プリニウス_(漫画)
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プリニウス
ジャンル
歴史漫画
漫画
作者ヤマザキマリ
とり・みき
出版社新潮社
掲載誌新潮45
新潮
くらげバンチ
レーベルバンチコミックス45プレミアム(新潮45)
バンチコミックス(新潮)
発表号2014年1月号 - 2018年10月号(新潮45)
2019年1月号 - 2023年3月号 (新潮)
巻数全12巻
テンプレート - ノート
プロジェクト漫画
ポータル漫画

『プリニウス』(ラテン語: PLINIVS)は、ヤマザキマリとり・みきの合作による日本歴史漫画[1][2]紀元1世紀ローマ帝国の著述家で、古代最大の博物辞典である『博物誌』を著した大プリニウスを描く[1]

新潮45』(新潮社)誌上にて2014年1月号(2013年12月18日発売)より連載を開始し[1]、同誌の休刊後は『新潮』(同社刊)に移籍して2019年1月号(2018年12月7日発売)より連載。2023年3月号(2023年2月7日発売)で完結。また、2018年12月28日より同社のwebコミック『くらげバンチ』でも掲載、閲覧が可能である。『新潮』での漫画掲載は本作が初の事例となる[3][4]
概要

プリニウスによる『博物誌』は、天文地理・動植物・文化技術一般に至るまでの世界のあらゆる事象を網羅しようとしたためられた古代における一大百科事典であり、中世に入って後も多くの学者・文人に愛読され、その記述を様々に引用されてきた。しかし実証主義の発達した近世以降は非科学的な内容の多さや荒唐無稽な怪物の記述などを批判されるようになり、見当外れで噴飯ものの「奇書」としてまともに顧みられることはなくなった[注 1]。しかしヤマザキ・とりは、自然現象や動植物の精緻な記述のある一方で幻想的・空想的なものも等価に扱う姿勢に着目し、科学性・合理主義にそぐわないものを切り捨てる近代的思考とは異なった編纂方針に関心を持ち、そのように物事を分け隔てなく扱う並列性を魅力と捉えている[6]

ただし実在のプリニウスがどういう人物であったかはあまり記録が残っておらず、作中の人物像はヤマザキが『博物誌』からイメージを膨らませて作った創作である[7]。ヤマザキはモデルとして19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍した日本の博物学者・南方熊楠を挙げ、「世界を丸ごと把握したいという好奇心とそれに傾けるバイタリティ」の強さをプリニウスとの共通点とし、両者を共に「愛すべき変人」と評している[8]。その他にもプリニウスに興味を持ったきっかけとして、ヤマザキ・とり双方がファンである作家・澁澤龍彦を挙げている[5]。作中では『博物誌』に記載されている半魚人(ネレイス)・マンティコーラス(マンティコア)・ウニコルヌス(ユニコーン)といった奇怪な生物達が実在のものとして登場し、さながらプリニウスの旅を遠巻きに見守っているかのように描かれる[9]

2024年に第28回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞する。
あらすじ

紀元79年、イタリア半島南部に位置するウェスウィウス山が大噴火を起こした。噴煙が天を突かんばかりに立ち昇り、あたり一帯が灰によって晦冥する中、しかしその様子を飽きもせずに眺める続ける男がいた。男の名はプリニウス。被害状況を視察するために近郊のヘルクラネウムに赴いたローマ帝国の高官であるが、街の住民が逃げ惑う中、この男のみはいささかも動じず噴火活動の観察に余念がなかった。泰然自若としたその姿は動揺を押し殺すための虚勢であるのか、はたまた自然の摂理を知悉する余裕によるものかは窺い知れない。それは書記のエウクレスにとっても同様であった。帝国西部艦隊の提督であり、ローマ世界を代表する文人であり、八宗兼学の博物学者である主。この世の森羅万象を知り尽くしたその頭脳が果たして何を思うのか、長く仕えてきた自分であっても知ることはできない。エウクレスがこの主と出会ったのも、奇しくも火山の噴火がきっかけであった――。

紀元62年、シキリア島マグナ・グラエキアに住んでいた青年・エウクレスはエトナ山の噴火により家を失い、属州総督代行として被害視察に来ていたプリニウスと邂逅した。泉のように湧き出るプリニウスの博物談義に魅了されたエウクレスは、誘われるままに口頭記述係となり、護衛兵のフェリクスと共にその従者となったのだった。やがてシキリア各地を巡察する中、プリニウスに首都ローマへの召還命令が下される。ローマでは皇帝ネロの暴政が日増しに激しくなっていた。若くして即位したこの皇帝は自らが帝権を持つ器でないことを自覚し、半ば自暴自棄となって懶惰な生活を送っていた。グラエキア(ギリシア)文化に耽溺し、愛妾・ポッパエアとの閨事に淫して、気に入らない者を片っ端から追放・処刑していた。常々皇帝を畏れようとしないプリニウスが気にくわず、宮廷に呼びつけられたプリニウスは例によって不遜な態度を崩さずにネロの不興を買う。しかし一方で、ネロはその該博な知識と帝威に決して媚びない気骨には一目置いていており、力ずくでも自身を宮廷に仕えさせようとしていると知ったプリニウスは、ひとまずローマを離れることにする。

