ペルソナ・ノン・グラータ
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ペルソナ・ノン・グラータ(ラテン語: Persona non grata、英語: person not welcome)とは、外交官のうち、接受国からの要求に基づき、その国に駐在する外交官として入国できない者や、外交使節団から離任する義務を負った者を指す外交用語である。

原義は「好ましからざる人物」「厭わしい人物」[1]「受け入れ難い人物」を意味する。

外交関係に関するウィーン条約領事関係に関するウィーン条約で規定されており、「国外退去処分」と表現されることもある[2]
概要

外交団員の一員となるには、外交官になる必要があり、外交官になるには派遣国の任命に加え、接受国でも、国元から預かって来た信任状信任状捧呈式で提出して認めてもらわねばならない。外交使節の長は、外交関係に関するウィーン条約第4条により、接受国から「アグレマン」(: agrement)として受け入れの承認が必要となる[3]。アグレマンの拒否により、外交使節の長を拒むことができる。

接受国が、外交官の受け入れ拒否や外交官待遇の同意の取り消しを行うことが、「ペルソナ・ノン・グラータ」であり、外交関係に関するウィーン条約第9条及び領事関係に関するウィーン条約第23条に規定されている[3][4]

ペルソナ・ノン・グラータはいつ何時でも一方的に発動でき、またその理由を提示する義務はない[3]。接受国はいずれかの者がその領域に到着する前においても、対象外交官がペルソナ・ノン・グラータであることを明らかにすることができる[3]。ペルソナ・ノン・グラータの通告を受けた場合には、派遣国は状況に応じて対象者の「本国へ召還又は外交官任務終了」をしなければならない。

対象の外交官に対し、接受国外務省から駐在公館を通じて、「あなたは我が国に駐在する外交官に相応しくないので本国へお帰り下さい。もしくは外交官任務を終了して下さい」と正式に通告することで発動されることが多い。派遣国が「ペルソナ・ノン・グラータ」の発動後に対象外交官の「本国へ召還又は外交官任務終了」の履行義務を拒否した場合又は相当な期間内に行わなかった場合には、接受国は対象者が外交特権を持たないものとみなし、触法行為があれば一般市民として身柄の拘束ができる。

ペルソナ・ノン・グラータは外交官だけではなく、国際慣習法上において外交官同様の外交特権を有する元首や首相、外相の入国拒否についても用いられることがある。
発動事例
ロシアによるウクライナ侵攻関連

2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻により、欧米諸国によるロシアへの制裁とロシアのそれに対する報復の応酬から、両国の外交関係者がペルソナ・ノン・グラータとなる事例が発生している。
ロシア外交官に対する発動

ニューヨーク駐在ロシア国連代表部外交官12人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に伴う制裁の一環で、「アメリカに居住する権利を乱用し、アメリカの安全保障に悪影響を及ぼす
諜報活動を行った」として同月7日までに国外退去を命令[5]

ブルガリア駐在ロシア外交官2人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、「外交官の立場と相いれないスパイ活動」として国外退去を命令[6]

リトアニア駐在ロシア大使および外交官4人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、ウクライナとの連帯のため外交官を追放[7]。さらに同年4月にはロシア兵によるウクライナ国内での一般市民への虐殺行為を理由として、同国ロシア大使の追放を決定した[8]

ラトビア駐在ロシア外交官3人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、外交官らの外交的地位に反する行動を理由とする[7]

エストニア駐在ロシア外交官3人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、ロシアによるウクライナでの軍事行動を正当化するプロパガンダを広めたことなどを理由とする[7]

ポーランド駐在ロシア外交官など45人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、外交的特権を悪用し国内でスパイ活動に関与したことを理由とする[9]

ベルギー駐在ロシア外交官21人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、安全保障に脅威を与えるスパイ活動などに関与していることが確認されたため[10]

オランダ駐在ロシア外交官17人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、スパイ活動などに関与していることが確認されたため[10]

アイルランド駐在ロシア外交官4人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、外交官としての国際基準に沿わない活動があったため[10]

スロバキア駐在ロシア外交官38人 - 2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、スパイ活動などに関与していることが確認されたため。3月初頭に3人に対して発動し、その後同月30日に35人に対して発動した[11]

ドイツ駐在ロシア外交官など40人 - 2022年4月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、ロシア政府の「信じがたい蛮行(ウクライナ国内でのロシア兵による一般市民への虐殺行為)」を理由とする[12]

フランス駐在ロシア外交官35人 - 2022年4月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、「(ロシアの)活動がわれわれの利益に反している」を理由とする[12]

フランス駐在ロシア情報要員6人 - 2022年4月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、外交官を装い、フランス国内で秘密工作が行っていたことが明らかになったため[13]

日本駐在ロシア外交官・通商代表部職員など8人 - 2022年4月、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環で、ロシア軍の残虐行為に対する非難を理由とする[14]

札幌駐在ロシア領事1名 - 2022年10月、 在ウラジオストク日本総領事館の領事を違法な情報収集活動を行ったとして国外退去とした[15]ことへの対抗措置[16][17]

ロシア連邦政府による発動

ロシア駐在リトアニア外交官4人・ラトビア外交官3人・エストニア外交官3人 - 2022年3月、前述のバルト三国によるロシア外交官の国外追放に対する報復措置
[18]

ロシア駐在ドイツ外交官など40人 - 2022年4月、前述の同国によるロシア外交官の国外追放に対する報復措置[19]

ロシア駐在日本外交官8人 - 2022年4月、前述の同国によるロシア外交官の国外追放に対する報復措置[20]

在ウラジオストク日本総領事館の領事1人 - 2022年9月、公開制限情報を不正に入手したことに対する処罰[15][21]

ロシア駐在フランス外交官34人 - 2022年5月、前述の同国によるロシア外交官の国外追放に対する報復措置[22]


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