ベクタースキャン
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1970年発売のベクタースキャンディスプレイen:Imlac PDS-1で3次元迷路を描画したものテクトロニクス社のベクタースキャンディスプレイTektronics 4014でアメリカの州のマップを描いたところベクタースキャンディスプレイTektronix19を使ったCADシステム(1975年)

ベクタースキャン(: vector scan)とは、輝点を、図形の形状に沿って振り動かし、図形を描画する方式のことである。ランダムスキャン(random scan)ともいう。

対比対象は通常、ラスタースキャンである。
概要

画面全体を走査しない。オシロスコープと同様の原理で、輝点(CRTならば電子ビームがスクリーンに当たる点)を動かし、描くべき図形の線や点を描く。

なお現代のイベントなどに使われるレーザー方式のベクタースキャン装置もその輝点つまりレーザーが当たる点を振り動かして図形を描く。
原理

ベクタースキャンはラスタースキャンと対置される。

ベクタースキャンは、要するにオシロスコープをX-Yモード(オシロスコープ#トリガの種類を参照)で利用しているようなもので、英語においてはベクタースキャンを"X-Y Plot"等とも呼ぶ。図形を描画する線を、輝点をその線に沿って動かして、直接描くわけである。オシロスコープでは掃引(スウィープ)や掃引線(トレース)の語が使われる。

ベクタースキャンのブラウン管には、一定時間(リフレッシュレート)毎に再描画(リフレッシュ)するものと、一旦閾値以上の輝度で光らせた点は光り続けるよう工夫された蓄積管(en:Storage tube、記憶装置タイプのブラウン管(ウィリアムス管)と区別するためDVST(Direct-View Storage Tube)とも。en:Direct-view bistable storage tubeも参照)というブラウン管を使い、図形を描くコマンドが出た時のみ、画面上のある座標からある座標まで輝点によって線を引くという処理を行うものとがある。蓄積管は、一旦表示したものは全部いっぺんに消すことしかできない。

描くのは「点」と「線」のみである。「線を組み合わせた簡単な図形や英数字」や「円や曲線」には向いているが、塗りつぶしには向かない。

文字は線で描く。掃引の精度は必ずしも高くないので、文字は歪む。ラスタースキャンディスプレイのメモリの量にもよるが、数個から数十個程度の文字なら描けるが、数千文字などは描くのは困難である。

[1]
歴史

最初のベクタースキャンディスプレイWhirlwindで開発され、SAGEで使用された ⇒[2][2]

CRT時代のベクター・スキャン・ディスプレイは基本的にはオシロスコープと同様の原理で描画するものだった。偏向板と呼ばれる金属板が2組あり、それにかける電圧によって左右方向への曲がる量および上下方向への曲がる量をコントロールできる。コンピュータディスプレイの場合は、コンピュータからベクトル(線分)を表現したデータ群を受けとり、それを図形やグラフ(ベクターイメージ)として表示する。ベクタースキャンディスプレイは「ベクター・グラフィック・ディスプレイ」とも呼ばれた。

1963年には、マサチューセッツ工科大学のアイバン・サザランドがベクターグラフィックディスプレイを使うSketchpadというCADの先駆的プログラムを開発した。

初期のものはCRT画面に仮想格子点を設け、その格子の交点から別の交点へ電子ビームを走査してベクトルを表示する方式であった。その後、半導体メモリが低価格で供給されるようになり方式が変わっていき、各格子点に対応してメモリ(カラーや濃淡を表す場合は複数ビット)を割り当て、ベクトルデータを演算して表示する格子点のメモリに記憶させる方式となっていった。@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .mod-gallery{width:100%!important}}.mw-parser-output .mod-gallery{display:table}.mw-parser-output .mod-gallery-default{background:transparent;margin-top:.3em}.mw-parser-output .mod-gallery-center{margin-left:auto;margin-right:auto}.mw-parser-output .mod-gallery-left{float:left;margin-right:1em}.mw-parser-output .mod-gallery-right{float:right}.mw-parser-output .mod-gallery-none{float:none}.mw-parser-output .mod-gallery-collapsible{width:100%}.mw-parser-output .mod-gallery .title,.mw-parser-output .mod-gallery .main,.mw-parser-output .mod-gallery .footer{display:table-row}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div{display:table-cell;text-align:center;font-weight:bold}.mw-parser-output .mod-gallery .main>div{display:table-cell}.mw-parser-output .mod-gallery .gallery{line-height:1.35em}.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div{display:table-cell;text-align:right;font-size:80%;line-height:1em}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div *,.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div *{overflow:visible}.mw-parser-output .mod-gallery .gallerybox img{background:none!important}.mw-parser-output .mod-gallery .bordered-images .thumb img{outline:solid #eaecf0 1px;border:none}.mw-parser-output .mod-gallery .whitebg .thumb{background:#fff!important}

