プラセンタ
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この項目では、胎盤を原料とした医薬品や外用製品や食品について説明しています。胎盤、英語でPlacentaについては「胎盤」をご覧ください。

プラセンタは本来は胎盤という意味であるが、日本では胎盤抽出物を主成分とした製剤や商品の名称として使用されている。プラセンタエキスや胎盤抽出物や胎盤漿(英語: Placental Extract, Placenta Extract[1])などとも呼ばれる。処方箋医薬品になっているものや、化粧品、健康食品として市販されている製品も存在する。
歴史

胎盤はクレオパトラ楊貴妃マリー・アントワネットが美容目的で使用したとか、始皇帝が不老不死を求めて使ったとも言われるが、真偽は定かではない[2]。紫河車(生薬としてのヒト胎盤)について、文献上確認できるものは、唐代の『本草拾遺』や明代の薬学書『本草綱目』(1596年)で言及されているのが初で、朝鮮半島では古く『東医宝鑑』(1613年)にも記載があり、こうした医書は江戸時代の日本にも影響を持った[2][3]。東洋では、ヒトの胎盤(英語:human placenta、ラテン語:Placenta Hominis)は生薬として紫河車(しかしゃ)と呼ばれ、他の呼称として人胞、包衣、胞衣、胎胞、胎衣、人胎、河事、胞屋、京河車、温河車、杜河革、白河率、草河率、仙人衣、混沌衣、混元母、沸架裟、鮮胞衣がある[4]

漢方薬としては、前田綱紀は1670年(寛文10年)に、加賀の三味薬(万病円、紫雪、鳥犀円)の調剤販売を、中屋、福久屋、宮竹屋に許可したが、この中屋の初代の彦左衛門が混元丹を作り明治に入っても人気は衰えなかったが、混元とは胎盤のことである[5]。他説では彦左衛門の子の彦兵衛が1579年(天正7年)に家伝の混元丹を製造し商売をはじめたという[6]。中国では紫河車(ヒト胎盤)を配合した「紫河車大造丸」は医薬品の扱いである[3]。「牡荊子丸」は牡荊子(ニンジンボク果実)、山薬(ヤマイモ)、紫河車を原料としている[7]

近世では、旧ソ連のオデッサ大学教授で眼科医であった V. P. フィラトフ(1875-1956)が埋没療法として、1920-1930年頃に疾病の治癒に胎盤を使うと高い治療効果を発揮すると提唱している。また、同じ旧ソ連の病理学者の A. D. スプランスキー(1844年-没年不明)も『神経病理学』という著書で胎盤のもつ治療効果について言及している[2]。1960年代以降、ソ連での研究は途絶えた。日本では、京大医学部の三林隆吉が、1943年に国家命令で高度栄養剤を開発し、1945年にはこのヒト胎盤を使った栄養剤について海軍が武田薬品工業に製造を依頼したところで終戦が訪れ製造中止したが、これは1955年には経口の栄養剤ビタエックスとして発売され一般医薬品となった[2]。1956年には注射薬のメルスモン、1959年にラエンネックの承認を得た。三林とは別に、秋田大学初代学長の九嶋勝司は、旧ソ連の埋没療法を研究し1977年にスノーデン株式会社を設立、胎盤を原料として配合した医薬品から化粧品、健康食品を製造している[2]。日本胎盤臨床研究会、大韓胎盤臨床研究会などでも研究が行われる[2]
原料原料となるヒトの胎盤。母体中の胎盤の図。紫河車。ヒト胎盤は乾燥させて生薬として用いられる。

