ホタル
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

「ホタル」「蛍」「螢」のその他の用法については「ホタル (曖昧さ回避)」をご覧ください。

ホタル科 Lampyridae
ゲンジボタル Nipponoluciola cruciata
分類

:動物界 Animalia
:節足動物門 Arthropoda
:昆虫綱 Insecta
:コウチュウ目(鞘翅目) Coleoptera
亜目:カブトムシ亜目(多食亜目) Polyphaga
下目:コメツキムシ下目 Elateriformia
上科:ホタル上科 Elateroidea
:ホタル科 Lampyridae
Latreille1817

英名
Firefly
亜科


クシヒゲボタル亜科(エダヒゲボタル亜科) Cyphonocerinae

マドボタル亜科 Lampyrinae

ホタル亜科 Luciolinae

ミナミボタル亜科 Ototetrinae

Photurinae

Photinus pyralis が飛ぶLuciola lusitanica のオスの正面発光するホタル(日本)日本の河川でのホタルの群舞ホタルの発光部位は腹部の後方であるメスや幼虫も光る(画像は Lampyris noctiluca のメス)

ホタル(蛍、螢、?燿[1]、?[2])は、コウチュウ目(鞘翅目)・ホタル科 Lampyridae に分類される昆虫の総称[3]発光することで知られる昆虫であり、ホタルという名もその様から「火(ホ)を垂(ル)」として呼ばれるようになったが、ほとんど光らない種が多い[3]
概要

極地砂漠などの乾燥地を除いた全世界に分布していており、2000種以上が生息しているとされる[4]幼虫時代を水中で過ごす水生ホタルと、陸上の湿地で過ごす陸生ホタルがいる[5][6]。ただし水生ホタルは世界で10種類ほどしか知られておらず、そのうち日本にはゲンジボタルヘイケボタルクメジマボタルの3種類が生息している[4]

日本で「ホタル」といえば一般的にはゲンジボタル Nipponoluciola cruciata を指すことが多い[7]本州四国九州に分布し、九州地方では5月上旬から、東北では7月頃から羽化する[8]

日本では50種ほどのホタルが確認されているがほとんどは南西諸島に分布しており、本州、四国、九州では、ゲンジボタルヘイケボタルヒメボタル、クロマドボタル、オバボタル、オオオバボタル、スジグロボタル、ムネクリイロボタル、カタモンミナミボタルのおおむね9種類が観察される[9]

南に下った台湾では60種以上が生息しており、初夏にホタルを鑑賞する観光行事も行われている[10]

ゲンジボタルの成虫が初夏に発生するため、日本ではホタルは風物詩と捉えられており、夜の蛍の発光を鑑賞する「蛍狩り」が行われる[注釈 1]。日本を含む東アジアにおいて、蛍の成虫は必ずしも夏だけに出現するものではない。例えば朝鮮半島中国対馬に分布するアキマドボタル Pyrocoelia rufa は和名通りにに成虫が発生する。西表島で発見されたイリオモテボタル Rhagophthalmus ohbai は真に発光する。
形態

成虫の体長は数mmから30mmほどで、甲虫としては小型から中型である。体型は前後に細長く、腹背に平たい。特に前胸は平らで、頭部を被うことが多い。よくある色合いは全体に黒っぽく、前胸だけが赤いというものである。その体は甲虫としては柔らかい。オスとメスを比べるとメスのほうが大きい。メスは退化して飛べない種類があり、さらには幼虫のままのような外見をした種類もいる。光でコミュニケーションする種では触角は糸状で細いが、フェロモンを使う種では鋸歯状だったり、クシ状だったりするものもいる。成虫期間は約1-2週間。

