ヘッジファンド
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ヘッジファンド(英語: hedge fund)は、金融派生商品など複数の金融商品に分散化させて、高い運用収益を得ようとする代替投資の一つ[1]。欧米の大手金融機関機関投資家の1つとされる。

金融危機のときにはシャドー・バンキング・システムとして研究対象となった。

シャドー・バンキング・システムには「マネー・マーケット・ファンド」(MMF)と「ヘッジファンド」があるが、マネー・マーケット・ファンド(MMF)は金融当局の厳格な規制を受けているのとは対照的に、ヘッジファンドは厳格な規制を免れている[2][3][4]

1990年代は、ヘッジファンドは高い運用成績を残したが、近年では世界金融危機の影響で運用成績の不振が目立つ[5]
特徴

ヘッジファンドの運用コストは高く、預かり残高の2%相当の手数料のほか、成功報酬として運用益の20%を追加で請求されることが一般的である
[5]。2016年の運用成績の悪化により、一部では手数料を引き下げる動きがある[5]


最低金額は数千万円からの投資金額が一般的だが、近年は小口化したヘッジファンドが投資信託で募集されるようになり、個人投資家も参入できる環境である[6]


投資対象は、株式等よりは商品先物金融先物が多く、買いのみではなく売りの活用、レバレッジの活用など多くの手法を複雑に組み合わせて、市場の下落局面であっても損失を回避しプラスの収益(絶対的リターン)を目指す投資手法が特徴であるという[6]


近年では、仮想通貨暗号資産)を投資対象とするヘッジファンドも誕生している[7][8][9][10]


なお、ヘッジファンドの言う「絶対収益」や「絶対的リターンを目指す投資手法」の中に出てくる「絶対」には特別な意味がある。この「絶対」とは、「絶対に儲かる」という意味ではなく[11]、単に、市場が不況である場合に利益が減る伝統的な投資手法(相対収益型)とは対照的に、好況でも不況でも、市況によらずにいつもハイリスクをとって利益を目指すという意味における「絶対」である[11]


ヘッジファンドは監督官庁に届け出る義務や規制がなく、投資対象や投資手法に規制や制限がかからない私募形式によるファンドに資金を集め、ハイリスク・ハイリターンを目指して運用されることが一般的である[1][12]


ファンドの解約は45日前までに解約を通告しなければならないのが一般的であり、解約までの期間が伝統的な投資ファンドよりも長い[6]


欧米の大学は自分たちの大学基金の一部をヘッジファンドに投資して資産運用している。

歴史と動向

アメリカの狂騒の20年代と呼ばれた1920年代において、資産家にのみ提供される投資商品が数多く存在した。そのうち現代でもっともよく知られているのが、ベンジャミン・グレアムとジェリー・ニューマン(Jerry Newman)によるグレアム=ニューマン・パートナーシップであり、これは2006年のウォーレン・バフェットによるアメリカ金融博物館(英語版)への書簡で初期のヘッジファンドとして言及された[13]

ヘッジドファンド(Hedged fund)という語は社会学者のアルフレッド・ウィンスロー・ジョーンズ(英語版)によってはじめて使われ[14][15]、1949年に同氏によりはじめて設立されたと言われるが、異説もある[16]

ジョーンズは自らのファンドが「ヘッジド」(Hedged、「リスクヘッジ(英語版)が行われた」の意)としたが、これは当時金融市場での変動による投資リスクの管理を指す用語としてウォール街でよく使われていた[17]

多くのヘッジファンドが1969年-1970年の不況(英語版)と1973年-1974年の株価暴落(英語版)で大損を出して廃業に追い込まれたが、ヘッジファンド1980年代後期に再び脚光を浴びた[15]

1990年代、ヘッジファンドの数が大幅に上昇したが、これはインターネット・バブルによる株価上昇で増えた資金によって支えられ[14]、信託報酬が運用成績と連動したのと運用成績自体がよかったため多くの関心を集めた[18]。実際この時期には年率20から30% など、高リターンを達成することも珍しくはなかった[5]。その後の10年間、クレジット・アービトラージ、ディストレスト証券戦略、債券アービトラージ、定量戦略などの新しい投資戦略、さらには複数の投資戦略を使うヘッジファンドが現れた[15]

21世紀のはじめ、ヘッジファンドは世界中で人気を集め、2008年にはヘッジファンドの運用資産(英語版)総計が1.93兆米ドルに上った[19]。しかし、2008年の金融危機では多くのヘッジファンドが解約を制限した結果、その人気も運用資産も減退した[20]。しかし、運用資産の総額は後に上昇に転じ、2011年4月には2兆米ドル近くになったと概算された[21][22]。また2011年2月時点ではヘッジファンドへの投資のうちの61% は機関投資家によるものであり、2008年末時点の45% と比べて大幅に上昇していた[23]

2011年6月時点で運用資産が最も大きいヘッジファンドは上から順にブリッジウォーター・アソシエーツ(英語版)(589億米ドル)、マン・グループ(393億米ドル)、ポールソン・アンド・カンパニー(英語版)(352億米ドル)、ブレバン・ハワード(英語版)(310億米ドル)、オク=ジフ・キャピタル・マネジメント(英語版)(294億米ドル)であった[24]。このうち、1位のブリッジウォーター・アソシエーツは運用資産をさらに増やし、2012年3月1日時点で700億米ドルになった[25][26]。2012年末時点ではアメリカの最大手ヘッジファンド会社241社の運用資産総計は1.335兆米ドルであった[27]。2012年4月、ヘッジファンドの運用資産総計が史上最高の2.13兆米ドルに上った[28]

