プランク分布
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黒体放射スペクトル

プランクの法則(プランクのほうそく、: Planck's law)は、黒体放射スペクトルに関する法則であり、量子力学の基本法則のひとつ[1]である。プランクの公式とも呼ばれる。この公式から導かれるスペクトルと温度特性は、全波長領域において、熱放射の実験結果から予想される黒体放射のスペクトルと一致する。

1900年ドイツの物理学者マックス・プランクによって導かれた。プランクはこの法則の導出を考える中で、物体が光を吸収または放射する時、そのエネルギーは、エネルギー素量(現在ではエネルギー量子と呼ばれている)ε = hν の整数倍でなければならないと仮定した。この量子仮説[2]量子化)は、その後の量子力学の幕開けに大きな影響を与えた。

より一般的な導入として、黒体の項目も参照
概要

プランクの法則において、黒体から輻射される電磁波の分光放射輝度は、周波数 ν と温度 T の関数として

I ( ν , T ) = 2 h ν 3 c 2 1 e h ν / k T − 1 {\displaystyle I(\nu ,T)={\frac {2h\nu ^{3}}{c^{2}}}{\frac {1}{\mathrm {e} ^{h\nu /kT}-1}}}

と表すことができる[3]。ただし、ここで分光放射輝度 I (ν, T) は、放射面の単位面積、立体角、周波数あたりの放射束を表しており、h はプランク定数、k はボルツマン定数、c は光速度を表す。分光放射輝度 I(ν, T) は hν = 2.82 kT の位置にピークをもち[4]、高周波数においては指数関数的に、低周波数においては多項式的に減少する。

また、分光放射輝度を全立体角について積分することで、分光エネルギー密度に関して

u ( ν , T ) = 4 π c I ( ν , T ) = 8 π h ν 3 c 3 1 e h ν / k T − 1 {\displaystyle u(\nu ,T)={\frac {4\pi }{c}}I(\nu ,T)={\frac {8\pi h\nu ^{3}}{c^{3}}}{\frac {1}{\mathrm {e} ^{h\nu /kT}-1}}}

と表すこともできる[5]。ここで分光エネルギー密度 u は単位体積、単位周波数あたりのエネルギーの次元(単位は J/(m3 Hz))を持ち、周波数が ν と ν+dν の間に存在する単位体積あたりのエネルギーは u(ν, T) dν によって与えられる。この式を周波数について積分すれば、全エネルギー密度を得る。黒体の輻射場は光子気体と考えることができ、その場合、全エネルギー密度は光子気体の熱平衡状態を指定する状態量の一つとなる。

プランクの法則において、分光放射輝度は波長 λ の関数として

I ′ ( λ , T ) = 2 h c 2 λ 5 1 e h c / λ k T − 1 {\displaystyle I'(\lambda ,T)={\frac {2hc^{2}}{\lambda ^{5}}}{\frac {1}{\mathrm {e} ^{hc/\lambda kT}-1}}}

という形であらわすこともできる[3]。ここで波長と周波数は λ = c/ν という関係式によって結びついている[6]。この関数は hc = 4.97 λkT の位置にピークをもつ。これはヴィーンの変位則でより一般的に用いられるピークである。

また、分光エネルギー密度についても、波長が λ と λ+dλ の間にあるエネルギー密度を u' (λ, T) dλ とし、波長 λ の関数として表示すれば、

u ′ ( λ , T ) = 4 π c I ′ ( λ , T ) = 8 π h c λ 5 1 e h c / λ k T − 1 {\displaystyle u'(\lambda ,T)={\frac {4\pi }{c}}I'(\lambda ,T)={\frac {8\pi hc}{\lambda ^{5}}}{\frac {1}{\mathrm {e} ^{hc/\lambda kT}-1}}}

と表すこともできる。ここで分光エネルギー密度 u' は単位体積、単位波長あたりのエネルギーである。

周波数範囲 [ν1, ν2] または波長範囲 [λ2, λ1] = [c/ν2, c/ν1] において放射される放射輝度は、I(ν, T) または I' (λ, T) の積分として求められる。

∫ ν 1 ν 2 I ( ν , T ) d ν = ∫ λ 2 λ 1 I ′ ( λ , T ) d λ {\displaystyle \int _{\nu _{1}}^{\nu _{2}}I(\nu ,T)\,\mathrm {d} \nu =\int _{\lambda _{2}}^{\lambda _{1}}I'(\lambda ,T)\,\mathrm {d} \lambda }

なお、周波数が増加するとき波長は減少するため、2つの積分では上限・下限が入れ替わっている。

次の表に、数式の中に現れるそれぞれの記号の定義とSI単位cgs単位を示す。

記号意味国際単位系cgs単位系
I, I'分光放射輝度 または エネルギー(単位時間表面積立体角、周波数(波長)あたり)J?s?1?m?2?sr?1?Hz?1, または J?s?1?m?2?sr?1?m?1erg?s?1?cm?2?Hz?1?sr?1, または erg?s?1?cm?2?sr?1?cm?1
ν周波数ヘルツ (Hz)ヘルツ
λ波長メートル (m)センチメートル (cm)
T黒体の温度ケルビン (K)ケルビン
hプランク定数ジュール?秒 (J?s)エルグ?秒 (erg?s)
c光速メートル毎秒 (m/s)センチメートル毎秒 (cm/s)
e自然対数の底, 2.718281...無次元量無次元量
kボルツマン定数ジュール毎ケルビン (J/K)エルグ毎ケルビン (erg/K)

歴史的背景

1859年、キルヒホッフは黒体の放射する輻射場の熱平衡分布は温度のみに依存することを明らかにし、その翌年、空洞放射が理想的な黒体輻射を実現することを示した。それ以降、ある温度 T における黒体輻射のエネルギー密度の分布を振動数 ν(もしくは波長 λ = c/ν)の関数として求めることが、実験と理論の両面から活発に進められた。プランクの公式以前、黒体輻射の分布式としては、レイリー・ジーンズの公式ヴィーンの公式が考案されていた。ヴィーンの公式はヴィルヘルム・ヴィーンが1896年に発表した公式であり、短波長(高周波数)領域においては実験データと一致するものの、長波長(低周波数)では一致しなかった。一方、レイリー・ジーンズの公式(1900年に不完全な形でレイリーが発表)は反対に長波長(低周波数)領域で実験結果とよい一致を示すものの、短波長(高周波数)領域では合わなかった。

マックス・プランクは1900年10月(論文発行は1901年[7][8][9])に、ヴィーンの公式より良い公式を得ようとする過程でプランクの公式を考案した。プランクによるこの公式は、全ての波長領域において非常によく実験データと一致した。次に、この法則の導出方法を構築する過程で、プランクは物質中の荷電振動子の異なるモードについて、電磁エネルギー分布を考えた。これらの振動子のエネルギーが離散的になっていると仮定したところ、プランクの法則を導出することができた。具体的には、エネルギーは振動数 ν に比例するエネルギー素量(エネルギー量子) E、すなわち

E = h ν {\displaystyle E=h\nu }

の整数倍の値のみ取りうるということである。

プランクはこの量子化の仮定を、アルベルト・アインシュタイン光電効果の説明のために光子の存在を仮定するよりも5年前に行っていた。


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