ヘイトスピーチ
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ヘイトスピーチに反対するキャンペーンスローガンを掲げたポーランドのSIMカード(Virgin Mobile社)「言葉(S?owa)は力(moc)を持つ(maj? )、思慮深く(rozwa?nie)使え(u?ywaj )」

ヘイトスピーチ(: hate speech)は、人種、出身国、民族宗教性的指向性別容姿健康障害)、経済的・社会的出自あるいは他のアイデンティティー要素などに基づいて、個人または集団攻撃脅迫侮辱する発言や言動のことである[1][2][3][4][5]。ヘイトスピーチが具体的にどのような言論を指すかについて各国の共通した解釈が存在するわけではなく、法的定義は国によって様々である。

言論の自由、ヘイトスピーチ、ヘイトスピーチの法律について多くの議論がなされてきた[6]。いくつかの国の法律では、ヘイトスピーチを「集団に属することを理由に集団や個人に対して暴力偏見に満ちた行動を扇動する、または集団に属することを理由に集団や個人を中傷または脅迫する言動、身振り、行動、文章、表示」と説明している[7][8]。また、アメリカを含むいくつかの国では、「ヘイトスピーチ」とされるものの多くは憲法で保護されている[9][10]
定義と様態

この言葉はもともと、ヘイトクライムという用語とともに、有色人種LGBT等に対する差別に基づく暴力行為が頻発した1980年代後半の米国で使用され、後に一般化した言葉である [11]。憎悪表現が”地域の平穏を乱すことをもって規制されるべき”と議論する場合には「憎悪を煽る表現」とも呼ばれる[12][13]。「喧嘩言葉」[注釈 1]と同様に相手方の内部に憎悪を生み出すような言論(表現)類型と考えられており、話者(表現者)の側の憎悪感情が問題とされる[12]。また、「憎悪と敵意に満ちた言論」[16]、「憎悪にもとづく発言」とも解説される[2]

知恵蔵mini』(朝日新聞出版)の2013年2月21日の版では「匿名化され、インターネットなどの世界で発信されることが多い。定義は固まっていないが、主に人種国籍思想性別障害職業、外見など、個人や集団が抱える欠点と思われるものを誹謗・中傷、貶す、差別するなどし、さらには他人をそのように扇動する発言(書き込み)のこと」を指すとされ、インターネットにおける書き込みも「スピーチ」に含むと解説している[2]。また、それに続けて「ヘイトスピーチを行う目的は自分の表現を挑発的に押し付けること」にあり、あらゆる手法を用いて他者を低めようとし、表現に対する批判に「まともに耳を貸すことはない。」「憎悪、無力感、不信などを被害者に引き起こし、相互理解を深めようとする努力を無にする、不毛かつ有害な行為」と解説し、ヘイトスピーチ規制は全世界的に広がっているとした上で、規制の少ない国としてアメリカ日本を挙げている[2]。さらに、同辞典2013年5月13日更新では「憎悪に基づく差別的な言動」であり、「人種や宗教、性別、性的指向など自ら能動的に変えることが不可能な、あるいは困難な特質を理由に、特定の個人や集団をおとしめ、暴力や差別をあおるような主張をすることが特徴」と解説され、思想は除外された[2]。また、朝日新聞2013年10月7日夕刊では「特定の人種や民族への憎しみをあおるような差別的表現」と定義され、在日韓国・朝鮮人への街頭活動が例とされた[2]。また 社会学者ましこ・ひでのりはこの概念に「ヘイト」とか「憎悪」と言った表現を使うべきではないとして(心理的打撃を目的とする)「言語的リンチ」という用語を提案している[17]

上記のように確固たる客観的な定義が確立されているわけではないので、例えばヘイトスピーチの取締が成立してるスペインでは、カタルーニャ独立運動に関わる各種発言がスペインに対するヘイトスピーチだとして、市民が取締りを受けている状況がある[18]

主体的に変えることができる「思想信条」への言動について、これもヘイトスピーチに含まれると「新明解国語辞典」第八版では定義している。

言及される対象について、国際連合広報センター[19]は「ヘイトスピーチは、個人または個人からなる集団のみを対象として(おり)、国家やその国の機関、国の象徴または公務員に関するコミュニケーションや、宗教指導者や信仰上の教義に関するコミュニケーションは、ヘイトスピーチには含まれません[20]」と、特に注意喚起している。
様態

アメリカでは、1980年代後半以降、「ヘイト・スピーチ(hate speech)」という語句が一般的に用いられるようになり、2010年代に入ってから、その語や概念を輸入する形で、日本でも使用されるようになった[14]。憎悪バイアスをもたらす表現形態として、ジェンダー論の立場からは、ポルノグラフィ規制論とも関係する[12]。個人に対する嫌がらせ表現などは侮辱罪ストーカー規制法などの対象となる。ほかに差別や偏見を動機とした暴行等の犯罪をヘイトクライムといい、これも問題となっている[16]。現代アメリカ英語としてヘイトスピーチと言う時の憎悪はこのヘイトクライムを直接連想させる言葉である[21]。日本の市民団体によると、日本におけるヘイトスピーチの対象は在日、反原発運動、広島の平和運動、生活保護など多岐にわたるとされる[22]

