プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
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ドイツ語初版本

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(プロテスタンティズムのりんりとしほんしゅぎのせいしん、Die protestantische Ethik und der Geist des Kapitalismus)は、ドイツの社会学者マックス・ヴェーバーによって1904年から1905年に著された論文。大学教育現場などでは『プロ倫』と略する。

プロテスタントの世俗内禁欲が資本主義の「精神」に適合性を持っていたという、逆説的な論理を提出し、近代資本主義の成立を論じた。

1998年に国際社会学会が選出した「20世紀の名著 トップ10」では第4位となっている[1]

1930年にはタルコット・パーソンズによって英訳され『The Protestant Ethic and the Spirit of Capitalism』の題でアメリカで出版された[2]
論旨章題は大塚久雄訳
第1章 問題の提起
1 信仰と社会階層

オランダイギリスアメリカなどのように、カルヴィニズムの影響が強い国では、非合理性を持った合理主義によって、近代資本主義が発達した。一方、イタリアスペインなどのように、カトリックの影響が強く、実践的合理性の顕著な国や、ドイツなどでは、資本主義の発達が遅れた。これは偶然ではない。資本主義の「精神」とカルヴィニズムの間には、因果関係が存在するのである。ここでいう資本主義の「精神」とは、単なる拝金主義や利益の追求ではない。合理的な経営・経済活動を非合理的に支えるエートスである。
2 資本主義の「精神」

資本主義の「精神」は、典型的にはベンジャミン・フランクリンに見られる。時間を無駄にせず勤勉で、正直・誠実であれということである。
3 ルッターの職業観念?研究の課題

職業をあらわすドイツ語 "Beruf" とは、もともと神から呼ばれて与えられた使命という意味を持つ。この言葉は宗教改革以後にできたものである。
第2章 禁欲的プロテスタンティズムの職業倫理
1 世俗内的禁欲の宗教的諸基盤

カルヴァン予定説では、救済される人間は、あらかじめ決定されている。したがって、人間の努力や善行の有無などによって、その決定を変更することはできない。つまり、善人でも救われていないかもしれないし、悪人でも救われているかもしれないのである。また、人間は、神の意思を知ることができない。したがって、自分が救済されるのかどうかをあらかじめ知ることはできない。

予定説における決定論は、仏教における因果論とは正反対の論理である。因果論においては、「善行を働けば(因)救われる(果)」のであるから、人間の神や仏に対する働きかけ(たとえば、寺院への布施や教会への寄付は、救済を金で買う行為であると言える)によって、救済が可能である。しかし、それはある意味では、自分が救済されるために、神や仏を道具として使うことである。そのため、それは、神に対する冒涜である。そこで、カルヴァン主義では、神の絶対性を守るために、予定説が採用された。そして、予定説においては、神は人間の行為や意思に一切左右されることなく、絶対専制君主として振舞うのである。

予定説によれば、善人でも救われていないかもしれないし、悪人でも救われているかも知れない。となると、人々は悪事を働きそうなものであるが、実際にはそうはならなかった。

キリスト教においては、人生は一度きりであり、仏教のように何度も生まれ変わる(輪廻転生)ということはない。そして、死後(第1の死)に再び肉体を与えられて、最後の審判に臨むときに、救済される人間として選ばれなかった者は、永遠の地獄に落ちる、あるいは消滅する(第2の死)。そして、そうなってしまえば、救済や復活はもう二度と起こらない。

このように、善行を働いても救われるとは限らない。また、自分が救われているかどうかをあらかじめ知ることもできない。そして、もし選ばれていなかったら自分は永遠の地獄に落ち、二度と救済されることがない。このような予定説の恐るべき論理は、人間に恐怖と激しい精神的緊張を強いる。そして、人々はそこから逃れるために、「神によって救われている人間ならば(因)、神の御心に適うことを行うはずだ(果)」という、因と果が逆転した論理を生み出した。そして、一切の欲望や贅沢や浪費を禁じ、それによって生まれたエネルギーのすべてを、信仰と労働(神が定めた職業、召命、天職、ベルーフ)のみに集中させた。こうして、人々は禁欲的労働(世俗内禁欲、行動的禁欲、アクティブ・アスケーゼ)というエートスを生み出したのである。
2 禁欲と資本主義精神

そうして、人々は世俗内において、信仰と労働に禁欲的に励むことによって、社会に貢献した。そして、この世に神の栄光をあらわすことによって、ようやく自分が救われているという確信を持つことができるようになったのである。

しかし、禁欲的プロテスタンティズムが与えた影響は、それだけではない。禁欲的プロテスタンティズムは、「利潤の肯定」と「利潤の追求の正当化」を生み出した。つまり、金儲けに正当性を与えたのである。

それまで、金儲けは高く評価されるものではなかった。そして、プロテスタンティズム、特にカルヴァン主義は、最も禁欲的であり、金儲けを強硬に否定する宗教であった。

金儲けに正当性が与えられない社会では、金儲けは当然抑制され、近代資本主義社会へと発展することはないはずである。


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