エウクレスとフェリクスを伴い、プリニウスは南伊に足を向けた。ところがカンパニアに至るや井戸の水が枯渇し、夜空には赤い月が昇るなど、様々な異常現象が起こった。怪事に人々が慄く中、ウェスウィウス山の麓のポンペイで大きな地震が起こり、古の文献を渉猟したプリニウスはウェスウィウスがかつて火山であったという記録を見つける。現在は静かにそびえるかの山がもしも火山であるならば、今般の地震は来るべき大噴火の予兆やもしれぬ。ひるがえってローマの宮廷では、醜悪な政争が飽くことなく続いていた。かつては実母を手にかけたネロであったが、此度はポッパエアにそそのかされて后を自害に追いやったという。宮廷の醜聞はほどなくプリニウスの耳にも届き、叡智を幸福のために活かせぬことに憤激したプリニウスは、ウェスウィウス山に「目覚めよ!」と咆哮する。古の記録のごとくウェスウィウスが火山であるならば、その炎と煙と灰によってこの醜い世界を呑み込んでしまえば良い。噴き上げる地獄の業火が、愚かな人間どもに自らの所業を省みる機会を与えるであろう。

書物だけでは世界の実相はつかめないと考えたプリニウスは、未知の世界への探索行に出ることを決意する。地中海を船で南下したプリニウスは、中途で動物と心を通わせる奇妙な子供を拾い、アフリカに上陸する。カルタゴで旧知のアフリカ属州総督・ウェスパシアヌスと再会したプリニウスは、親衛隊長官・ティゲリヌスの噂を聞く。皇后の座を手に入れたポッパエアの引き立てによって最側近となったこの男は、ネロを享楽生活に溺れさせ、ポッパエアをも操り宮廷を壟断しているということだった。砂漠を渡ったプリニウス達は、エジプトピラミッドを探訪する。一行が古代文明の遺構に感嘆の声を上げる中、しかしローマでは大厄災に市民達が叫声をあげていた。帝都が大火に包まれ炎上するという、史上未曾有の大災害である。

猛火は市街の三分の二を焼き、「永遠の都」と謳われた栄耀は灰燼に帰した。旅先より急遽戻ったネロは災害復興の指揮を執るものの、市中にはネロが火をつけたという噂が立ち、悪政に憤懣を持つ市民の間で瞬く間に広まっていった。もはやネロの統治を容認できないとする有志達が皇帝暗殺を企てるも、直前で発覚。暗殺計画を知ったネロは逆上し、関係者のことごとくを惨刑に処す。大火の裏側には奸臣・ティゲリヌスの暗躍があった。ひそかにネロの破滅を目論み失脚させんとするこの男は、市民から反感を持たれているキリスト教徒をそそのかして火をつけさせたのだった。そして大火の真相に気づいたポッパエアをも死に追いやり、その死は惨禍による憔悴の中で平常心を失いつつあったネロを苛み、いよいよその精神を蝕んでゆく。プリニウスの旅はアフリカを離れ、ローマ文明の起源の地・グラエキアへと達した。ピラミッド・アレクサンドリアの大灯台と並ぶ七不思議として名高いヘリオスの巨像を見んとロドス島へと船を進めるもローマ兵に拘束され、オリンピア大祭に出場するためにコリントスに行幸していたネロと再会する。ケシ阿片の原料)の丸薬を常飲するようになったネロは、自らをヘリオスやアポロンさながらの太陽神と同一視するようになり、完全に心を病んでいた。ティゲリヌスの讒言にのせられて東部方面司令官・コルブロを自死させネロの行いは、市民に衝撃を与え、暴政の数々に憤激していた元老院もついにネロの治世を終わらせる決意を固める。
主な登場人物
プリニウス
本作の主人公。ローマ帝国の高官にして文筆家。卓越した知性と飽くなき好奇心の持ち主で、森羅万象のすべてを探求し記録することを生涯の目標と定める怪人物。博覧強記ともいうべき知識をその頭脳に詰め込んでいるものの、海に半魚人が現れたと聞けば飛んでゆき、昆虫の死骸や動物のフンを盛り込んだ不気味な薬の処方を延々と語るなど、奇行も多い。が、「変人学者」と嘲笑う声も意に介さず、探究心の赴くままに自らの信ずる学問の道を驀進している。偏屈者で、無学な俗物とのつきあいを好まない。誰に対しても飄々とした物腰を崩そうとせず、暴君ネロの御前においてもふてぶてしい態度を隠そうともしない。人間観察にはうってつけとして、酒場や娼館のごった返すローマ一物騒なトラステヴェレ地区に好んで邸を構えている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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