プロセス指向心理学
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プロセス指向心理学(プロセスしこうしんりがく)は、アメリカのユング派心理学アーノルド・ミンデルが中心となって創始、発展させてきた、心理療法、自己成長、関係性への取り組み、社会運動等に、統一的に活用できる体系。米国では主に「プロセスワーク」の名前で呼ばれているが、ヨーロッパ、日本を含むアジアでは「プロセス指向心理学」の名前もよく使われている。

当初ユング派心理療法家であったアーノルド・ミンデルは、人間の背後に「ドリーミング」と呼ばれる広大な無意識体が存在し、その働きかけが「ドリームボディ」となり、身体に夢や病気を引き起こすと考えた。プロセス指向心理学の仕事とは、このドリームボディに付き添い、それが治療的なプロセスを展開するのをサポートすることである。既存の多くの心理学体系のように、病をただ治療すべき対象と見なすのではなく、「病や夢はそれ自身に目的を持つ」ものとして目的論立場に立って扱うのである。(→#ドリームボディワーク)プロセス指向心理学は、ユング心理学のの概念を身体性へも拡張したものと言える。

この「状況を観察しながらプロセスに従う」という方法は非常に高い普遍性を持っていることが経験的に確信されるにつれ、幅広い応用が展開されることになった。一見、外界とのコミュニケーションが不可能であるような昏睡状態の患者とのワーク(→#コーマワーク)、紛争対立する集団へのワーク(→#ワールドワーク)などである。サトル・ボディの概念なども深化させるにともなって従来の心理療法の枠組みを踏み越え技法を展開することとなった。プロセス指向心理学はより広範な範囲での実践を行うため独立して打ち立てた理論・実践の体系である。

プロセス指向心理学はネオ・シャーマニズム、老荘思想の「道」の概念、量子物理学マハトマ・ガンディーキング牧師などに多くの影響を受けている。
目次

1 歴史

2 ドリーミングの現れ

2.1 1次プロセスと2次プロセス

2.2 エッジ

2.3 センシェント


3 メタスキル

3.1 ドリームボディワーク

3.2 コーマワーク、臨死への取り組み

3.3 ワールドワーク


4 脚注

5 関連項目

6 外部サイト

6.1 グローバルプロセスワーク研究所

6.2 トレーニング提供組織

6.3 プロセスワーク出版

6.4 プロセス指向心理学国際協会

6.5 深い(深層)民主主義運動(DDM:Deep Democracy Movement)


歴史

プロセス指向心理学は1970年代後半に創始された。 それは、眠っているときに見る夢が、クライアントの身体的体験、特に身体症状に反映されるというミンデルの観察から始まる。彼は、空想、身体的な体験、背景から来る意図しない意味のあるシグナル、個人間の関係性などを広く含むものとして、「ドリーミング」という言葉を、多くの人に共有されているリアリティーと違った部分を広く一般的に表すものとして使用した。

ミンデルの物理学者として受けたトレーニングが、無意識現象学的にだけでなく象徴的にも見る視点をもたらした。さらには、情報理論の考え方を彼のクライアントの観察に適応するよう導いた。

この新しい視点によって、無意識というコンセプトが、一方で、意図しない言語的および非言語的シグナル全体の幅だけでなく、他方、個人が自己同一化しない、知覚信念、アイディアや、それがどう展開するかの過程を含む、プロセスという概念になっていった。

ミンデルはユング派の「増幅」手法であるアクティブイマジネーション(能動的想像法)や夢の解釈などの上に、非言語的、身体レベルの経験に、直接働きかける手法を加えることにより、彼のクライアントがこれらの形式の無意識の材料を統合するのを助けた。

老荘思想シャーマニズムから現代物理学にまで及ぶ領域で培われた認識のパターンを元に、ミンデルは、彼が「アンフォールディング(展開)」と呼ぶ過程を通して、クライアントに無意識的な体験に自己同一化することを励ます枠組みを開発した。

クライアントの命名された体験は、言語や視覚的なものだけでなく、ムーブメント(動作)、深い身体的体験、個人間の関係性、社会的なコンテキスト(文脈)に依拠している。この展開する過程(プロセス)は、クライアントの命名された体験の脱構築(ディコンストラクション)である。

1980年代初期に、彼のプロセスワークの同僚とともに、個人、カップル、家族に使用していた概念的枠組みを、大きなグループにおける、コンフリクトレゾリューション(葛藤、紛争解決)をファシリテートするのに使用し始めた。彼はこの新しい取り組みを表現するのに「ワールドワーク」という用語を創り出した。

1990年代終わり頃、ミンデルは初期の興味を持っていた物理学に再び立ち戻り、一方に心理学をもたらし、他方に量子、相対的な物理学を立ち上がらせている、その人類の根源的の共通な体験を理解する枠組みを、探索し始めた。また、現代物理学の思考様式をヒントに、心的現象の非局在性、非局所性ということを考えている。すなわち、個人の心に起こる出来事は、集団によって共有されたり、別の誰かの心の中にも起こりうるということを積極的に指摘し、個人とグループや世界の心理的なプロセスが、相互に影響を与え合っているとする枠組みでワークを行うようになった。

2000年代に入ってからは、心的プロセスの諸要素をベクトルとみなし、ベクトル演算になぞらえたワークを展開している。

2000年代後半に向けて、だんだんとベクトルの数が減っていき、1本になるのと平行してプロセスマインドという概念が登場。2009年のクラスやセミナーでは、この地球や宇宙の特定の場所とつながった取り組み、プロセスマインドの手法が中心的になりつつある。センシエント、エッセンスレベルもプロセスマインドと呼ばれる。センシエント、エッセンスレベル、プロセスマインドのご先祖様は、1990年代後半には消えつつあった、スピリチュアルチャンネルの概念にもあるかもしれない。[1][2]
ドリーミングの現れ

プロセス指向心理学では、人間の背後に「ドリーミング」と呼ばれる広大な無意識体が存在すると想定する。ドリーミングは以下のような形を取って現れるとされる。
1次プロセスと2次プロセス

クライアントが自ずから意識的である表現領域、自己同一化している部分を「1次プロセス」、無意識的であったり自己同一化してない領域を「2次プロセス」と呼ぶ。プロセス指向心理学では、この自己同一化されていない2次プロセスと意識に近い1次プロセスの両方を扱い、プロセスの全体性の回復を図ろうとする。2次プロセスの中には、普段周縁に追いやられ無視されている心の声があり、それらを統合的に捉えることでプロセスが全体的に展開すると考えるのである。
エッジ

クライアントが、ドリーミングが浮上してくるにつれて、現れてくるものプロセスをエッジと呼ぶ。エッジは身体的痛みや、恐怖感、眠気、権威や門などの形を取り現れる。エッジを扱う技法や考え方がとても多様で豊富なのがプロセスワークの特徴でもあるかもしれない。エッジを越えると、クライアントが自分に起きつつあるプロセスを理解することも容易になる可能性がある。
センシェント

センシエントの概念ができる前のプロセスワークは、1次プロセスと2次プロセスの対話、統合に比較的重点が置かれていた。しかし、それならば感情が切り離される前に、最初からクライアントがドリーミングとの繋がりを保つようにすることが本質ではないか、と考えられ「センシェント(エッセンス、微細)」の概念が登場することとなった。センシェントに注目することにより、対立を必ずしも必要としない統合の方向性が示された。

センシェントのレベルでは、シグナルになる少し前の部分に焦点をあてるため、物事はまだ症状などの具体的な形を取っておらず、こういったものの中には注意を払わないままにしておくと、問題、症状といった形で病理的に発展してくるものも多い。ふとよぎる直観や、微細な感覚など、「フラート」と呼ばれる領域や技法も比較的同時期に発表されている。この「背景」にいつも気付いている能力を「24時間の明晰夢」とアーノルド・ミンデルは呼んだ。
メタスキル

ある技法を使う時の、フィーリングや態度をメタスキルという。プロセスワークのメタスキルの一つに、「起こっている出来事はすべて意味を持っているので、できるだけ豊かな意味を見出そう」という、目的論的なものがある。そして意味とは解釈する側が押し付けるものではなく、あくまでクライアントが自ら納得できるようになるようサポートするものである。
ドリームボディワーク

「ドリーミング」のより身体密着的な形が「ドリームボディ」であり、これを「心」「体」に続く第3の概念とする。ドリームボディは、日常意識により抑圧、周縁化された自己などが夢や病などのチャネル(出入口)に現れた際に、それを拾い上げ、応用するワークの事である。

ワークの一例を挙げる。まずクライアントは現在患っている部位に気持ちを向ける。その部位の感覚を丁寧に感じた後に、何かのイメージが浮かんでくるまで待機する。すると身体感覚から浮上したイメージがドリームボディとなり、それが現れた意味や目的を想像するように促すのである。これがドリームボディ・ワークの基本的な手順である。
コーマワーク、臨死への取り組み

コーマ(coma)とは昏睡状態の事であり、コーマワークではこれらの人々の内的な旅をサポートしたり、コミュニケーションをとることを目指す。昏睡状態にあるクライアントはこちらに僅かなフィードバックを送っていることが多く、そのサインに対して気づきを向けることで、通常は難しいコミュニケーションを成立させることができることが多い。実際の治療現場では、この方法により、昏睡状態から覚醒に至るクライアントも現れている。[3]


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