ブレベトキシン (brevetoxin, BTX) は神経性貝毒に分類される毒で、有毒渦鞭毛藻のカレニア・ブレビス(Karenia brevis、旧分類では Gymnodinium breve)が産生する環状ポリエーテル化合物である。神経細胞の電位依存性ナトリウムチャネルに特異的に結合し、活性化を促して正常な神経伝達を阻害する。 ブレベトキシンは多数のエーテル環が trans 縮環した梯子状の構造を持つ。大きな分子であるが重合体ではない。現在までに10の異なるブレベトキシン類が報告されており、これらはグループAとBの二つに大別される(いずれにも属さない誘導体もある)。ブレベトキシンAは最大9員環を含む10個の環を、同じくBは8員環までを含む11個の環を持つ。 ブレベトキシン Aブレベトキシン B 他のブレベトキシン: ブレベトキシンの構造解明や、その合成は容易な試みではなかった。ブレベトキシンBは中西香爾によって1981年に初めて構造が決定され[1]、1995年にはキリアコス・コスタ・ニコラウらによって123の段階を経て全合成された[2][3][4][5][6]。一方、ブレベトキシンAは清水譲とジョン・クラーディによって1986年に構造決定され[7]、1998年に同じくニコラウらが全合成している[8]。 ブレベトキシンは複雑な骨格から有機合成化学者のターゲットとなっており、ニコラウらによる全合成の達成以後も、中田忠ら[9]や山本嘉則ら[10]によるブレベトキシンBの全合成や、Crimminsら[11]によるブレベトキシンAの全合成が報告されている[12]。
構造
構造ブレベトキシンAブレベトキシンB
サブタイプ
ブレベトキシン-1 (PbTx-1): R = − CH 2 C ( = CH 2 ) CHO {\displaystyle {\ce {-CH2C(=CH2)CHO}}}
ブレベトキシン-7 (PbTx-7): R = − CCH 2 C ( = CH 2 ) CH 2 OH {\displaystyle {\ce {-CCH2C(=CH2)CH2OH}}}
ブレベトキシン-10 (PbTx-10): R = − CH 2 CH ( − CH 3 ) CH 2 OH {\displaystyle {\ce {-CH2CH(-CH3)CH2OH}}}
ブレベトキシン-2 (PbTx-2): R = − CH 2 C ( = CH 2 ) CHO {\displaystyle {\ce {-CH2C(=CH2)CHO}}}
ブレベトキシン-3 (PbTx-3): R = − CH 2 C ( = CH 2 ) CH 2 OH {\displaystyle {\ce {-CH2C(=CH2)CH2OH}}}
ブレベトキシン-8 (PbTx-8): R = − CH 2 COCH 2 Cl {\displaystyle {\ce {-CH2COCH2Cl}}}
ブレベトキシン-9 (PbTx-9): R = − CH 2 CH ( CH 3 ) CH 2 OH {\displaystyle {\ce {-CH2CH(CH3)CH2OH}}}
ブレベトキシン-5 (PbTx-5):PbTx-2と同じ骨格構造で、37位(K環)のヒドロキシ基がアセチル化されている。
ブレベトキシン-6 (PbTx-6):PbTx-2と同じ骨格構造で、27-28位(H環)の二重結合がエポキシドになっている。
参考文献[脚注の使い方]^ Lin, Y.-Y.; Risk, M.; Ray, S. M.; Van Engen, D.; Clardy, J.; Golik, J.; James, J. C.; Nakanishi, K. (1981). “Isolation and structure of brevetoxin B from the “Red Tide” dinoflagellate Ptychodiscus brevis (Gymnodinium breve)”. J. Am. Chem. Soc. 103 (22): 6773?6775. doi:10.1021/ja00412a053
^ Nicolaou, K. C.; Theodorakis, E. A.; Rutjes, F. P. J. T.; Tiebes, J.; Sato, M.; Untersteller, E.; Xiao, X.-Y. (1995). “Total synthesis of brevetoxin B. 1. CDEFG framework”. J. Am. Chem. Soc. 117 (2): 1171?1172. doi:10.1021/ja00108a051