ベゲタミン
[Wikipedia|▼Menu]

ベゲタミン(英語: Vegetamin)とは、抗精神病薬の成分クロルプロマジンと、バルビツール酸系フェノバルビタール抗ヒスタミン作用のあるプロメタジンを含む合剤である[1]塩野義製薬から1957年から2016年12月31日まで販売された。ベゲタミンは同社の登録商標(第5234290号)である。処方箋医薬品であり、世界でも日本でのみ流通していた[1]劇薬習慣性医薬品麻薬及び向精神薬取締法における第三種向精神薬の指定があった。

ベゲタミンの薬効分類名は精神神経用剤で、適応は各種の精神障害鎮静催眠に用いられる。フェノバルビタールは、過量投薬のリスクが高く、治療薬物モニタリングが必要である[2]。バルビツール酸系は薬物の離脱時の痙攣大発作に注意が必要である[3]

2005年から2010年までの5年間でも、不審死からのベゲタミンの成分3種の検出が増加しており[4]オーバードース時に致死性の高い薬の2位の薬だと同定されていた[5]。ベゲタミンは外来患者には用いるべきではない[6]、極力処方を回避すべき[7]、いかなる場合にも処方すべきではない医薬品[8]、飲む拘束衣[1]と言われていた。
歴史

ベゲタミンの成分の一つであるフェノバルビタールは、20世紀初頭に合成されたバルビツール酸系薬である。1940年代にもパリのローヌプーランは、H1受容体の拮抗薬であるフェノチアジン系薬物が、バルビツール酸系の作用を増強したり、体温制御を欠損させ低体温化をもたらすといった生理作用を研究した[9]

第二次世界大戦後には、フランスの外科医アンリ・ラボリは、麻酔科医のユグナーと共に、遮断カクテル(カクテル・リティック)を用い、手術後ショック反応を減らす目的で、バルビツール酸系を増強する研究を行っており、フェノチアジン系のプロメタジンを加えた時、いい反応を得た[9]

そこでラボリは、ローヌプーランに問い合わせ、フェノチアジン系のRP4560(後にクロルプロマジンと命名される)という化合物があるとの返答を得て、そしてクロルプロマジンを用い、麻酔薬とみなした[9]。遮断カクテルの一例は、クロルプロマジン、プロメタジン、メペリドンといった組み合わせであった[10]

ベゲタミン自体は、1957年(昭和32年)、広島静養院の松岡龍三郎により創製されたとされている[11]。なお日本国外では全く販売されていない。ベゲタミンはラボリの遮断カクテルに類似し、各成分が効果を増強しあう[5]

ラボリの研究のすぐ後に、ジャン・ドレーらは、クロルプロマジン単剤の投与で、患者を静穏化することを発見した[12]。バルビツール酸系は、依存を形成しやすい上、治療域と毒性域が近く、過剰摂取時に致命的となりえるため、現在では、より依存が形成しにくく、安全なベンゾジアゼピン系に置き換えられた[3]

特に2010年代に入り、後述するように、乱用や死亡の点から問題視されていた。ナショナルデータベースの処方の分析から、2011年でも、ベゲタミンは入院患者の約15%、外来患者の約8%に処方されており、20代の患者に限っても6.4%に処方されていた[13]

ベゲタミンA・Bが、伴に2016年(平成28年)12月31日をもって、供給停止となることが塩野義製薬から発表された[1]日本精神神経学会から「薬物乱用防止の観点からの販売中止」の要請を受けたことによる[14]
薬理作用

脳の中枢に直接作用し、催眠鎮静作用を現す。

ベゲタミンに含まれているクロルプロマジンは、α1受容体に親和性を持ち、この受容体を遮断するため強い鎮静作用を示す。

フェノバルビタールは、バルビツレート結合部位-ベンゾジアゼピン結合部位-Cl-チャネルと高分子複合体を形成するGABAA受容体に結合し、Cl1チャネルの開口時間を延長することで、GABAの抑制作用を増大させ神経細胞の興奮を抑制し、催眠作用を示す。

プロメタジンヒスタミン受容体H1への拮抗作用をもち、これにより催眠作用を示す。

なお、プロメタジンは抗ムスカリンM1受容体遮断作用により抗パーキン作用を併せ持ち、クロルプロマジンの副作用であるパーキンソン症状を抑える働きを併せ持つ。しかしこのような併用は避けることが推奨されている[15]
錠剤種と含有量


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:30 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef