ペニシリン
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ロックバンドについては「PENICILLIN」を、カクテルについては「ペニシリン (カクテル)」をご覧ください。

ペニシリンPenicillin core structure, where "R" is the variable group
臨床データ
Drugs.comMicromedex Detailed Consumer Information
胎児危険度分類

US: B [1]




法的規制

? (Prescription only)

投与経路Intravenous, intramuscular, by mouth
薬物動態データ
代謝liver
半減期between 0.5 and 56 hours
排泄Kidneys
識別
ChemSpidernone
化学的データ
化学式C9H11N2O4S
分子量243.26 g・mol?1
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ペニシリン(英語: penicillin)は、1928年イギリススコットランドの細菌学者・アレクサンダー・フレミングによって発見された抗生物質である。抗菌剤の分類上ではβ-ラクタム系抗生物質に分類される。フレミングはこの功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞した。

発見後、医療用として実用化されるまでには10年以上の歳月を要したが、1942年ベンジルペニシリン(ペニシリンG、PCG)が単離されて実用化され、第二次世界大戦中に多くの負傷兵や戦傷者を感染症から救った。以降、種々の誘導体(ペニシリン系抗生物質)が開発され、医療現場に提供されてきた。

1980年代以降、日本国内においては主力抗菌剤の座をセファロスポリン系抗生物質やニューキノロンに明け渡した感があるが、ペニシリンの発見はこれらの抗菌剤が開発される礎を築いたものであり、しばしば「20世紀における偉大な発見」の中でも特筆すべき1つとして数え上げられる[2]
性質作用機序: ペニシリンが投与され、細菌は細胞壁の合成を阻止される(1)。内部の細胞質の成長により成長しない細胞壁が破壊される(2?4)。スフェロプラストと呼ばれる状態になった細菌は元の細菌より衝撃耐性が大幅に低下し、やがて外液との浸透圧差により死滅する(5)。

ペニシリンはβ-ラクタム系抗生物質であり、真正細菌細胞壁の主要成分であるペプチドグリカンを合成する酵素(PBP)と結合し、その活性を阻害する。この結果、ペニシリンが作用した細菌はペプチドグリカンを作れなくなり、その分裂に伴って細胞壁は薄くなり、増殖が抑制される(静菌作用)。また細菌は細胞質の浸透圧が動物の体液よりも一般に高いため、ペニシリンの作用によって細胞壁が薄くなり損なわれた細菌細胞では外液との浸透圧の差から細胞内に外液が流入し、最終的には溶菌を起こして死滅する(殺菌作用)。

この作用から、ペニシリンは増殖中の細菌に強く働き、この性質を利用した、栄養要求変異株を選抜(濃縮)するペニシリン濃縮法がある。

ペニシリンは、真正細菌の細胞壁の合成を標的として特異的に阻害する薬剤である。ペプチドグリカンを主要成分とする細胞壁はマイコプラズマを除く真正細菌の生存に必須な構造であるが、ヒトを含めた真核生物には存在しない。そのため、ペニシリンは真正細菌に対する選択毒性が高く、ヒトに対する毒性は低い。この点においてペニシリンは、すでに発見・実用化されていた色素剤サルファ剤に比べて抗細菌剤としてはるかに優れており、このため実用化後には大きく普及し、他の多数の抗生物質開発のきっかけになった。

初期のペニシリンはブドウ球菌を代表とするグラム陽性菌グラム陰性球菌に対しては強い抗菌作用を示すが、大腸菌を代表とするグラム陰性桿菌に対しては抗菌作用が弱いという性質を持っていた。特に、グラム陰性桿菌の中でも薬剤に対する自然抵抗性が高い緑膿菌には無効であった。

ペニシリン系抗生物質開発の歴史は弱作用菌や耐性菌との戦いの歴史でもある。作用が弱いグラム陰性桿菌に対する作用増強を目的としてペニシリン骨格を種々の化学修飾あるいは置換基の化学変換により、弱作用菌への抗菌力の増強が試みられ、多くのペニシリン系抗生物質が開発された。ペニシリン系抗生物質に関しては一般に新しい抗菌薬が開発されるに従って、グラム陽性菌にもグラム陰性菌にも作用を持つように移行していく傾向がある。