各種プラセンタ製品の原料としては、ヒト胎盤と家畜の胎盤が使用される。
ヒト胎盤

日本では、ヒトの胎盤は、産婦人科で出産時に排出されたものが冷凍保存され、定期的に業者が回収している[8]。病院側もどういった用途に使用されるのか把握しておらず、妊婦にも使用の承諾を取っていないケースが多い[8]。行政も病院で廃棄された胎盤の取り扱いについてあいまいな表現している[8]。例えば厚生省は、胎盤は医療廃棄物として出されば廃棄物であるが、回収して有効利用する場合は廃棄物には該当しないしている。また、手術で摘出された臓器などと同様に人体の一部のため、その取扱いには人道上の配慮が必要と釘を刺している[8]。妊産婦の了解のないまま胎盤を再利用し、商品を製造することに懸念を示す意見もある[8]。1990年代にヒトプラセンタエキスを製造・卸販売していた目黒研究所によれば当時の製造工程で、500グラムのヒト胎盤から26mlの胎盤エキスが抽出された[8]

日本で1990年代には高級化粧品や育毛剤、滋養強壮ドリンク剤にヒト胎盤エキスも使われていた[8]。日本では2003年の法改正により、ヒト組織由来の製品を使用した場合に記録保管の必要が生じ[9]、診療を伴う医薬品以外では家畜の胎盤が使われるようになった。

処方箋無しで購入できる一般用医薬品でも過去にヒト胎盤抽出物を原料として使用していた[10]。しかし法改正を機に自主回収され他の家畜の胎盤を使用するようになった[11]。中国では『中華人民共和国葯典一部』に収載され医薬品の扱いである[3]。偽物も多く流通しており、ヒト胎盤として中国、香港、台湾で購入した10個を分析した調査では、うち5個が本物とされたが、残り5つはヒトDNAなどが検出されず偽物とされた[12]。また本物とされた5つのうち1個はデンプンが混入されていたので要求水準を満たさない品質であった[12]。動物のDNAは10個すべてから検出されなかった[12]
家畜の胎盤

ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜の胎盤が使用され、日本では豚と馬の胎盤が主に使われる[13]。食用の豚の胎盤は流通が安定しているが、食用の頭数が少ない羊や馬の胎盤は流通が安定せず高額である[14]。日本ではかつて牛の胎盤も使われていたが、牛海綿状脳症 (BSE) が確認されたことから安全性が疑問視され、その後は牛以外の家畜の胎盤を使用している[15]。羊も牛と同じ反芻動物であることよりBSEのリスクが懸念されている[15]。豚については国産SPF豚だけを原料に用いた製品も販売されている[16]。胎盤の原料となる家畜は、ウマの方がいい、ブタの方がいい、などと宣伝されていることがあるが、根拠は示されていない[13]

冷凍乾燥された豚胎盤と熱乾燥された豚胎盤を比較した調査では、冷凍乾燥の豚胎盤から主要な性ホルモンのエストラジオールやプロゲステロンとテストステロン(男性ホルモン)を検出し、抗生物質の残留はなく、熱乾燥よりも栄養に優れているとされた[17]。殺菌・加熱処理をされていない家畜プラセンタ成分が、加熱処理済みの製品より有効性に勝るとして販売されことがあるが、日本健康・栄養食品協会(JHFA)が定めた「プラセンタエキス」および「プラセンタエキス純末」の基準を満たさず、安全上の問題がある[13]
注射薬ラエンネックメルスモン

2019年現在、日本で認可された注射薬としてはメルスモンとラエンネックがある。原料のヒトの胎盤から製造され微黄色透明である。

適応症はそれぞれ以下である(適応症がない場合には自由診療(自費診療)となる)。

メルスモン MELSMON - 更年期障害、乳汁分泌障害

ラエンネック LAENNEC - 慢性肝疾患における肝機能の改善

メルスモンの原料には、臍帯及び羊膜は含まれず、ラエンネックには含まれている。メルスモンとラエンネックは、原料としてヒトの胎盤が使用され共に提携先の日本の病院から感染症がないと判断された母体の胎盤が提供され原料として使用されている[14]美容外科形成外科,歯科でも使用されることがある[18]。ラエンネックとメルスモンには大きな違いはないという意見もある[19]
メルスモン

メルスモン (MELSMON) は、1956年(昭和31年)に販売開始され、1959年(昭和34年)に薬価収載されている[20]。販売はメルスモン製薬株式会社。日本、韓国、ロシアで使用されている[21]。1日1回2mLを毎日または隔日に皮下注射して使用する[20]


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