幼虫はやや扁平で細長い。頭部は胸部に引っ込めることができる。胸部に短い三対の歩脚があり、腹部の後端に吸盤があって、シャクトリムシのように移動する。
食性

多くの種類の幼虫は湿潤な森林の林床で生活し、種類によってマイマイキセルガイなどの陸生巻貝類やミミズヤスデなどといった土壌動物の捕食者として分化している。日本に棲むゲンジボタルヘイケボタルクメジマボタルの3種の幼虫は淡水中に生息し、モノアラガイカワニナタニシミヤイリガイなどの淡水生巻貝類を捕食するが、これはホタル全体で見るとむしろ少数派である(実際、『ファーブル昆虫記』に登場するホタルは陸棲で、カタツムリを捕食する)。また、スジグロボタルの幼虫は普段は陸上で生活するが、摂食時のみ林内の小さな湧水や細流の水中に潜り、カワニナを捕食していることが知られている。ゲンジボタルやヘイケボタルなど水生の種では、幼虫・成虫ともに水草スイカのような香りがある。

多くの種類の成虫は、口器が退化しているため、口器はかろうじて水分を摂取するぐらいしか機能を有していない。このため、ほぼ1-2週間の間に、幼虫時代に蓄えた栄養素のみで繁殖活動を行うことになる。海外には、成虫となっても他の昆虫などを捕食する種がいる。
発光

ホタルのうち尾部などに発光器官を持つ種は、酵素ルシフェラーゼと、ルシフェリン化学反応で光を発する(後述「発光のメカニズム」参照)。日本の基礎生物学研究所中部大学はヘイケボタルの、両者に米国マサチューセッツ工科大学を加えた研究チームは米国産ホタル「フォティヌス・ピラリス」のゲノムを2018年に解読。発光しない生物にもある脂肪酸代謝酵素アシルCoA合成酵素)が、ホタルの祖先が進化する過程で重複を起こして、1億年以上前に発光能力を得たと推測されるとの研究結果を発表した(ホタルとは近縁のヒカリコメツキの発光原理も同様であるが、進化の過程は別)[11]

ホタルが発光する能力を獲得したのは「敵をおどかすため」という説や「食べるとまずいことを警告する警戒色である」という説がある。事実ホタル科の昆虫はを有しており、よく似た姿や配色(ベーツ擬態ミューラー擬態)をした昆虫も存在する。ただし、それらは体色が蛍に似るものであり、発光するわけではない。

や幼虫の時代にはほとんどの種類が発光する。成虫が発光する種は夜行性の種が大半を占め、昼行性の種の成虫では強く発光する種も存在するが、多くの種はまず発光しない。夜行性の種類では主に配偶行動の交信に発光を用いており、光を放つリズムやその際の飛び方などに種ごとの特徴がある。このため、「交尾のために発光能力を獲得した」と言う説も有力である。一般的には雄の方が運動性に優れ、飛び回りながら雌を探し、雌はあまり動かない。成虫が発光する場合はも発光するので、このような種は生活史の全段階で発光することになる。昼行性の種では、光に代わって、あるいは光と併用して、性フェロモンをコミュニケーションの媒体としていると考えられる[6]

変わった例では以下のような種類もいる。

一方の性のみ発光する。

北米に生息する en:Photuris の雌は他種の雌をまねて発光し、その雄をおびき寄せて捕食してしまう。

雄が一か所に集まり一斉に同調して光る。東南アジアマングローブ地帯で、一本の木に集まって発光するものが有名。ゲンジボタルも限定的ではあるが集団がシンクロ発光するのが見られる[12]

発光のメカニズム

発光するホタルの成虫は、腹部の後方の一定の体節に発光器を持つ。幼虫は、腹部末端付近の体節に発光器を持つものが多いが、より多くの体節に持っている場合もある。

ホタルの発光物質はルシフェリンと呼ばれ、ルシフェラーゼという酵素とATPがはたらくことで発光する。発光は表皮近くの発光層で行われ、発光層の下には光を反射する反射層もある。ホタルに限らず、生物の発光は電気による光源と比較すると効率が非常に高く、熱をほとんど出さない。このため「冷光」とよばれる。
主な種類

