プラネタリー・バウンダリー(英: Planetary boundaries)は、人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念である。地球の限界[1]、あるいは惑星限界[2]とも呼ばれる。
プラネタリー・バウンダリーは、安全域や程度を示す限界値を有する9つのプロセスを定めている。人間活動が限界値を超えた場合、地球環境に不可逆的な変化が急激に起きる可能性がある。定量化できていないプロセスもあり、研究が進められている。科学者によってプラネタリー・バウンダリーにもとづく政策提案が行われており、持続可能な開発目標(SDGs)の内容にも採用された[3]。
提唱者の1人であるヨハン・ロックストロームは、プラネタリー・バウンダリーが人類による大惨事を防ぐためのものだとしており、崖道に付けられたガードレールにたとえている[4]。 18世紀の産業革命以降、石炭の燃焼による大気汚染をきっかけとして、人類が環境に与える影響についての研究や立法が進んだ[5]。国際社会で環境問題が論じられるようになったのは、20世紀後半からだった。1992年のリオデジャネイロの国連気候変動枠組条約、1997年の京都議定書をへて、2009年12月にコペンハーゲンで開催された気候変動枠組条約締約国会議(COP15)では各国の首脳が集まった[6]。 COP15の前に、プラネタリー・バウンダリーについての最初の論文が発表された。論文は、ストックホルム・レジリエンス・センター
背景
プラネタリー・バウンダリーは、持続可能な開発のための条件であり、「人類のための安全動作領域」を定義するフレームワークとして考えられた。政府、国際機関、市民社会、科学界および民間部門を含む国際社会に向けた提案でもあった[8]。このフレームワークは、産業革命以降の人間の活動が、地球環境の変動の主な要因となってきたことを示す。地球にとっての安全域や程度を示す限界値を有する9つの地球システムを定義しており、いくつかはすでに人類の活動によって限界値を超えており、それ以外も差し迫った危機にある[9]。しかし当初はビジネスや政策担当者への影響は少なく、COP15の参加国は温室効果ガスを防ぐための合意を達成できなかった[注釈 2][11]。
2012年、ロックストロームは写真家・映画監督のマティアス・クルム(英語版)との共著『人類の挑戦:プラネタリー・バウンダリーの範囲内での繁栄』を出版し、プラネタリー・バウンダリーの概念を再び提案した[注釈 3]。この本は同年にリオデジャネイロで開催された国連持続可能な開発会議(英語版)で各国代表に渡された。政策立案者の間でプラネタリー・バウンダリーの理解が進み、オックスファムや世界自然保護基金(WWF)、NGOのフォーラムでも注目されるようになっていった[13]。 プラネタリー・バウンダリーの特定にあたり、科学者グループが検討を行い、50以上の候補から最重要なプロセスを9つ選んだ。この9つは、機能によって3種類のグループに分けられる[14]。 気候変動、成層圏オゾン層の破壊、海洋酸性化が含まれる。これらには明確な閾値があり、ある状態から別の状態に急激に移行すると地球全体に影響を与える[15]。 土地利用の変化、淡水利用、生物多様性の損失、生物地球化学的循環(窒素とリンの循環)が含まれる。これらは緩やかな限界値とも呼ばれ、地球システムのフィードバックを支えている。第1グループが地球全体の変動であるのに対して、限定された地域の限界値に関係している。地球規模での独自の閾値はないが、複数の組み合わせによって急激な変化がありうる[15]。 大気エアロゾルの負荷化学物質、重金属や有機化学物質による生物圏の汚染が含まれる。これらは多数のプロセスに関連するため、閾値の設定を定めるための研究が進められている[15]。 ロックストロームらは2009年の発表で、見逃しているものやプラネタリー・バウンダリーではないものが含まれているかを科学界に問題提起し、制作立案者、ビジネスリーダー、市民にも精査を求めた。その結果をもとに、2014年に9つのプロセスが適切であると結論づけた[16]。 9つのプロセスの中で、気候変動、生物多様性の損失、生物地球化学的循環は2009年時点で限界を超えたともいわれている[17]。 プラネタリー・バウンダリー[18]
分類
地球的な閾値が明確に定義されたグループ
緩やかに変化する地球環境にかかる変数にもとづくグループ
人類が作り出した脅威
地球システムでのプロセス制御値[19]限界値現在値限界値を超えた?産業革命以前の値コメント
1. 気候変動大気中の二酸化炭素濃度(ppm)[20]350400はい280[21]
産業革命以来(1750年以降)の放射強制力の増加量(W / m2)1.01.5はい0[22]
2. 生物多様性の損失絶滅率(年当たりの種数)10100はい0.1-1[23]
3. 生物地球化学的循環(a) 人為的に大気中から除去された窒素の量(年間あたり百万トン単位)35121はい0[24]
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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