『ヘンリー六世 第3部』(ヘンリーろくせい だいさんぶ、The Third Part of King Henry the Sixth または Henry the Sixth, Part 3)は、ウィリアム・シェイクスピアの史劇で、1590年頃の作と信じられている。イングランド王ヘンリー六世の時代が舞台で、書かれた順番ははっきりしないが、『ヘンリー六世 第1部』、『ヘンリー六世 第2部』の続編で、シェイクスピアの代表作にして問題作の『リチャード三世』に繋がる作品である。
『ヘンリー六世』三部作の中では最も優れていて、感動的なドラマを作りあげるシェイクスピアの才能の証拠であると言われている。その中でも、特筆すべきは以下の場面である。
第1幕第4場 - 幼い息子の血で染まったハンカチで涙を拭えと言う残忍な王妃マーガレットに対するヨーク公の激しい非難(「O tiger's heart wrapp'd in a woman's hide!(おお、女の下に隠された虎の心!)」)。それに続く、マーガレットとクリフォード卿によるヨーク公への拷問のような罵りとその末の殺害。
第2幕第5場 - 戦争で我が子を殺した父と、その逆に父親を殺した息子の嘆きを耳にして、戦争の悲惨さと王の試練に苦悶するヘンリー六世。
第5幕第5場 - 復讐のため息子を目の前で惨殺された王妃マーガレットの悲痛さ。
第5幕第6場 - ヘンリー六世の劇的な最期。
第3幕第2場 - 上記のシリアスさとうってかわって、好色なエドワード四世が人妻を口説く滑稽なシーン。後のシェイクスピアのロマンティック・コメディを暗示させる。
前2作同様、『ヘンリー六世 第3部』は、ホールやホリンシェッドの年代記といった歴史的文献を元にしているが(詳細は後述)、ドラマのために事件を潤色・圧縮・変更している。とくにのちのリチャード3世、グロスター公リチャードは歴史を歪め、劇的に、奇怪なマキャヴェリストとして、歴史上の人物あるいは人間というよりも歴史のメカニズムの代弁者として描いている。さらにリチャードは劇の登場人物ならしめるために実際の年齢より相当加齢させているが、これはルネサンス期の史劇ではよくあることだった。 シェイクスピアが『ヘンリー六世 第3部』で主に材源にしたのは、ラファエル・ホリンシェッド(Raphael Holinshed シェイクスピアの初期の作品の一つで、(三部作の他の2作とともに)1590年頃に書かれた。1595年に『ヨーク公リチャードの実話悲劇、そして良王ヘンリー六世の死(The true Tragedie of Richard Duke of Yorke, and the death of good King Henrie the Sixt)』として出版された[1]。この時のテキストは1600年と1619年に再版されたが(1619年版はウィリアム・ジャガード(William Jaggard 『ヘンリー六世 第3部』が1592年の時点で上演されていたことは、その年にロバート・グリーンがパンフレット『A Groatsworth of Wit』でこの劇のパロディを書いていることから間違いない。1595年版の表紙には、それまでに「何回か上演された」と書かれている。 2016年には、第2部と合わせてBBCがテレビ映画シリーズ『ホロウ・クラウン/嘆きの王冠』の一篇として製作した。
材源
創作年代とテキスト
上演史
登場人物エドワード四世
王ヘンリー六世(King Henry VI)
皇太子エドワード(Edward, Prince of Wales) - ヘンリー六世の息子。
フランス王(King of France)
サマセット公(Duke of Somerset)
エクセター公(Duke of Exeter)
オックスフォード伯(Earl of Oxford)
ノーサンバランド伯(Earl of Northumberland)
ウェストモーランド伯
クリフォード卿(Lord Clifford)
ヨーク公(Duke of York)- 妻は、初代ウェストモーランド伯の娘セシリー・ネヴィル。
マーチ伯エドワード(Edward, Earl of March)のちに王エドワード四世(King Edward IV) - ヨーク公の息子。
ラットランド伯エドムンド(Edmund, Earl of Rutland) - ヨーク公の息子。
クラレンス公ジョージ(George, Duke of Clarence)) - ヨーク公の息子。
グロスター公リチャード(Richard, Duke of Gloucester) - ヨーク公の息子。のちのイングランド王リチャード三世。
ノーフォーク公(Duke of Norfolk)
モンターギュ侯(Marquess of Montagu)
ウォリック伯(Earl of Warwick)
ペンブルック伯(Earl of Pembroke)
ヘイスティングス卿(Lord Hastings)
スタフォード卿(Lord Stafford)
サー・ジョン・モーティマー(Sir John Mortimer) - ヨーク公の叔父。
サー・ヒュー・モーティマー(Sir Hugh Mortimer) - ヨーク公の叔父。
リッチモンド伯ヘンリー(Henry, Earl of Richmond) - のちのイングランド王ヘンリー七世。
リヴァーズ卿(Lord Rivers) - レディ・グレーの弟。
サー・ウィリアム・スタンレー(Sir William Stanley)
サー・ジョン・モンゴメリー(Sir John Montgomery)
サー・ジョン・サマーヴィル(Sir John Somerville)
ラットランドのチューター(Tutor to Rutland)
ヨーク市長(Mayor of York)
コヴェントリー市長(Mayor of Coventry)
ロンドン塔の長官代理(Lieutenant of the Tower)
貴族(Nobleman)
2人の森番(Two Keepers)
猟師(Huntsman)
自分の父親を殺した息子(Son that has killed his father)
自分の息子を殺した父親(Father that has killed his son)
王妃マーガレット(Queen Margaret)