また、ヘイトスピーチは多大な悪影響を及ぼすとして、様々な問題点が指摘されている。「互いの憎しみを煽る点」が最大の問題点であるという指摘や[23]、デモで行われると言論への責任感が希薄となって気持ちが刺激され「対象への憎悪感はさらに増幅しやすい」という指摘[24]、ヘイトスピーチが人種差別的な社会を構築してしまうという研究結果[1]等があげられる。
訳語

日本語では「憎悪表現」の他、「差別的憎悪表現」[25]、「憎悪宣伝」、「差別的表現」、「差別表現」[1][26]、「差別言論」[26]、「差別扇動」[27][28][29][30][31]、「差別扇動表現(差別煽動表現)」[32][33][34][35][36][37][38][39][40][41]などと訳される。
カナダ

カナダでは言論の自由は通常権利および自由に関するカナダ憲章第2章によって保護されているが、カナダの刑法319条で喧嘩言葉を含むいくつかの形態の処罰しうるヘイトスピーチを定義しこれらの自由を制限している[42]。公共憎悪扇動(319条)何人も公共の場の通信言辞によっていかなる識別可能な集団に対しても平和を侵害する恐れのある憎悪扇動は有罪[犯罪]とする。 ? カナダ刑法319条第1項
アメリカ

1940年、リーフレットと既成宗教に対する罵詈雑言で通行人から反発を受けていたエホバの証人の信者のウォルター・チャプリンスキーが、公序を乱したとして逮捕された後、警察に対し「ファシスト野郎(a damned fascist)」「くそチンピラ(a God-damned racketeer)」と罵った。こうした言論に対し、1942年、アメリカ連邦裁判所は判事9人一致で修正第一条が保護する言論の範囲を超えていると判断した[43]。(Chaplinsky判決)表現の自由がいつもどのような状況でも絶対的に保障されるものではないことは、広く認識されている。禁止したり処罰したりすることがいかなる憲法上の問題も生じさせないような、明確に定義され注意深く限定された言論の種類が存在する。そうした種類の言論には、猥褻的、冒涜的、名誉毀損的、侮辱的な言葉および、「喧嘩」言葉が含まれる。それらはまさに口に出されることによって他人の権利を侵害し、あるいは直接に治安の紊乱を煽る言論である。そうした発言は、本質的な点でいかなる思想の表明でもなく、真理へのステップとしてごくわずかな価値しか有しないので、そこからもたらされうるいかなる利益よりも、秩序と道徳における社会的利益のほうが明らかに重大であると認められてきた。 ? Chaplinsky v. New Hampshire、1942 明戸隆浩ら 訳[44]

1946年、シカゴ市内で行われたデモ行進では、コーラーが「ユダヤ人を殺せ(Kill the Jews.)」「下品なユダヤ人(Dirty kikes.)」「そうだ、ユダヤ人はみな殺人者だ。我々が先に奴らを殺さねば我々が殺される(Yes. the Jews are all killers, murderers, If we don't kill them first, they will kill us.)」などと煽り、1000人から1500人の抗議者が叫び、破壊行為を生じさせた。この事件では、シカゴ市が起訴、100ドルの罰金刑とし、上訴裁判所、州裁判所は支持したが連邦最高裁は5対4で破棄した(テルミニエロ対シカゴ市事件[15]

ジョニー・ウィルソンがベトナム戦争時、軍司令部を妨害しようとして警官に立ち退きを迫られ、「白人のくそったれめ、殺してやる(White son of a bitch, I'll kill you.、」)と言って罪に問われた。1972年、最高裁は、ジョージア州法は「治安紊乱を起こす恐れのある不名誉な言葉あるいは侮辱的な言葉」を対象にしておりその範囲が曖昧すぎるとして、本質的に違憲の疑いがあり、破棄されなければならないとした。これにより、「喧嘩言葉」の法理は有名無実化し、公共の場での人種差別的言論は事実上保護されるようになった[45]
法的な側面
国連規約

1965年12月21日に国連総会で採択されたあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)は、その第4条a項において「人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること」、またb項で「人種差別を助長し及び扇動する団体、及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を、違法であるとして禁止するものとすること」と明記している[46]

また1966年に国連で採択された市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約。世界人権宣言に強制力を付与した)では第20条第2項で、「差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する」、同規約第2条第2項では「この規約の各締約国は、立法措置その他の措置がまだとられていない場合には、この規約において認められる権利を実現するために必要な立法措置その他の措置をとるため、自国の憲法上の手続及びこの規約の規定に従って必要な行動をとることを約束する」と定める[47]

アメリカ合衆国は人種差別撤廃条約を1994年批准[48]。日本は1979年に国際人権B規約を批准し、また人種差別撤廃条約には1995年12月15日に加入書を寄託し、加盟国となっているが、「日本国憲法の下における『集会、結社及び表現の自由その他の権利』の保障(第21条)に抵触しない限度において、これらの規定に基く義務を履行する」という留保の宣言を行なっている[16]。もっとも国際人権B規約が第5条で「何人も他人の権利・自由を侵し得ない」、また憲法第12条後段は「個人の自由の享受・権利の行使は公共の福祉に適わなければならない」と定める。
各国詳細は「国別のヘイトスピーチ関連法(英語版)」を参照

ヨーロッパ諸国は人種差別表現(ヘイトスピーチ)の規制に対して共感的である一方[49]、アメリカは人種差別的な意見に基づいた行為(ヘイトクライム)を規制することに積極的である[50]


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