ヘラチョウザメ
生息年代: Early Paleocene?現世 Pre??OSDCPTJKPgN
保全状況評価[1]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
ワシントン条約附属書II[2]
分類
ヘラチョウザメ(学名:Polyodon spathula)はチョウザメ目ヘラチョウザメ科ヘラチョウザメ属に分類される魚の一種。ヘラチョウザメ科唯一の現生種で、現代まで生き残ったヘラチョウザメ科のもう一種、ハシナガチョウザメは2003年以降発見されておらず、絶滅したと考えられている。チョウザメ科と共にチョウザメ目を構成する。条鰭類では最も原始的な現生分類群の一つで、ヘラチョウザメ科は白亜紀前期、1億2500万年前から、ヘラチョウザメ属は暁新世初期、6500万年前から化石記録がある。骨格は殆どが軟骨で、へら状の吻は体長の3分の1近くに及び、皮膚に鱗は無く、滑らかである。尾鰭の形がサメに似ているため名前に「サメ」と付くが、サメは軟骨魚綱でチョウザメ目は硬骨魚綱であり、近縁では無い[5]。濾過摂食を行い、頭部にある数万の受容体で動物プランクトンの群れを探し、捕食する。
ミシシッピ川流域に分布しており、1900 年代初頭まではミシシッピ川流域および隣接する流域全体の大河川、網状流路、止水、三日月湖に一般的に生息していた。分布域は五大湖にまで広がっており、1917年頃まではカナダのヒューロン湖とヘレン湖にも分布していた[6][7]。本種の個体数は乱獲、生息地の破壊、汚染により劇的に減少した。本種の卵であるキャビアの密猟も減少の一因となっており、キャビアの需要が高い限り、密猟は継続する可能性がある。本種の自然個体群はニューヨーク州、メリーランド州、バージニア州、ペンシルベニア州など、周辺地域の殆どから絶滅した。ペンシルベニア州西部のアレゲニー川、モノンガヒラ川、オハイオ川水系に再導入されている。現在の生息域はミシシッピ川とミズーリ川の支流、モービル湾流域にまで縮小している。現在米国の22の州に生息しており、州法、連邦法、国際法によって保護されている。
分類・進化・名称水族館の飼育個体
1797年、フランスの博物学者であるベルナール・ジェルマン・ド・ラセペードはヘラチョウザメ属を設立し、現在ヘラチョウザメ属には本種のみが分類されている(単型)[3]。ラセペードは、本種がサメの一種であると示唆したピエール・ジョゼフ・ボナテールの『Tableau encyclopedique et methodique des trois regnes de la nature』(1788)の記述に反対した。ラセペードは本種をPolydon feuilleとして記載したが、1792年に分類学者のJohann Julius Walbaumによって既にSqualus spathulaとして記載されていた[4][8][9]。従って本種の種小名はspathula (Walbaum, 1792)である[10]。しかし属名の Squalus は既にツノザメ科に使用されていたため、ラセペードの設立した Polyodon が有効である。従って本種の正式な学名は「Polyodon spathula (Walbaum, 1792)」である[11]。
本種はヘラチョウザメ科の唯一の現存種である。ヘラチョウザメ科はチョウザメ科の姉妹群であり、DNA解析によるとそれらの共通祖先はおよそ1億4,000万年前に存在した[12]。ヘラチョウザメ科とチョウザメ科でチョウザメ目を構成する[13]。ヘラチョウザメ科には白亜紀前期、1億2,500万年前の化石記録がある[14]。本種は化石種である祖先から殆ど形態が変化していない為、生きた化石と呼ばれる[15]。骨格は主に軟骨で構成され、サメの尾鰭に似た異尾だが、サメと近縁では無い[16]。
ヘラチョウザメ科は6種が知られており、北アメリカ西部から化石種が3種、中国から化石種が1種[14]、2010年以前に絶滅した中国のハシナガチョウザメ[17][18]、アメリカから本種が知られている[19]。DNA解析によると、中国の種とアメリカの種が分化したのは約6,800 万年前である[12]。ヘラチョウザメ属の最古の化石は、モンタナ州の暁新世の地層から出土したP. tuberculataで、約6,500 万年前のものであった[14][20]。細長い吻はヘラチョウザメ科の形態的特徴だが、顎、鰓弓、頭蓋など濾過摂食に適応した特徴を持つのはヘラチョウザメ属のみである。本種の鰓耙は櫛状の繊維で構成されており、属名のPolyodon(ギリシア語で「多くの歯」を意味する)の語源となったと考えられている。成魚には歯が無いが、幼魚には1 mm未満の小さな歯が多数ある。種小名は細長いへら状の吻を意味する[21][22]。 ハシナガチョウザメや他の化石種と比較して、本種とその近縁種である化石種P. tuberculataは形態的に特殊であり、より派生した一群と考えられている[23]。