ブローバック
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ブローバック(英語: Blowback)とは、燃焼ガスの圧力で後退する薬莢の運動を利用した自動装填式銃器の作動方式の一形態である。自動装填式作動方式の中では比較的単純な構造を持ち、主に自動拳銃短機関銃自動小銃等に採用されている。

日本語においても英語を元にしたカタカナ表記で「ブローバック(方式)」と表記されることが通例だが、「吹き戻し方式」という呼び方もある。

ブローバック作動方式は遊底を機械的に閉鎖する機構を持たず、薬莢の後退によって直接遊底を動かす方式であり、この点がショートリコイル等の他の作動方式との根本的な相違点である。

なお、遊底の後退を遅延させる機構を持たないものをシンプルブローバック、遊底の後退を遅延させる機構を持つものを総称してディレードブローバックと区別する。単にブローバックと言った場合は、シンプルブローバックを指す場合が多い。
概要

金属薬莢の実用化以降、さまざまな自動装填機構を持った銃器が考案されたが、ブローバック作動方式を採用した銃器で記録に残る最古のものは1897年にブローニングが特許を取得した自動拳銃( ⇒U.S.Patent580,926)である。この銃は、後にデザインが変更されFN M1900として市販化された。その後ブローバック作動方式は中、小型拳銃を中心に広まっていった。

短機関銃では第一次大戦において、ビラール・ペロサM1915MP18等に、第二次大戦においては、MP40ステントンプソンPPSh-41等各国に採用され、戦後も多くの短機関銃の作動方式として採用された。

小銃では、.22LR弾を使用する小口径の銃にストレートブローバックが採用された。戦後には、ディレードブローバックがスペイン製のセトメ・ライフルで採用され、これを改良したH&K G3からは多くの派生型が発展した。その他にも少数の軍用自動小銃等に採用された。

現在は、主に.380ACP弾以下の威力の弾薬を使用する自動拳銃や、短機関銃、自動小銃等に使用されている。

FN ブローニングM1900シンプルブローバック

FN ブローニングM1900の内部機構の図

MP18シンプルブローバック

MP40シンプルブローバック

H&K G3ディレードブローバック

作動機構

銃弾が発射される際には、燃焼ガスの圧力が銃腔内の全方向へ掛り、弾丸を銃口側へ前進させる。また同じ圧力が薬莢にも掛り、遊底の包底面を押して後退させようとする。この際、弾丸が銃口を離れる以前に遊底が後退し薬莢が薬室から抜け出てしまうと、銃腔内の高圧ガスが漏れ出し危険な状態となる。このため、銃腔内の圧力が安全域に下がるまでの間、遊底の後退を抑制する機構が自動装填式銃器には必要となる。

ブローバック作動方式では、発射の際に後退する薬莢の後退運動を遊底の質量と復座ばねの弾性力によって抑制し、弾丸が銃口を離れるまで薬莢が薬室から完全には抜け出さないようにする機能を持つ。

発射直後から薬莢は発射ガスの圧力により後退を始めるが遊底と復座ばねにより後退速度が抑制され、伸展性を持つ真鍮などで作られている薬莢は薬室内に密着するため、弾丸が銃口を出るまで銃腔内の発射ガスは漏れ出さない。薬莢は、弾丸が銃口を離れるまで遊底を押しながら後退し、弾丸が銃口を離れた後はそれまでの慣性により後退を続ける。その後、薬莢と遊底は慣性により復座ばねを圧縮しながら後退し続ける。その途中、薬莢は排出され、遊底は最後尾まで後退した後に圧縮した復座ばねの力により前進、次弾を弾倉から装填し再び遊底は最初の位置へ復帰する。

上記がブローバック作動方式の原理であり、発射ガス圧により薬莢が遊底を押して後退させることが、ブローバック(blowback:吹き戻し)の語源となっている。
動作例

下記は、シンプルブローバックの作動模式図である。シンプル・ブローバックの動作
図I 発砲直前の状態。遊底と復座ばねによって支えられた弾薬が、銃身の後端(薬室)に装填されている。

図II 薬莢内の火薬が発火して燃焼ガスが発生し、銃腔内の全方向へ膨張しようとする圧力が発生する。燃焼ガスの圧力により弾丸は銃口方向へ移動を開始する。同時に薬莢にも同じ圧力が掛り遊底を押し後退させ始める。薬莢はガス圧により薬室内に密着し、燃焼ガスが漏れ出すことを防いでいる。

図III 銃腔内では発射薬の燃焼により燃焼ガスの圧力が高まり弾丸が加速される。同じ圧力を薬莢も受け後退する。薬莢の後退速度は、弾丸より質量の大きい遊底と復座ばねの弾性力により、弾丸の速度より低く抑制されている。

図IV 弾丸が銃口を離れると、銃腔内の燃焼ガスは大気中へ放出され圧力は急激に低下するが、薬莢と遊底は慣性により、復座ばねを圧縮しながら後退を続ける。

図V 薬莢と遊底は自身の持つ慣性により復座ばねを圧縮しながら後退を続け、薬室から薬莢が抜け出る。この時点では、すでに銃腔内の圧力は安全域まで下がっている。

上記5の動作後、遊底は後退を続け、薬莢は排莢機構(駐筒子=エキストラクター、蹴子=エジェクター)により排出される。理論上、シンプルブローバック方式ではエキストラクターが無くても薬莢の後退・抽出は可能である。その後、遊底は終止位置まで後退し圧縮された復座ばねの力により前進へ転じ、次の銃弾を弾倉から押し出す。押し出された銃弾は銃身薬室に装填され、遊底は銃身後部へ当たり図Iの状態へ復帰する。
特徴

