アルミニウムに戻る逆反応が起こる。この逆反応は電流効率低下の要因となるため、ホール・エルー法の最大電流効率は97%程度だと考えられている[15]。 2 Al + 3 2 CO 2 ⟶ Al 2 O 3 + 3 2 CO {\displaystyle {\ce {2Al + 3/2CO2 -> Al2O3 + 3/2CO}}}

ホール・エルー法の問題点は、融解及び電気分解で大量の電気を消費すること(アルミナ1tにつき15000kWh[注 2])である。そのため、アルミニウムは「電気の缶詰」と呼ばれることがある[17][18]

これに対し、アルミ缶をリサイクルすると、必要なエネルギーはホール・エルー法の3%で済むといわれているが、実際には融解時に空気中の窒素と反応して窒化アルミニウム AlN として一部が失われる。

この窒化物は融解時にるつぼの表面に浮かぶので捨てられるが、空気中の水分と徐々に反応してアンモニアを生じる。 2 Al + N 2 ⟶ 2 AlN {\displaystyle {\ce {2Al + N2 -> 2AlN}}} AlN + 3 H 2 O ⟶ Al ( OH ) 3 + NH 3 {\displaystyle {\ce {AlN + 3H2O -> Al(OH)3 + NH3}}}
課題
高温を必要とするアルミナを溶かすため莫大な温度、エネルギーを必要とする
[15]

電解液の腐食性が非常に高い融剤に使われるフッ素化物は非常に腐食性が強く、電解液を貯められる容器が存在しない。やむを得ず冷却して固体化したフッ素化物自身を利用しているが容器を冷却しつつ電解液を溶かすために多くの熱量を必要とする[15]これによりホール・エルー法は自由エネルギー変化ではなくエンタルピー変化となる。固体酸化物形電解セルのように発熱を無駄なく分解に利用し高い効率を得ることが出来ない。効率を上げるためには大型化で容器の表面積を減らすなどして熱損失を抑えると同時に電解液を最適な組成に保つなどして過電圧を抑え理論電圧に近づける必要がある。熱損失だけを抑えても過電圧が大きければ電解液が熱くなりすぎて電解槽を溶かしてしまうし、過電圧だけを下げて発熱を抑えても熱損失が大きければ電解液が冷えすぎて固まってしまう。

エネルギー効率が悪い上記の短所によりエネルギー効率が悪い。アルミの発熱量は8.6kWh/kgに対し製造に必要なエネルギーは15 - 18kWh/kgと莫大で半分以下のエネルギー効率でしかない。

電極を消耗する陽極の炭素電極は酸素と反応し消耗するため交換が必要。

二酸化炭素を生じる電極が消耗して二酸化炭素が生じる。地球温暖化を促進するリスクとなる。

新技術・競合技術
非消耗電極

高い温度、腐食性ゆえ非消耗電極の開発は困難を極める。

大きく分けて、金属、サーメットセラミックの3種類があり、金属は導電性に優れる一方セラミックは侵食が小さい。サーメットは大凡その中間の性質を持つ。


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