ヘリコプターのローター
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MH-60RシーホークMH-60Rシーホークのテールローター

ヘリコプターのメイン・ローター(: main rotor)またはローター系統(ローターけいとう、英: rotor system)は、数枚の回転する翼(ローター・ブレード)に操縦系統を組み合わせ、ヘリコプターの重量を支える揚力空気抵抗に打ち勝って前方に進む推力を生み出す。メイン・ローターは、ヘリコプターから垂直に伸びたマストに取り付けられる。一方、テール・ローターは、テール・ブームに配置され、ドライブシャフトおよびギアボックスを介して駆動される。ブレード・ピッチの制御は、ヘリコプターの操縦装置に接続されているスワッシュ・プレートによって行われるのが一般的である。ヘリコプターは回転翼機の1つの形態であり、その名前は「らせん」を意味する「ヘリコ」と「翼」を意味する「プタロン」というギリシャ語に由来している。ローターに棒が付けられた、日本の竹とんぼ

画像外部リンク
File:Ciervas_1st_autogiro.jpg1923年に初飛行に成功したオートジャイロ

歴史

ローターによる垂直飛行を初めて実現したのは、紀元前400年頃に古代中国で作られた竹とんぼであった[1][2]。竹とんぼは、ローターに棒が取り付けられたものであり、手で棒を回すことにより揚力が生じ、手を離すと離陸する[1]。哲学者である葛洪が317年頃に書き上げた『抱朴子』には、航空機のローターを想起させるような記述がある。「ナツメの木の内側部分を使って飛車を作った者がいる。牛革の紐を引くことで、翼が回るようになっている」[3]レオナルド・ダ・ヴィンチは、スクリューポンプのようなローターを持つ「空気スクリュー(Aerial Screw)」と呼ばれる飛行機を設計した。ロシアの博学者であるミハイル・ロモソーノフは、この中国のおもちゃを元にローターを開発した。また、フランスの博物学者であるクリスチャン・デ・ロノワは、七面鳥の羽毛を使ったローターのおもちゃを製造した[1]ジョージ・ケイリーは、その中国のおもちゃから発想を得て、錫製のローターを持つ複数の垂直離陸機を作った[1]アルフォンス・ペノーは、1870年に、同軸回転ローター式のゴム動力の模型ヘリを製造した。その模型を父親から与えられたライト兄弟は、飛行機への夢を追いかけるようになった[4]

20世紀に動力ヘリコプターが開発されるまでの間、オートジャイロの発明者であるフアン・デ・ラ・シエルバは、ローターについて数多くの基礎的な研究および開発を行い、複数のブレードを有する全関節型ローターの開発に成功した。数多くの派生型が生み出されたこのローター型式は、その後のヘリコプターにおける基準となった。

初めて成功したシングル・ローター・ヘリコプターは、4枚ブレードのメイン・ローターを用いていた。このヘリコプターを設計したのは、ソビエトの航空工学者であり、1930年代の前半にモスクワ近郊のTsAGI(ツアギ)航空工学研究所で勤務していたボリス・N・ユーリエフ(Boris N. Yuriev)とアレクセイ・M・チェレムケン(Alexei M. Cheremukhin)であった。2人が製作したTsAGI 1-EAヘリコプターは、1931年から32年にかけて低高度試験を行い、1932年8月中旬には、チェレムケンの操縦により高度605メートル(約1,985フィート)まで上昇することに成功した[5][6]

1930年代には、アーサー・M・ヤングスタビライザー・バーを用いることにより、2枚ブレードのローターの安定性を改善することに成功した。この方式は、その後、ベル・ヘリコプター社およびヒラー・ヘリコプター社の複数の機体に採用されることとなった。また、翼形を持つパドルをフライバーの先端に取り付けたヒラー方式のローターは、1970年代から21世紀の初頭頃まで、ラジコン・ヘリで多く利用された。

1940年代の後半にヘリコプター用ローター・ブレードの製造に着目したのは、数値制御(NC)の先駆者となったジョン・T・パーソンズであった。数値制御(NC)およびコンピュータ数値制御(CNC)は、後に重要な新技術へと発展し、機械加工産業に重大な影響を及ぼすこととなった。
設計
概要

ヘリコプターのローターは、トランスミッションや回転マストを介して、エンジンにより駆動される。マストとは、トランスミッションから上方に伸び、それによって駆動される円筒形の金属製シャフトである。マストの上端には、ローター・ブレードを保持するためのハブと呼ばれる部品が取り付けられる。そのうえで、ローター・ブレードがハブに取り付けられるが、ハブ自体の抗力はブレードのそれの10?20倍に達する[7]。メイン・ローター系統は、メイン・ローター・ブレードとメイン・ローター・ハブがどのように結合されているか、およびそれらがお互いにどのように運動するかによって分類される。基本的には、無関節型、半関節(シーソー)型、全関節型の3つに分類されるが、近年では、これらの分類が組み合わせて用いられることも多い。回転体であるローターには、精密な重量バランスが求められる。すべての速度領域において振動が過大とならないようにするためには、微妙な調整が必要となる[8]。ローターは、ある一定の回転速度で運用されるように設計されている[9][10][11](その速度は、数パーセントの範囲に維持される[12][13])。ただし、一部の実験機においては、可変速度ローターも用いられる[14]

ターボファン・ジェット・エンジンに用いられるファンとは異なり、大量の空気を加速しなければならないヘリコプターのメイン・ローターは、大きな直径を有している。このため、ダウンウォッシュが比較的低速であっても、必要な推力を得ることができる。少量の空気の速度を大きく増加するよりも、大量の空気の速度を僅かに増加する方が効率が良い[15][16]。このため、ディスク・ローディング(単位面積当たりの推力)が小さいほど、エネルギー効率が向上し、燃料消費量が少なくなって、航続距離が長くなる[17][18]。一般的なヘリコプターのホバリング効率(性能指数)[19]は、約60%である[20]。なお、ローター・ブレードの内側3分の1の領域は、空気との相対速度が遅いため、ほとんど揚力を発生していない[16]
構成部品およびその機能ロビンソンR22のローターロビンソン R44 のローター・ヘッドシコルスキーS-92のローター・ヘッド

ロビンソン R22のローターは、次の部品で構成されている。(上部から)

ピッチ・ヒンジ:ブレードをその翼根と翼端を結んだ軸を中心として回転させる。


シーソー・ヒンジ:一方のブレードが持ち上がると、他方のブレードが下がる。この運動は、ローターが風を受けたり、サイクリック・コントロールが操作されたりした場合、常に生じる。

シザース・リンクおよびカウンターウエイト:メイン・シャフトの回転力を上部スワッシュ・プレートに伝達する。

ラバー・カバー:可動および非可動シャフトを保護する。

スワッシュ・プレート:サイクリックおよびコレクティブ・ピッチの操作をブレードに伝達する。ピッチ角の設定に必要な情報は、3本の非回転コントロール・ロッドにより、下部スワッシュ・プレートに伝達される


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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