運用資産が増えた一方、ヘッジファンドの運用成績は2009年から2016年まで連続してS&P500指数(アメリカ)の騰落率にも及ばない成績を記録しており、2016年は再びヘッジファンド運用成績が8年ぶりに大きく悪化して大規模な資金流出が起こった[5]。2016年には、2008年の金融危機が起こったとき以上に多数のヘッジファンドが閉鎖している[5]

2016年には大手投資家の引き上げが増加し、カリフォルニア州職員退職年金基金もヘッジファンドから撤退している[5]

日本経済新聞は、世界的な「カネ余り」で資産規模が膨れあがったために運用が困難となっているのに加え、英国による欧州連合(EU)離脱米大統領選などの政治状況に市場が振り回されて2016年の運用成績が大幅下落したことを受け、ヘッジファンドの影響力が世界的に「徐々に縮小していく可能性」があると報じている[5]。また、大手投資家はヘッジファンドから資金を引き揚げ、より低コストな投資商品に資金が流出していると報じられている[5]

ブルームバーグは、「ヘッジファンドが商品市場で危険地帯にいる5つの理由」として、「原油のポジション減少」、「株式の売り建玉」、「パラジウムのシグナル」、「金属価格のモメンタム」、「綿花の乖離(かいり)」をあげている[29]
投資戦略
グローバル・マクロ詳細は「グローバル・マクロ(英語版)」を参照

グローバル・マクロ戦略を採用するヘッジファンドは世界経済の動きを予想して株式、債券、または為替市場で大きなポジション(英語版)を取ることでリスク調整後リターンを得ようとする[30]。ファンド・マネージャーは世界経済の事象やトレンドに基づきマクロ経済を分析することで投資機会を見つけようとする。

グローバル・マクロ戦略はレバレッジが使えるため柔軟な戦略ではあるが、高水準のリスク調整後リターンを得るためには戦略を実行する売買タイミングが大事である[31]。グローバル・マクロ戦略はいわゆる相場志向型(Directional)とされることが多い[30]

グローバル・マクロ戦略は裁量的(Discretionary)と系統的(Systematic)な手法に分けることができる。裁量的な手法では投資マネージャーが銘柄を選ぶ一方、系統的取引(英語版)は数学モデルによって決定され、ソフトウェアによって実行されるものであり、人間が介在するのはプログラミングとソフトウェアのアップデートのみに留まる。

またトレンドフォロー(英語版)と反トレンド(Counter-trend)の手法に分けることもでき、この場合はファンドがトレンドに乗じて利益を得ようとするか、トレンドの逆転を予想して利益を得ようとするかで分類する[32]

また、グローバル・マクロ戦略をさらに細かく分類して「系統的分散」(Systematic diversified、投資先を広く分散する手法)や「系統的為替」(Systematic currency、主に外国為替市場に投資する手法)に分けることもできる[33]:348。

ほかには商品取引投資顧問(英語版)(CTA)が使用する、コモディティ先物取引オプション取引やスワップに投資する手法もある[34]。この手法は「マネージド・フューチャーズ」(Managed futures)と呼ばれる[30]。CTAはなどの商品や株価指数などの金融商品に投資し、買い建てと売り建てを両方使うことで上げ相場でも下げ相場でも利益を得ることができる[35]
ディレクショナル

ディレクショナル戦略において、ヘッジファンドは市場の動き、トレンドや不一致を察知して世界中の株を選ぶ。コンピュータのモデルを使う場合とファンド・マネージャーが自ら株選びに加わる場合がある。この戦略はマーケット・ニュートラル戦略と比べて市場の変動に影響される恐れが大きい[36][30]。ディレクショナル戦略の一例としてロング・ショート・エクイティ(英語版)という戦略があり、これは株のロング(英語版)・ポジションを株の空売りや株価指数のオプションでヘッジするという戦略である。

ディレクショナル戦略をさらに細かく分類すると、中国やインドなどの新興国市場に集中して投資する「エマージング・マーケット」戦略[33]:351やヘルスケア、バイオテクノロジーなど株式市場全般より成長寄りとされる特定の産業に投資する「ファンダメンタル・グロース」(Fundamental growth) 、株価が会社の価値と比べて低い会社に投資する「ファンダメンタル・バリュー」(Fundamental value)[33]:344、トレーディングに計量的手法や金融信号処理(英語版)を取り入れた「クオンティテーティブ・ディレクショナル」(Quantitative directional)[33]:345、株価の下落を利用して空売りで利益を得る「ショート・バイアス」(Short bias)などがある[37]
イベント・ドリブン詳細は「イベント・ドリブン投資(英語版)」を参照

イベント・ドリブン戦略をとるヘッジファンドは投資機会とそのリスクが何らかの事件(イベント)に関連する状況に着目する[38]。このようなヘッジファンドは連結、買収、資本再編、倒産、清算など会社再編に関連する事件に機会を見出す。事件の前後で証券の評価に不一致が生じることを利用し、証券価格の動きを予想してポジションを取る。

ヘッジファンドのような巨大機関投資家は伝統的な株式投資家よりイベント・ドリブン戦略をとる可能性が高いが、これは機関投資家のほうが会社再編を分析し、投資機会を見出す専門知識と資源を有するからである[31][39][40]

会社再編に関連する事件は一般的にはディストレスト証券(英語版)、リスク・アービトラージ(英語版)、スペシャル・シチュエーションズ(英語版)の3種類がある[31]。ディストレスト証券は事業再編、資本再編、倒産などの事件を含む[31]


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