日本には50種類以上のホタルが生息しているが、代表的な種類には以下のようなものがいる[9]
ゲンジボタル Nipponoluciola cruciata Motschulsky1854
体長15mm前後で、日本産ホタル類では大型種。成虫の前胸部中央には十字架形の黒い模様がある。幼虫はの中流域にすみ、カワニナを捕食する。初夏の風物詩として人気が高く、保全への試みが日本各地で行われているが、遺伝的に異なる特性を持った他地域のホタルの増殖・放流による遺伝子汚染が問題になってもいる。
ヘイケボタル Aquatica lateralis Motschulsky1860
体長8mm前後で、ゲンジボタルより小さい。主に細流や水などの止水域で発生する。幼虫はカワニナだけでなくモノアラガイタニシなど様々な淡水生巻貝類を幅広く捕食し、やや富栄養化した環境にも適応する。また時には干上がる水田のような環境でも、鰓呼吸だけではなく空気呼吸を併用し、泥に潜って生き延びる。成虫の出現期間は長く、5月から9月頃まで発光が見られる。
ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874
体長は7mm前後で、ヘイケボタルより更に小型の陸棲のホタルである。西日本の林地や草地に分布する。幼虫は林床にすみ、マイマイキセルガイなどを捕食する。5-6月に羽化し、かなり強く発光するが、川辺などの開けた場所ではなく森林内などの人目につきにくい場所で光るのであまり知られていない。名古屋城の堀の中に広がる草地には、都市部では珍しい大規模な生息地があることが知られている。メスは飛行できないため分布地の移動性は小さく、個々の個体群は隔離されがちで、地域により体長など遺伝的特性の差が著しい。
マドボタル Pyrocoelia
マドボタル属 Pyrocoelia の総称で、多くの種類がある。和名はオスの胸部にのような2つの透明部があることに由来する。メスは翅が退化していて、蛹がそのまま歩き出したような外見をしている。幼虫は陸生で、主に小型のカタツムリ類を捕食し、他の陸生のホタル幼虫に比べて夜には活発に光りながら草や低木にもよじ登るので、よく目立つ。成虫はよく光るものも痕跡的な発光しかしないものもある。本州東部には中型種のクロマドボタル、本州西部と四国、九州には中型種のオオマドボタル、対馬には大型種のアキマドボタルが生息し、南西諸島では何種もの大型種が島ごとに種分化している。
オバボタル Lucidina biplagiata Motschulsky1866
体長10mm前後。体は黒色で平たく、前胸に2つの赤い斑点があり、尾部も赤い。他のホタルと同じような体色だが、昼行性でほとんど発光しない。幼虫は森林の土壌中で、小型のミミズを捕食している。
ヒゲボタル Stenocladius
ヒゲボタル属 Stenocladiusの総称で以前はクシヒゲボタルと呼ばれていた(現在はクシヒゲボタルの名はCyphonocerus属の種にあてられている)。オスの触角が櫛の歯状に発達している。メスは翅が退化しているばかりでなく、ほぼ幼虫のような形態をしていて、より淡色。幼虫は湿潤な森の林床でミミズを捕食する。体は乳白色で各体節に赤褐色の背板を持つ。南西諸島に数種が分布し、成虫は秋から冬に出現する。昼行性だが雌雄ともまたはメスのみ弱く発光する[13]

なお、ベニボタルは和名に「ホタル」とあるがホタル科ではなく、同じホタル上科のベニボタル科 (Lycidae) の昆虫である。
ホタルの減少

ホタルの生息数は年々減少しており、その原因としては生息環境の破壊や汚染、自然環境の放置、ホタル観賞のマナーの問題などが挙げられる[14]

環境省の「第2回自然環境保全基礎調査報告書」(1982年)によればホタル減少の原因として、農薬の使用、イワナ漁のための毒流しミヤイリガイの駆除[注釈 2]、汚水や排水の流入、工事等による土砂の流入、川砂利の採取、河川や用水路の改修などが挙げられているという[14]

自然環境については、特に里山の放置による生態系の変化が大きいとされる[14]。ホタル鑑賞者のマナーの問題とは、ホタルを採集してしまったり、光でコミュニケーションをとっているホタルに対して人工的な照明を向けることにより交配ができずに子孫を残せなかったり、ゴミを捨てることによる環境の悪化などが挙げられる[15]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:66 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef