ベクトル(独: Vektor)またはベクター(英: vector)
ベクトルは ドイツ語: Vektor に由来し、ベクターは 英語: vector に由来する。物理学などの自然科学の領域ではベクトル、プログラミングなどコンピュータ関係ではベクターと表記される、という傾向が見られることもあるが、必ずしもそうとは限らない。また、技術文書などではしばしば古いJIS規格(旧・日本工業規格、現・日本産業規格)に準拠する形で[1][2]、長音符を除いたベクタという表記が用いられていたが、JIS Z 8301:2005以降は長音符号を付けても省略してもかまわないとしており、ベクターという表記も増えている。
vector は「運ぶ」を意味するラテン語: vehere に由来し、18世紀の天文学者によってはじめて使われた[3]。
ベクトルは通常の数(スカラー)と区別するために矢印を上に付けたり(例: a → , b → {\displaystyle {\vec {a}},\ {\vec {b}}} )、太字で書いたりする(例: a , b {\displaystyle {\boldsymbol {a}},{\boldsymbol {b}}} )が、分野によっては矢印も太字もせずに普通に書くこともある(主に解析学)。
ベクトル、あるいはベクターに関する記事と用法を以下に挙げる。 同じ言葉でも数学と物理学ではやや異なった意味で使われる場合がある。
数理科学
数学
ベクトル空間の元。線型性がありスカラー倍を取ることができる量。一般の(広い意味での)ベクトル。
数ベクトル
余ベクトル(双対ベクトル)、 ベクトルの共変性と反変性。
数学・物理学
空間ベクトル(幾何ベクトル) - 幾何学的空間における、大きさと向きを持った量。有向線分として捉えることができる。
ベクトル積 - 数学的には、n 次元ベクトル空間において n - 1 個のベクトルに1つのベクトルを対応させる n - 1 項演算の一種。3次元の場合のみ二項演算となり「積」らしくなるので、3次元に限って「ベクトル積」と呼ぶ場合も多い。演算子に × を用いるので、クロス積とも呼ばれる。また、3次元では外積に一致するので、ベクトルの外積とも呼ばれる。
1階のテンソル - 線形性を持つ群が作用する空間(テンソル)[疑問点 – ノート]のうち階数が 1 であるもの。群を行列で表示したとき、数ベクトルとして表現される。幾何ベクトルは[要校閲]、幾何的な回転操作に対してベクトルとして振る舞う。
ベクトル場(数学)- 数学では、空間の各点がベクトル量を持つようなある種の関数。
ベクトル場(物理学)- 物理学では、数学的な定義より限定的に、ある種の「場」を意味することがある(後述の「ベクトル粒子」を参照)。
ベクトル解析 - ベクトルの演算記法を利用した解析学の方法。3次元または2次元上の問題を扱う際にしばしば利用され、電磁気学や流体力学など広い範囲で応用される。
物理学
擬ベクトル - 回転に対する変換性は通常のベクトルと同じであるが、反転に対する変換性が異なる量。軸性ベクトルとも呼ばれる。
4元ベクトル - 相対性理論的記述を必要とする分野で使われる4次元のベクトルで、ローレンツ変換に対してベクトルとして振る舞う。
ベクトル粒子 - 場の量子論においてベクトル場で表されるような粒子。スピン 1 を持つ。スピン統計定理より必ずボース粒子であり、ベクトルボソンとも呼ばれる。光子、ウィークボソン、グルーオンといったゲージ粒子や、ロー中間子など一部のメソン(ベクトルメソンと呼ばれる)が該当する。
コンピュータ
1次元の動的配列(コンテナ)として表現されるデータ構造。
プログラミング言語C++のStandard Template Library(STL)におけるstd::vector型。
プログラミング言語Javaのクラスライブラリにおけるjava.util.Vector