プロトン性溶媒 (プロトンせいようばい、英語: protic solvent)は、酸素(ヒドロキシ基)や窒素(アミン)等に結合した水素原子を含む溶媒である。一般に、不安定性を持つヒドロン(H+)を含む溶媒はプロトン性溶媒と呼ばれる。そのような溶媒の分子は、プロトン(H+)を容易に供与する。
逆に、非プロトン性溶媒 (ひプロトンせいようばい、英語: aprotic solvent)はプロトンを供与することができない。 プロトン性極性溶媒は、しばしば塩を溶解するために使用される。一般に、これらの溶媒は高い誘電率及び高い極性を有する。 非プロトン性極性溶媒は、酸性水素を欠く溶媒である。従ってそれらは水素結合供与体ではない。これらの溶媒は、一般に中間的な誘電率および極性を持つ。「極性非プロトン性」という用語の使用は推奨されないが、IUPACは、高い誘電率及び高い双極子モーメントの両方を有するような溶媒を記載しており、その例はアセトニトリルである。 IUPACの基準を満たす他の溶媒には、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホキシド等がある[1]。 一般的な非プロトン性極性溶媒は、グリニャール試薬やn-ブチルリチウムのような強塩基には使用できない。これらの試薬は、ニトリル、アミド、スルホキシド等ではなく、エーテルを要する。テトラヒドロフランはエーテルであると同時に非プロトン性極性溶媒としての性質を持ち、グリニャール試薬の溶媒としてジエチルエーテルと並んでよく使われる。 溶媒は、非極性、極性非プロトン性及びプロトン性極性溶媒に定性的に分類され、しばしば誘電率によって並べられる。
プロトン性極性溶媒
プロトン性溶媒の共通する性質
溶媒は水素結合を示す
溶媒は酸性水素を持つ(エタノールのような非常に弱い酸であるかもしれない)
溶媒は塩を溶解する
孤立電子対によるカチオン
水素結合によるアニオン
例としては、水、大部分のアルコール、ギ酸、フッ化水素及びアンモニアが挙げられる。プロトン性極性溶媒はSN1反応には好都合であるが、非プロトン性極性溶媒はSN2反応に好都合である。
非プロトン性極性溶媒
非プロトン性溶媒の共通する性質
溶媒は水素結合を受け入れられる
溶媒は酸性水素を持たない
溶媒は塩を溶解する
基準は相対的かつ非常に定性的である。非プロトン性溶媒については、ある範囲の酸性度が認められる。塩を溶解する能力は、塩の性質に強く依存する。
主な溶媒の性質
非極性溶媒ヘキサンCH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH369 ℃2.00.655 g/mL0.00 D
ベンゼンC6H680 ℃2.30.879 g/ml0.00 D
トルエンC6H5CH3111 ℃2.40.867 g/mL0.36 D
1,4-ジオキサン(CH2CH2O)2101 ℃2.31.033 g/mL0.45 D
クロロホルムCHCl361 ℃4.81.498 g/mL1.04 D
ジエチルエーテル(CH3CH2)2O35 ℃4.30.713 g/mL1.15 D
非プロトン性極性溶媒N-メチルピロリドンCH3NC(O)C3H6202 ℃32.21.028 g/mL4.1 D
ジクロロメタン (DCM)CH2Cl240 ℃9.11.3266 g/mL1.60 D
テトラヒドロフラン (THF)C4H8O66 ℃7.50.886 g/mL1.75 D
酢酸エチル (EtOAc)CH3CO2CH2CH377 ℃6.00.894 g/mL1.78 D
アセトンCH3C(O)CH356 ℃210.786 g/mL2.88 D
ジメチルホルムアミド (DMF)HC(O)N(CH3)2153 ℃380.944 g/mL3.82 D
アセトニトリル (MeCN)CH3CN82 ℃370.786 g/mL3.92 D
ジメチルスルホキシド (DMSO)CH3S(O)CH3189 ℃471.092 g/mL3.96 D
炭酸プロピレン (PC)C4H6O3242 ℃641.205 g/mL4.90 D
プロトン性極性溶媒ギ酸HCO2H101 ℃581.21 g/mL1.41 D
n-ブタノールCH3CH2CH2CH2OH118 ℃180.810 g/mL1.63 D
イソプロパノール (IPA)(CH3)2CH(OH)82 ℃180.785 g/mL1.66 D
ニトロメタンCH3NO2100?103 ℃35.871.1371 g/mL3.56 D
エタノール (EtOH)CH3CH2OH79 ℃24.550.789 g/mL1.69 D
メタノール (MeOH)CH3OH65 ℃330.791 g/mL1.70 D
酢酸 (AcOH)CH3-CO2H118 ℃6.21.049 g/mL1.74 D
水H2O100 ℃801.000 g/mL1.85 D
関連項目
自動プロトン分解
出典^ ⇒http://goldbook.iupac.org/D01751.html
Loudon, G. Mark. Organic Chemistry 4th ed. New York: Oxford University Press. 2002. pg 317.