ブルーカーボン
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ブルーカーボン(英語: Blue Carbon )とは、海洋生態系に隔離・貯留される炭素のことである[1]。また、海洋生態系によって海中に蓄積される炭素固定能のことを指す場合もある[2]
概観海洋に生息する生物の例、ジャイアントケルプ

ブルーカーボンとは、海藻海草植物プランクトンなどが主に光合成によって、大気中から炭素二酸化炭素 CO2)を取り入れ、それを従属栄養生物が利用するという一連のプロセスの中において、海洋生態系に吸収され固定される炭素のことである[3]。また、その炭素固定能のことについて指す場合もある[2]。ブルーカーボンは、陸上に存在する森林などに蓄積される炭素であるグリーンカーボン(英語: Green Carbon )の対語であり、2009年に国連環境計画( UNEP )によって命名された[4]
炭素の隔離のプロセス

海中のCO2の分圧が大気のCO2の分圧より小さくなると、大気から海中にCO2が吸収される[5]

海中のCO2の分圧は、有機物の分解によるCO2放出によって高まったり、海洋植物の光合成などによって低下したりする[6]。淡水に溶けるCO2が1.45g/リットルなのに対し[7]、海水中では溶存CO2とは別に、炭酸水素イオン(HCO3-)や炭酸イオン(CO3 2-)の形で[8]、重量あたり100倍以上のCO2を吸収していることが知られている [9]

海中のCO2は藻場などの藻類が光合成により体内に取り込み、有機炭素を生成する。生成された有機炭素は砂泥底に埋没することで長期間貯留される[10]
ブルーカーボン生態系

地球上の生物により固定される炭素のうち 55% がブルーカーボンであり[11]、炭素を隔離・蓄積する作用(炭素固定能)を持った海洋生態系のことを、特にブルーカーボン生態系と呼ぶ[12]。ブルーカーボン生態系の生息場は地球上の海底の 1% 未満であるが、それは海洋堆積物中における全炭素貯留量の 5% 以上に及ぶ炭素を含む[11]
以下に、その生息場の例と特徴などについて示す。
マングローブ林ザンジバルのマングローブ

マングローブとは、熱帯及び亜熱帯潮間帯に形成される植物群落のことである[13]。特に、世界のマングローブ林の2割以上は、熱帯地域に位置する多数の島々から成っているインドネシアに集中して存在している[14]。また、インドネシア、フィリピンマレーシア東ティモールパプアニューギニアソロモン諸島の6か国にまたがる三角形の地域は、コーラル・トライアングル(英語版)と呼ばれ、世界の海洋中でマングローブを含めた生物多様性が最も高い地域である[14]。マングローブは、熱帯雨林や温帯林(英語版)などと比較して高い炭素貯留能力を持っている[15]。また、マングローブ林は林齢が上昇するに伴い、炭素の貯留能力が増加すると判明しているが、エビ養殖に利用されたり、工場用地や住宅用地のために埋め立てられるなどして、マングローブ林の面積は世界的には急減しているが[注釈 1][15]、我が国では沖縄県全体においては増加傾向にある[16]

マングローブ林における炭素貯留は、木質部への吸収よりも土壌中での堆積の部分が大きいことから、マングローブ林を開発した場合には土壌中に存在する大量の二酸化炭素が大気中に放出される可能性がある[17]。 UNEP は、マングローブ林の破壊行為は年間に最大で42億US ドルの経済的損失をもたらすとして、REDD+ (英語版)と同様の取り組みを促進している[18]
塩性湿地・干潟

日本の塩性湿地植物には、アッケシソウ、シチメンソウ、ハママツナシオクグアイアシヨシなどがある[19]塩性湿地植物は一般的に塩分排出能力が高いため、海水中においても水を吸収することが可能である[19]。ただし、過湿条件や高い塩分濃度に対する耐性がにより異なることから、潮位や地面の高さに沿うように、耐性の高さに応じて、帯状に分布する[19]。日本の干潟は既に1945年以降4割が消失してしまっている[20]
藻場(もば)

沿岸域は有機物の分解の過程でCO2が発生するため、従来は排出源と目されていた。

しかし藻場の海藻類による光合成により水中のCO2が隔離され、正味では沿岸域は吸収源となりうることが報告されている[21]

藻場とは、岩礁で発達した海藻(かいそう)のコンブワカメ、静穏で浅い砂泥性の場でよく発達した海産種子植物[注釈 2]である海草(かいそう/うみくさ)のアマモなどで構成される群落と、それを基礎とした生物群集や環境のことである[22][23]。ただし、海藻類のみで構成されるものを海藻藻場[24]、海草類のみで構成されるものは海草場[25]のように区別して表記をすることがある[23]。また、特に熱帯性の小型海草類で構成されるものを熱帯海草藻場という(日本では奄美大島以南に見られる)[23]。さらに、構成する海藻や海草によってアマモ場、アラメ・カジメ場、ガラモ場、コンブ場などとも表記される[注釈 3][22][23]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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