1959年に製造開始されたDECのPDP-1ブラウン管式でベクタースキャン方式のグラフィックディスプレイ

AT&TのBell telephone magazineの1967年1-2月号[3]に掲載された写真。

1969年に富士通が開発したグラフィックディスプレイF6233は米国Westinghouse社(en:Westinghouse)から輸入した22インチ円形で表示面がフラットなCRTを使用し、画面上に4,096×4,096の格子点を設けコンピュータからのデータをもとに格子点から別の格子点への線分を表示して図形を表現し、線分データは仮想格子上の位置と縦方向と横方向の長さデータで構成され、リフレッシュ・メモリとして最大16K語のコアメモリを使用し、約8,000本の線分を表示することが出来た。ロケットの設計や軌道計算、列車ダイヤの編成、自動車の設計や科学計算の結果表示等に利用された。同時に富士通が開発したグラフィックディスプレイF6232はテレビ型の17インチCRTを使用、仮想格子点は1,024×1,024でリフレッシュメモリは4K語のコアメモリを使用、約2,000本の線分を表示した[4]

グラフィックディスプレイは先端科学技術分野から次第に商業・生産等のビジネス分野へと応用範囲が広がりローコストで簡易な製品が求められた。1973年に富士通が開発したグラフィックディスプレイF9530は線分表示用のメモリとしてスキャンコンバータ管[5](当初はThomsonCSF社製を、次にRCA社製を輸入し、最終的には富士通社内で生産した)を使用した。

1970年代にテクトロニクス (Tektronix) 社が開発したグラフィックディスプレイT 4010、Tektronix 4010は高画質、ローコストで、光蓄積機能を持つ蛍光体を使用したCRT画面(en:Storage_tube)を用いており、リフレッシュ機能を省略した画期的な装置で世界中のユーザから評価され採用された。このテクトロニクス社製品に価格・性能で対抗すべく富士通は1980年にグラフィックディスプレイF9430を開発した。モノクロ型は14インチCRTで格子点は1,000×800、カラーは7色のカラーで格子点は500×400、各格子対応のリフレッシュ・メモリにICメモリを採用した。

1970年代後半からコンピュータを使用して設計作業の効率化を図るソフト (CAD : Computer Aided Design) が開発され広く使用され始めた。富士通は設計支援ソフトICADを開発し、当初はグラフィックディスプレイF9430を使用したが機能が低く、複雑な図形表示が困難等の問題があり、1986年に高性能・高機能のグラフィックディスプレイF6240を開発した。表示面に反射軽減処理をした20インチカラーCRTを使用、格子点は1,024×800、7色のカラー表示、図形表示に加えて文字ディスプレイF9526(前述)と日本語ディスプレイF6650(後述)の機能を持っていた。

1970年代や1980年代にはロッキード社開発のCADAMやダッソー社開発のCATIAなどの機能が高いCADシステムが各国の先進的な企業や研究所等で導入されていたが、これらのCADシステムはIBMコンピュータの上で動くように開発されていたのでグラフィックディスプレイもIBM仕様であることが要求された。この仕様を満足するディスプレイにはVector General社製グラフィックディスプレイVG8250もあった。

富士通はVB8250輸入して使用していたが、後にVector General社へ技術者を長期派遣し、技術移管を受けて1988年にグラフィックディスプレイF6245を開発した。20インチカラーCRTを使用し、多色の線画や1600万色のソリッド(en:SOLID)を表示した。


(1990年代など)航空管制用レーダーの一部機種にも、ベクタースキャンで航空機に関する情報をオーバーレイ表示するものがある/あった。.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

この節の加筆が望まれています。 (2023年3月)

ラスタースキャンとの比較

ラスタースキャンの映像を生成する方式は、おおざっぱに2分すると、フレームバッファを利用するものと、スプライトを利用するものに分けられ、以下の説明は、それぞれそのどちらかに対してのものが多いが、特に注記しない。
長所

描画データが基本的に座標点のみ(モニタによっては輝度、描画速度、カラー等を含む)のみであるため、ラスタースキャンに対して画像メモリを少なく出来る。

キャラクタを輪郭線のみで表現出来るため、拡大した場合でも描画時間・データ量がそれほど増えず、結果として大きなキャラクタの描画がハードへ大きな負担をかけずに行える。

描画データが基本的に座標点のみであるため、ラスタースキャンに比べてキャラクタの拡大・縮小が容易である。

線や点が細かい。特にモノクロモニタの場合はブラウン管に色蛍光体が存在しないため、全く
ジャギーの存在しない画像が得られる。

モニタの種類によっては、指定した走査線の輝度・描画速度を変更出来る。輝度を高く・描画速度を遅くした場合はアニメ特撮透過光の様に強く光らせる事が出来る。


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