ブローバック作動方式は他の作動機構に比べ下記の特徴を持つ。
比較的簡略な構造
銃身と遊底を機械的に閉鎖する機構が不要で、部品点数を少なくすることが可能。特にシンプルブローバックは、自動装填機構で最も簡略な機構となる。これは戦時中においてはその国全体の急速かつ大量に拡大する拳銃需要に応える事にも大きく貢献する結果ともなる。
高威力弾薬への対応が困難
薬莢が火薬の発火の直後から後退を始めるため、高威力の弾薬への対応が困難。ブローバック作動方式では、発射ガスの圧力が掛った状態で薬莢が後退するため、後退が速すぎた際には脆弱な薬莢側面の露出が早まりガス圧により裂け、発射ガスが漏れる等の問題が発生する場合がある。この問題点により拳銃では物理的な大きさの制限から、シンプルブローバックでは.380ACP弾程度の威力の弾薬までが一般的な使用では限界となっている。.380ACPより強力な
9mmパラベラム弾等を使用した例では過去に、シンプルブローバックでAstra mod.400、H&K VP70等、ディレードブローバックではH&K P7等がある。しかし、Astraでは強い復座ばねのため遊底の操作により強い力が必要となり、VP70ではライフリングの谷の部分を深くし発射ガスの圧力を下げたため弾丸の威力低下、P7ではガスシリンダーからの発熱が射手の手に伝わる等の問題が発生しており、現在も使用されている例は少ない。大口径の自動小銃では使用弾薬が高圧かつ薬莢の全長が長いため、薬莢の前半部分が薬室に張り付いたまま後退できず、薬莢が引き千切れる問題が発生する場合がある。このため、H&K G3、FA-MAS等、高圧な弾薬を利用するディレードブローバック方式の多くは、薬室内壁に“フルート”と呼ばれる溝を設け、発射ガスの一部をここに導いて薬莢側筒部の張り付きを防ぐ工夫が施されている。
薬室閉鎖機構の搭載が困難
上記の理由に合わせて、ショートリコイル方式のように火薬の燃焼が完了するまで薬室を完全に閉鎖しロックしておく機構(ロッキングブロック)を設ける事が難しい(原理的には不可能に近い)為、ボトルネックを設けて装薬量の増大や弾頭の小径化による発射初速の増大を狙った弾薬の採用が困難ともなる。数少ない例外として太平洋戦争大東亜戦争)中の大日本帝国において、ボトルネックを持つ8mm南部弾を使用する関係上、ロッキングブロックの搭載が必須となり生産性の低下が欠点ともなっていた十四年式拳銃九四式拳銃を更新する目的で、軍部が民間の浜田銃砲店(浜田文次)に開発を依頼した浜田式自動拳銃(二式拳銃)が8mm南部弾でシンプルブローバックを採用する事に成功しているが、これは当時の銃側の冶金技術の未熟さの問題により8mm南部弾が.32ACP[1] 程度の装薬量しか持たせられていなかった為に実現出来た事であった。一般的に閉鎖機構を備える構造の銃は閉鎖機構が作動し薬室が完全閉鎖されなければ撃鉄や撃針が作動しない安全機構を備えている場合が多いが、原理的に閉鎖機構の搭載が困難なブローバック方式ではこのような多重安全機構を備える事も困難となり、相対的な銃の安全レベルが他の方式に比べて劣りがちになるという結論ともなる。
銃身の固定が可能
ショートリコイル作動方式等のように銃身を可動させる必要がなく固定が可能。銃身を固定でき、またガス圧作動方式のように銃身にピストン等の部品が付属しないため、比較的集弾性能を上げやすい。
質量変化に起因する動作不良
発射ガスの圧力と、遊底の質量および復座ばねの弾性力との均衡が動作に影響するため、これら基本条件が変動すると動作不良が発生しやすい。これにより他の方式と比べてその銃の開発時に使用された装弾と同規格ながらも、弾頭重量・装薬量の異なる装弾(増装弾や減装弾など)へ対応する事が困難となる場合がある。

Astra mod.400

H&K VP70

FA-MAS

シンプルブローバック方式

シンプルブローバックはブローバック作動方式の基本となるものである。ストレートブローバック、単純吹き戻し方式とも称される。遊底の後退速度を低減する機構を持たないため、銃弾の威力へは遊底の質量と復座ばねの弾性力のみで対応する。このため拳銃では使用できる弾種は限られ、例外は存在するがその多くは.380ACP弾以下の力である。短機関銃では、遊底の質量や複座ばねの弾性力等の設計自由度が拳銃に比して高いため、拳銃弾としては比較的高威力の9mmパラベラム弾、.45ACP弾.40S&W弾等を使用した例も多い。

また、比較的低威力の.22LR弾等を使用した自動装填の銃は、拳銃、小銃ともにシンプルブローバックを採用したものが大半である。

採用例:FN M1910UZIスタームルガーMkIM1短機関銃 等多数


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