またフレミングが発見したペニシリンは、酸性で分解されやすく経口投与では胃液で分解されて無効になるため、当初は注射剤として用いられた。しかし、経口投与可能なペニシリン系抗生物質も、初期の段階から開発されている。
耐性菌の出現「抗生物質#耐性と乱用」も参照

ペニシリンが用いられるようになると、ペニシリンに対する薬剤耐性を新たに獲得したペニシリン耐性菌が出現した。ペニシリン耐性菌はペニシリンが実用化された数年後には臨床現場から分離されたが、抗生物質の無秩序な濫用が引き金となって拡大し、1960年代にはペニシリン耐性菌の問題が顕現化して医療上の大きな問題になった。

当時出現した初期のペニシリン耐性菌は、ペニシリナーゼβ-ラクタマーゼ(β-lactamase, EC 3.5.2.6, 反応))というβ-ラクタム環を加水分解し、開環する酵素を産生する。これは薬剤分解酵素の遺伝子を突然変異、あるいはファージプラスミドを介して獲得したものであった。そこで、これらの分解酵素による分解を受けないペニシリン系抗生物質であるメチシリンが開発された。また、ペニシリンとクラブラン酸などのβ-ラクタマーゼ阻害剤を合剤とすることで、耐性菌の問題を解決してきた。

しかし、メチシリンが実用化された数年後には、メチシリンに耐性を持つメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が出現した。MRSAは、PBPの変異型であるPBP2'を獲得した黄色ブドウ球菌である。MRSAのPBP2'はβ-ラクタム系抗生物質との結合能が弱く阻害を受けなくなっているため、メチシリンをはじめとする全てのβ-ラクタム系抗生物質に対する多剤耐性を獲得している。

ペニシリンは、細菌が細胞壁を作るのに必要な酵素であるペニシリン結合タンパク質(PBP)に結合して作用する。PBPにはPBP1、PBP2と多くの種類があることが知られている。多くの耐性菌はβ-ラクタマーゼを産出することでペニシリンを分解して耐性を得ている。β-ラクタマーゼは遊離しているがPBPの1種であり、たまたまペニシリンを分解する活性があったものと考えられる。

もともと染色体上に持っていたPBP遺伝子を発現できる菌株が、人間がペニシリンを乱用したことで淘汰に生き残り、β-ラクタマーゼ産出菌の割合が増えてきたのだと考えられている。なお、MRSAなどはまったく別の機構で耐性を得ている。これはPBPの変異でペニシリンが変異PBPに結合できなくなるからである。
生合成

前駆体であるACVトリペプチド (δ-(L-α-aminoadipoyl)-L-cysteinyl-D-valine)は単量体であるL-アミノ酸から酵素ACV-synthetase [3][4]によりリボゾームを介することなく細菌やカビの細胞内で生合成される。ACVトリペプチドは酵素 isopenicillin N synthetase[5][6]によりイソペニシリンN(isopenicillin N)へと環化し、β-ラクタム環が形成される。 イソペニシリンNは酵素 isopenicillin N N-acyltransferase [7][8] により側鎖が交換されるが、関与するアシル-CoAのカルボン酸残基に応じて、種々の誘導体が得られる。このように、isopenicillin N N-acyltransferaseが比較的基質特異性が低い酵素であるため、Penicillium spp.においてもイソペニシリンNから、もともと細胞内に存在するアシル-CoAと交換することで、ペニシリンG、ペニシリンKなど多くの誘導体が産生される。イソペニシリンNはイソペニシリンN異性化酵素(isopenicillin N epimerase)[9][10]によってペニシリンNに異性化される。セファロスポリン系の抗生物質の生合成はペニシリンNを出発物質としている[11]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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